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【ウクライナ情勢】優位に立っていたはずのロシア軍が苦戦するのはなぜか。プーチン氏の誤算

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ウクライナ軍が使うのはソ連崩壊の引き金となったミサイル

ウクライナ軍が使っているのはバルト三国のラトビアとリトアニアから供与された携帯式防空ミサイルシステム「スティンガー」。全体でも約15キログラムと軽量なこのミサイルは1980年代、アフガニスタンでソ連軍の攻撃ヘリを撃墜し、ソ連崩壊の引き金となった。米英やエストニアから供与された携帯式対戦車ミサイル「ジャベリン」と軽量の「NLAW(次世代軽対戦車兵器)」が戦車部隊をはじめとするロシア軍機械化部隊の進撃を阻んでいる。

これまでヘルメット5千個しかウクライナに供与してこなかったドイツも旧東ドイツ時代のソ連製携帯式地対空ミサイルシステム「ストレラ」2700基を送る。ウクライナ自身もヘリや低空飛行のジェット戦闘機を撃ち落とせるストレラを保有している。ウクライナ軍参謀本部のフェイスブックによると、これまでにロシア軍機44機とヘリ48機を撃墜したという。トルコからは無人戦闘航空機「バイラクタル TB2」が供与されている。

「しかしロシア軍が今後も苦戦すると結論付けるのは賢明ではない。とはいえ戦争の第一印象は重要だ。自国を守る者の士気と決意は侵略者のそれを上回る。ウクライナ人が本気で国を守ろうとしていること、回復力があることが分かった。ロシアは精密誘導ミサイルの在庫を失い、市街戦に引き込まれ、戦闘は残忍になる恐れがある」。攻撃には防衛の3倍の戦闘力が必要とされる上、ウクライナには陸路で武器や志願兵が途切れることなく供給されている。

「ウクライナ東部での限定的な作戦は維持できる地域を切り取るという意味である程度、理に適っていた。しかし現在の作戦は政権交代を必要とするため、あまり意味をなさない。米英はイラクとアフガンでこれがいかに難しいかを学んだ。占領軍の後ろ盾なしに従順な人物を大統領に据えて長続きさせられると考えるのはウクライナの国民性の根源を理解できていない人たちだけだ。ロシアには長期間、占領軍を維持する人数も能力もない」という。

フリードマン氏は「新型コロナウイルスの感染と妄想が作り上げたウクライナを恐れる孤独な人物(プーチン氏のこと)の異常な事情と性格のため、すでに多くの命が失われた。プーチン氏は独裁政治が大きな過ちを招く恐れがあることを思い起こさせる。ロシアでも民主主義による政権交代が起こってくれればいいのだが…」と締めくくっている。しかしプーチン氏にはプーチン氏なりの計算があったはずだ。

ウクライナ国民の政府信頼度は世論調査で3割弱だった

AP

英シンクタンク、王立防衛安全保障研究所(RUSI)のニック・レイノルズ、ジャック・ワトリング両氏は今年2月にロシア連邦保安庁(FSB)がウクライナ各地で実施した世論調査の結果を分析している。ロシアの軍事力増強が必ずしも侵略につながるとは考えていなかった人が回答者の9割にのぼり、ウクライナ国民の大半がロシア軍の侵攻に不意をつかれていたことがうかがえる。

世論調査の結果は、ウクライナ人は概して将来に悲観的な上、政治に無関心で、政治家や政党、ウクライナの国内機関の大半を信頼していないことを示していた。主な関心事はインフレと生活費の逼迫で、状況は悪くなると考えていた。大統領府への信頼度は27%にとどまり、67%が不信感を抱いていた。ゼレンスキー氏の不支持率を差し引いたネット支持率はマイナス34%と極めて低かった。

ウクライナ軍は予備役、退役軍人も含めて国民の信頼が厚く、68%が支持を表明した。地方政府や自治体に対しても国民の40%以上が好意的な意見を持っていた。しかしウクライナ議会や政党への信頼はそれぞれ11%と8%と最悪だった。兵役や侵略と戦う意志については40%が「ウクライナを守るつもりはない」と回答。ロシア語話者が多い南部や東部ではウクライナ国家に対する信頼度がかなり低かった。

レイノルズ氏らは「ロシアがウクライナ軍の破壊による衝撃と畏怖がウクライナ側の抵抗を抑えると期待していたのであれば、結果は逆に出ている。FSBの世論調査は実施された時点では正確であったかもしれないが、侵攻でウクライナの国民感情がどのように変化するかについてはほとんどつかめていなかった」と分析する。

プーチン氏は抵抗の少ない東部と南部から攻め、首都キエフを包囲すれば、ゼレンスキー政権は簡単に崩壊すると考えていたふしがうかがえる。

中国の習近平国家主席と事実上の相互不可侵協定を結び、核戦力の行使を威嚇にちらつかせるプーチン氏はウクライナ国民のナショナリズム、コメディアン出身のゼレンスキー氏の指導力、ウクライナ軍と義勇兵の士気と抵抗、米欧の結束、従順だったオリガルヒ(新興財閥)やロシア国民の反発のすべてを過小評価していた。それもこれも孤独な独裁者であるプーチン氏の耳に事実を伝える忠臣が1人もいなくなってしまったことに帰因する。

(おわり)

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