- 2022年03月05日 20:01 (配信日時 03月05日 18:15)
「SWIFT排除は"金融版核兵器"にはならない」ロシアへの制裁に欧州が本気とはいえない3つの理由
2/2SWIFTを使わなくても資金移動はできてしまう
西側諸国と対立するロシアは、中国の国際決済システム「CIPS」を使うことも可能です。
そもそも、SWIFTとは「送金の仕組みそのもの」ではありません。あくまで、「資金移動の情報をやり取りする仕組み」です。
同じ国の銀行の間で、資金を移動させる場合は、中央銀行を通すことになります。日本には「日銀ネット」という仕組みがあり、各銀行が日本銀行に持っている「日銀当座預金」を介して、資金を移動させています。
一方、国境を越えて資金を移動させる場合は、日本銀行に該当するような機関がありません。ではどうしているかと言いますと、「コルレス銀行」という存在を通して、資金のやり取りをしています。
つまり、資金移動そのものはコルレス銀行間で行われており、SWIFTはその資金移動の情報をやり取りしているだけなのです。
そのため、SWIFTを使わなくとも、銀行間決済をすることは「理論上」可能です。ただし、送金の事務が大幅に増えるため、貿易を停滞させる可能性は高いです。
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Coprid
「天然ガスの輸入だけは何があっても続けたい」
そして3つ目の理由が、西側諸国にとって最も厄介な問題になります。
それは、「ロシアを世界経済から遮断すると、西側諸国が大打撃を受ける」という点です。
プレジデントオンラインでの記事(「むしろ米国にとって好都合」バイデン大統領がウクライナを助けない本当の理由)でも触れたように、ヨーロッパはロシア産天然ガスに依存しています。
急激な「脱炭素化」で、ただでさえエネルギー不足に陥っている上に、ロシア産の天然ガスがストップしてしまえば、ヨーロッパ諸国は大混乱に陥るでしょう。そのため、天然ガスの輸入だけは何があっても続けたいというのが、ヨーロッパの「本音」なのです。
もしアメリカが「すべてのロシア銀行をSWIFTから遮断」するよう求めたとしても、ヨーロッパが反対する可能性が高いのです。
実際に、ロシアがウクライナに実弾攻撃開始する前まで、ロシアからのエネルギー依存度が高いドイツは、SWIFTからロシアを排除する案に賛同していませんでした。
とはいえ、「建前」として、何かの制裁をしなければならないわけです。そのため、見た目には強硬手段に見える「SWIFT遮断」を決定しながらも、あえて「抜け道」を残しているという風に、今のところ見えるのです。
「ロシア制裁」で漁夫の利を得るのは中国
大手メディアには、「SWIFT遮断」はロシア経済に破壊的なダメージをもたらす、という論調も出ています。
もちろん、SWIFT遮断はロシアにとって痛手ではあります。しかしながら、ここまでご説明しましたように、その影響は少なくとも「破壊的」とは言えないと思います。
むしろNATOが軍事的手段を取れない中、「やってる感」の演出のために使われているという風に見ることも可能です。
仮に、百歩譲って「SWIFT遮断」によってロシア経済が大打撃を受けたとしても、それはまたもう一つの「悩ましい問題」を呼び起こすことになりそうです。
それは、「中国が漁夫の利を得る」という問題です。
「SWIFT遮断」により、ロシア産天然ガスの輸出が大きく減少すれば、ロシア経済にとって打撃となります。ただし、その際は、おそらく中国がロシア産天然ガスの「最後の買い手」となるでしょう。
中国は制裁対象のイランから原油を買っていた
そう判断し得る前例があります。
2018年に、イランに対して「SWIFT遮断」が実施され、イラン産原油の輸出に大きな影響がありました。しかし、そのイラン産原油を、マレーシア経由で中国が買っていたと言われています。
もちろん、国際社会の大多数の国々が「ロシア非難」に染まっている中、中国としてもあからさまにロシアの肩を持つことはできません。
それに、ロシアと中国の間には稼働しているパイプラインが1本しかないという物流上の問題もあります。
一方、中国はオーストラリアとの関係が悪化し、やはりエネルギー不足に悩んでいます。
それを考えると、経済制裁により買い手がなくなったロシア産天然ガスを、中国が肩代わりする可能性は、十分すぎるほどあると考えられます。
ロシア制裁は「台湾問題」に飛び火する可能性も…
日本人が何よりも懸念すべきなのは、今回のウクライナ危機がどのように日本に影響を与えるかだと思います。
ウクライナ危機は台湾問題に飛び火するでしょうか。
SWIFT遮断によって、西側経済から排除されることになれば、ロシアは必然的に中国との結びつきを強化することになります。また、中国は中国で、「一帯一路」など、アメリカに頼らない経済圏の構築に全力を傾けています。
お互いに必要性に迫られて行動した結果、ロシアと中国は、結果的にその関係を深めています。
ロシアからのエネルギーや食糧の輸入が増加することで、中国は、台湾侵攻後に受けるアメリカの経済制裁を、あまり恐れずに済むことになります。
つまり、「ウクライナ危機」でロシアに経済制裁すればするほど、「台湾問題」に火をつけてしまう可能性があるのです。
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub
ウクライナ情勢は「対岸の火事」ではない
そのため、日本は、「ウクライナ危機」においても、「対中国」を意識した対応を練っていく必要があると思います。
しかし、冒頭で触れたように、日本は「対中国」で、アメリカから「不満」を買っている現実があります。
ウクライナ情勢は、日本人にとって、決して「対岸の火事」ではないのです。それを肝に銘じて、対応していくべきだと思います。
大手メディアの「情報」だけに頼ると、こうした構造が見えにくくなります。世界中の情報を、自分なりの視点で分析できるように、日頃から準備しておくことが、より一層重要になっていると、痛感しています。
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立澤 賢一(たつざわ・けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授
住友銀行、メリルリンチ、バンク・オブ・アメリカ、HSBC証券など、長年にわたって国際金融の最前線で活躍。ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など、多彩な一面も持つ。現在、経営者・投資コンサルタントとして活動するほか、若手投資家の育成にも力を注いでいる。オンラインサロン『一流の流儀』
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(元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授 立澤 賢一)
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