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- 2022年03月01日 17:43
成田悠輔「私が“言ってはいけない”ことを言う理由」 - 「賢人論。」第159回(前編)成田悠輔氏
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テレビの世界で世代交代がすすまない理由
みんなの介護 あの過激な発言もそのようにレイヤーを分けていただくと納得できます。「価値観の問題」についてもう少し教えていただけますか。成田 根底の問題として、歪んだ上昇志向がはびこっていると思います。年収、肩書、地位…それらが落ちることへの過度な恐れを持っているじゃないですか。そして、頑なに自分のポジションを守ろうとする人に、周りも何も言えない状況があります。
その典型が政治と芸能の世界でしょうね。芸能で言えばテレビには呂律の回っていないおじいちゃん・おばあちゃんがたくさん出ています。
ポジションを失いたくない、元気過ぎるおじいちゃん・おばあちゃん。彼らに「去ってください」と言って軋轢が生まれることが怖いスタッフや制作の人たち。その両方の心の弱さ以上でも以下でもないんだと思います。
要は「これまでの仕事がなくなることを恐れない」人間をどうしたらつくれるか。そのためには、社会全体としての人生観や社会観が変わることが必要だと思います。
肩書がついている仕事やポジションを得ることが人間の価値の主な部分だと、私たちは洗脳されているわけです。そこから自由になって、ただ無邪気に生きている人の価値を愛でられる方向にどうしたら向かえるか…。
こういった発言をすると私のところにも脅迫や中傷めいたものが来るばかりで、個人的には何のメリットもありません。
その結果、今の日本ではこういった問題を感じていても口には出さない状態になっています。お互いに問題の確信には触れないでおく。みんながずるずるとぐだぐだな日常をひたすら続けている状況になっています。
みんなの介護 そもそもなぜこうした間違った価値観が植え付けられてしまったんでしょうか?
成田 人生観のエコーチェンバー(自分と同じような価値観や意見を持つ人の狭いコミュニティに居続けることで、自分の価値観や意見が増幅・強化されること)のような状況がつくりだされているんでしょう。
例えば、エリート官僚にはやらたと細かい肩書きの文言を解読して履歴書の細部を品評しあうのが好きな人がいるじゃないですか。昔のセンター試験や国家公務員試験の順位まで出てきたり(笑)。あれも、客観的に大きな差がない。似たような人たちの中でグループを形成するから起きることでしょう。
私が属している研究者と大学教育の世界でも、一般社会から見ると意味不明な競争軸で血眼の競争が繰り広げられています。
学者から政治家になったヘンリー・キッシンジャーは「アカデミアの政治は現実世界の政治よりも醜く熾烈だ。どうでもいいものを争っているからだ」という言葉を残しています。
似たような人ばかりが集まると、みんな目くそ鼻くそなのでどうでもいい細部で比べるしかなくなるのです。そしてその細部を死守することが人生の目標になる。大きな差異に目が向けられなくなり、どうでもいいことをどうでもいいこととして投げ出せなくなるのです。
似た者同士の集団から飛び出し「アウェイ」に行くべし
みんなの介護 似た者同士が集まる場から抜け出すしかないですね。成田 世代、住んでいる場所、文化が違う人たちがいる「アウェイ」に、なぜそこにいるのかよくわからないお客さんとしてポンと飛び込んでいく機会をいかにつくるか。そこで違う価値観やルールを触れ合わせる。そのような体験は日本にいても十分できると思います。
みんなの介護 成田さんは、不登校だった中学生時代にネットに出会い、その後の世界が広がっていったのですよね。
成田 当時ネットのコミュニティを通じて出会ったのは、何十歳も歳が離れた人たちでした。リアル世界で属している家族や学校のようなコミュニティと接点が1つもないようなコミュニティです。
黎明期のインターネットがリアル世界に対して持っていた機能というのは、まったく相いれないつながりをつくり出す側面がありました。リアルがネットからほぼ分離されていたからです。
ただ、今は違いますね。リアル世界が、ネットと融合し過ぎてしまっている。リアルな人間関係もネットにおける人間関係なしには成立しにくくなっています。
さらにコロナ禍で、LINEやSlackやSNSでのコミュニケーションが増えています。今の若い世代は生活や体験のほとんどがネットに接続されてしまい、ネットの同族コミュニティの方が生活の中心になってしまいました。
そうなると、「違い」に出会うには、今は逆にリアル側が重要になっています。90年代、ネットがリアル世界に対して持っていた「異なるものを持ち込んでくる機能」が、今はリアル世界の方に逆転移行している感じです。
みんなの介護 具体的に「こんなことをした方がいい」というヒントはありますか?
成田 例えば、聞いたこともない、できればランダムに選んだ場所に突然旅行に行くような体験でしょうか。
私の知り合いが、島民がほとんどいない小さな島に突然連れて行く、というようなツアーをパッケージとして提供しているんです。事前にネットでも調べられず、行き先も明かさない。そうした状況下で、船や飛行機で現地に連れて行き、何日間か過ごす。これをパッケージとして提供しています。
目的を持たない。準備をしない。メリットを求めない。意味があるかないか怪しいが、ただの経験は残る。そういう生活をおくるのが重要なのかなと。
撮影:花井智子



