- 2022年03月01日 14:51
ロシアのSWIFT排除、露の選択肢とエマージング国への思わぬ影響
2/2②ロシア独自の決済ネットワーク・システム「SPFS」の活用
・2014年のクリミア併合時、SWIFT排除案が浮上したため、同年ロシアは独自の決済ネットワーク・システム「金融メッセージ転送システム(SPFS)」を始動。
・SPFSに加盟する銀行は、同ウェブサイトによれば2月3日時点で331行(報道では400行以上とされる)のみで、極めて限られたネットワーク。
・2020年時点でSPFSはロシア国内での取引の2割を占め、ロシア中銀は2023年には30%へ引き上げる方針だった。
・SWIFTの使用料の3分の1だが、1回のメッセージ量は20kbまでと、SWIFTの10mbと比べかなり小規模にとどまる。また、SWIFTと違って24時間対応ではなく、平日の就業時間のみ作動する欠点も。従って、SWIFTの代替手段としては現実的と言い難い。
③中国の決済ネットワーク・システム「CIPS」の活用
・ロシアがSPFSを始動させたように、中国は2015年に「クロスボーダー銀行間決済システム(CIPS)」を立ち上げた。ロシアが中国に接近しCIPSへの乗り入れ、あるいは連携するシナリオも考えられよう。
・CIPSのウェブサイトにれば、2021年5月時点で101カ国から1,142行(報道ベースでは1,200行以上とも)が参加する。地域別では中国本土の528行を筆頭に中国を除くアジアが353行、欧州は153行、北米は26行、南米は17行、オセアニアは23行、アフリカは42行と、SPFSより広いネットワークを誇る。なお、日本は30行が参加済みだという。
画像:CIPSのネットワーク
(出所:CIPS)
・ただし、やはりSWIFTに参加する200カ国、1万1,000行と比較すると規模は限られる。また、米欧政府がCIPSに加盟する銀行を放置するとも考えられず、規制を強化するシナリオに留意すべきだろう。その他、ロシアの銀行がCIPSに23行加盟する一方で、SPFSに参加する銀行はバンク・オブ・チャイナ1行のみとされる。
・ロシアの外貨準備高の約6,300億ドルに占める人民元のシェアは16.4%と拡大しながらも支配的でない問題もある。ロシア中銀の外貨準備が凍結されたも同然で、ルーブルが急落し、人民元高とあって、調達できる資金も限られよう。
・CIPSに参加しても、間接パートナーの場合はSWIFTを経由する必要があるとの説もあり、CIPSがSWIFTを完全に迂回できると言い難い。
・なお、中国は北京冬季五輪中にデジタル人民元の試験的な流通を開始、ロイターが人民銀行の発表を基に報じたところ、1日の利用額は200万元(31.5万ドル)以上になったという。中国にとっては、ロシアとタッグを組む場合、米中貿易協議を始め西側との軋轢を生むリスクをはらむ半面、デジタル人民元普及を後押しする期待もある。
チャート:ロシアの外貨準備高、その内訳
(作成:My Big Apple NY)
④デジタル通貨 or 暗号資産の活用
・新興財閥であるロシア・アルミニウムのオレグ・デリパスカ社長が提唱したデジタル・ルーブルの発行は、2020年10月にロシア中銀が承認され、2021年11月頃にクリミアで実験開始の予定だったが、続報は聞かれていない。ただ、サービスが開始していたとしても、米財務省外国資産管理室(OFAC)は2018年以降、制裁対象への取引はデジタル通貨を含め禁止しており、クロスボーダー取引でデジタル・ルーブルが代替可能とは言い難い。その他、テザーを始め、暗号資産の利用も米国の厳しい監視の目を逃れられるかは不透明。OFACはブロックチェーンを用いた取引を分析・追跡し、帰属情報を収集するための新たな技術関連ツールを模索中とされる。何より足元でアノニマスを始めサイバー攻撃が激しく繰り広げられるなか、ハッキングのリスクがつきまとう。
――以上を踏まえると、返り血を浴びる覚悟で攻めた米欧(特に欧州)に対し、ロシアの選択肢は非常に限られているようにみえます。果たして、停戦合意の支援材料となるのか。チャーチル氏の名言「未来のことはわからない。しかし、われわれに過去が希望を与えてくれるはずである」との通り、過去になっていく現在が未来に光を与えてくれることを願います。
さて、西側によるロシアのSWIFT排除の波紋は、エマージング国にも広がり始めています。インド太平洋の一角を成すインドが動き始めています。何かと言いますと、インドでは政府や中銀、国内銀行、民間などが一体となり、国際決済ネットワークをめぐり別の選択肢を模索中なのですよ。足元で議論されている選択肢は、以下の通り。
①2012年にSWIFTから排除されたイランとの取引のために構築した、同国最大の決済ネットワークのSFMS(Structured Financial Messaging Solution)の改善、あるいは新たなシステムの開発
②2012年当時のように、制裁対象とならないロシアの銀行がインドの国内銀行に銀行間取引での資金決済を行なう先方の決済口座を開設させ、その口座を通じ輸入代金を支払う(当時、インドは対イラン制裁は遵守していたが、米国による金融制裁にはイランの原油を輸入する必要性から反対していた)
③インドによる中央銀行デジタル通貨のためのグローバル・ペイメント・インターフェイスの開発と立ち上げ、併せてデジタル・ルピーの導入と普及の推進
世界がウクライナ支援に揺れる半面、途上国では西側の制裁発動による代金支払い遅延を始めとしたリスクをにらみ、新たな国際決済ネットワーク・システムの重要性を見出しているというわけです。今回の制裁は西側にとって分岐点となる決断だった一方で、国際決済ネットワーク・システムの在り方に一石を投じるものとなりそうです。
(カバー写真:Коля Саныч/Flickr)
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