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新たなる脅威に自衛隊法改正で立ち向かう―小野寺五典(防衛大臣)

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11年ぶりの防衛予算増額が意味するもの

 1月29日、平成25年度予算案が閣議決定された。一般会計総額は当初予算ベースでは過去最大となる前年度比2.5%増の92兆6115億円。公共事業関係費を4年ぶりに拡大させたのと同時に、新規国債発行額が税収を上回る逆転状態を解消し、財政規律に配慮する姿勢も打ち出すなど、「アベノミクス」を象徴する内容となった。

 今回の予算案では経済政策に注目が集まっているが、もう一つの大きなポイントが防衛予算の増額である。前年から約400億円増額され、4兆6804億円となった。

 中国の拡張政策や北朝鮮の核実験など、東アジアの緊張が高まっているいま、世界第6位という広大な面積をもつ日本の領海を守るため、南西海域での監視活動を中心に警戒態勢を強化する重要性が高まっている。こうした周辺環境の変化に鑑み、じつに平成14年度以来11年ぶりの増額に踏み切ったということだ。

 今回の防衛予算増額に対して、一部のメディアからは「軍備拡張を行なうことで中国などの隣国を刺激するのではないか」との懸念の声が上げられている。

 ここで考えてほしいのは、増額する400億円はあくまでも全体の1%未満にすぎず、「大きな数字」ではないということ。隊員数も約300人増員される程度である。あくまで警戒監視の重要性が高まっている南西海域付近に重点的に人員を配置するための、最低限の予算なのだ。

 実際、1月30日には尖閣諸島付近の海域で、海上自衛隊の護衛艦に対し、中国海軍の艦船が射撃管制用レーダーを照射する問題が発生した(同19日にも海自のヘリコプターに対してレーダーを照射した疑いがある)。このような事案の際、政府としてまず考えねばならないのは、実際に人的・物的な損害が出る事態を避けることを最優先に、深刻な事故を未然に防ぐということだ。

 今回の中国側の行動は、国際法に照らし合わせても「危険行為」とみなされる。防衛省として「レーダー照射が行なわれた」という確証を掴んでいる以上は、官邸と協議したうえで中国側に厳重な抗議を行ない、このような事態が二度と起きないように対応していくつもりだ。

 かように緊張の高まる東アジア情勢だが、歴史を振り返れば、歴代の自民党政権は1970年代から、中国をはじめとする近隣諸国と情報交換や軍事交流を行なってきた。

 しかし90年代初頭に米ソの冷戦構造が終わると、ロシアの影響力が低下する一方で、中国と北朝鮮が存在感を強めるようになった。日本の前に「現実的な脅威となりうる国」として立ちはだかったのである。そのなかでわが国のとるべき道は、現実の状況を見定めたうえで、領土・領海の警戒監視をしっかりと行なっていくことである。

 2009年に民主党政権が発足し、昨年末には再び自民党政権に戻ったが、防衛体制は政権によって左右されるものであってはならない。「日本国民の生命・財産をしっかりと守る」という大前提に立ち、周辺国の安全保障環境の変化に合わせて、防衛省や自衛隊も変化していくべきなのだ。

 こうした背景を前提に2010年に発表されたのが、自衛隊の基本原則となる「動的防衛力」の考え方である。冷戦下の日本の安全保障政策は、自衛隊を全国均一に配置し、「相手が攻めてこられないレベルまで防衛力を強化する」という「基盤的防衛力」の概念を基本としていた。

 しかしいまでは、日本の周辺海域にはさまざまな海底資源が確認され、近隣諸国の思惑が錯綜するようになった。サイバー戦争や、宇宙空間の軍事的利用といった新たな論点も浮上している。複雑化した安全保障環境では、従来の「基盤的防衛力」の考え方では不十分であり、さまざまな脅威に事前に対応するための情報を収集し、いざというときに陸海空の自衛隊が柔軟で有機的な活動を行なう「動的防衛力」の概念を提唱する必要があったのである。

 防衛省では現在、より即応性の高い防衛体制の構築をめざし、民主党政権下で2010年に策定された「防衛計画の大綱」を凍結したうえで、新たな大綱の策定に着手している。

北の核には「日米のタッグ」で対峙する


 1月28日の日米外相会談では、ヒラリー・クリントン米国務長官(当時)が、日米安保条約に基づく対日防衛義務の対象に尖閣諸島が含まれることを再確認したうえで、「日本の施政権を一方的に害そうとする、いかなる行為にも反対する」という強い表現を使って中国の動きを牽制した。戦後の日本では一貫して、安全保障の基軸を日米同盟に置いてきたので、この発言に大きな意味があるのはいうまでもない。

 安倍総理も総理就任前の昨年11月、民主党政権で日米関係が混乱していることを批判したうえで、「日米同盟の再構築に努めたい」と明言した。1997年には、さまざまな周辺事態に対して、日米共同で対処を定めた指針(ガイドライン)を改定したが、安倍内閣では再改定を視野に、アメリカと戦略協議を行なっていく予定だ。

 日米両国がタッグを組んで取り組むことの一つに、北朝鮮の核問題がある。北朝鮮に対しては6カ国協議などを通じて、再三にわたって自制を求めてきたが、2006年、09年に続き、今年2月12日に3度目の核実験を強行した。これは周辺諸国の安全を脅かす許されざる行為である。今後はアメリカとも連携をとったうえで、外交ルートを通じて北朝鮮に強い自制を求め、場合によってはさらなる制裁に踏み切る。防衛省としては警戒監視体制を一層強めるなど、政府一体となって対処していく。

 今回の核実験の直後には、自衛隊航空機が放射能塵などのデータを収集した。北朝鮮が二度と核実験を行なわないよう最大限の外交努力を行なっていくことはいうまでもないが、再び強行した場合に備え、わが国に与える影響について、情報収集を怠らないということだ。

 ただ、日米同盟を運営していくにあたっては、さまざまなハードルが存在することも理解している。その一つにアメリカ海兵隊の垂直離着陸機・オスプレイの配備問題がある。

 オスプレイは量産が始まった2006年から現在にかけて、何件かの墜落・着陸失敗事故を起こしており、普天間基地への正式配備がアメリカ国防総省から発表された2011年以降、機体の安全性について地元の住民から懸念の声が上がっている。

 この問題については、民主党政権下で「安全性には問題ない」という結論が出され、自民党政権になってからも基本的に見解に変わりはない。さらにいえば、普天間基地に配備されている従前のヘリコプターが、1970年代に配備が開始され、すでに40年以上も使用されているという事実を無視することはできない。40年といえば、自衛隊の基準では耐久年数超過のため退役をさせなければならない代物だ。そうした古いヘリコプターが沖縄の市街地を飛行しているほうが、じつはよほど危険なのである。

 防衛省としても平成25年度予算では、オスプレイとまったく同一の機種ではないものの、同じく回転翼の角度が変更できる「ティルトローター機」について、開発・運用にかかる調査費を計上した。こうした取り組みを通じて、強い懸念を抱いている沖縄の方々に対して、少しでも理解を求めていきたい。

 もう一つの課題は普天間基地の移設問題である。米軍基地に対する地元の返還要求を受け、1990年代から日米両国によって普天間基地の移設が検討されてきた。2006年には移設場所が沖縄県の辺野古に正式決定され、実現に向けたロードマップが定められた。辺野古は普天間と異なり、基地の北部に隣接した訓練基地があるため、軍の関連施設が市街地に近接していない。これによって地元住民の負担を少しでも軽減しようというものだ。

 辺野古への移転のみならず、2006年の日米合意では、「普天間飛行場の空中給油機KC-130ハーキュリーズを、飛行隊司令部、整備施設などとともに岩国飛行場に移転する」「第三海兵機動展開部隊の要員約8,000人とその家族約9,000人を、グアムへ移す」などといった取り決めが交わされ、具体的なスケジュールを策定するとともに、一部についてはすでに実施されている。大きな流れでみれば沖縄の負担軽減へと舵を切りつつあるのは間違いない。

 それでも地元の反発が強いのは、民主党政権時代に「普天間基地は最低でも県外移設」と当時の首相が発言し、その約束を破ったことで政府への不信感が醸成されたからだろう。安倍内閣としては、一連の取り組みを着実に進めることで、地道に信頼を勝ち得るほかに道はないと考えている。

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