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  • 2022年02月28日 10:42 (配信日時 02月28日 06:00)

ロシアを非難する国連決議にインドが棄権した理由 - 長尾 賢 (米ハドソン研究所 研究員)

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(2)パキスタンに対して軍事行動をとる可能性があること

インドにとってロシアの軍事行動を批判できない2つ目の理由があるとすれば、それは、インドがパキスタンに対して軍事行動を行った際のことを考えてのことだ。

インドはパキスタンによるテロ支援、いわゆる「千の傷戦略(テロ組織を支援して、たくさんの小さな傷をつけて大国を弱らす戦略)」に悩んできた。そして、パキスタンが支援するテロ組織が、インドでテロ攻撃を行った際に、パキスタンを攻撃する計画を考えている。

実際、2016年にテロがあった際は、即反応し、カシミール地方のパキスタンが管理している地域にあるテロ組織の拠点を、特殊部隊で襲撃した。脅威を感じたパキスタンは、テロ組織の拠点を、より奥地のパキスタン国内に移した。しかし19年、再び起きたテロ事件に際し、インドは、パキスタン国内にあるテロ組織の拠点を空爆した。

もしパキスタンがこのような政策を継続するなら、インドはより大きな軍事作戦も考えている。「ロシア製ミサイル配備を決めたインドの深刻な事情」を書いた際は、いわゆる「コールド・スタート・ドクトリン」と、海上封鎖について紹介した。

パキスタンに対して大きな軍事行動を行う際、インドが必要としていることの一つは、軍事作戦実施のための時間である。特に、国連安保理において、インドに、軍事行動の自制を促す決議がでると、インドとしても動き難くなる。しかし、もしインドに味方する国連常任理事国が拒否権を行使してくれれば、決議が採択されない。

そして過去に、インドのために拒否権を行使してくれた国がある。それがソ連であった。1971年の第3次印パ戦争の時、ソ連は、インドの軍事行動をやめさせようとする決議に、拒否権を行使し続けたのである。

つまり、インドが、今後、パキスタンを攻撃する際に、拒否権を行使してくれそうな国がいるとすれば、ロシアの可能性が最も高く、インドにとって重要なのである。

(3)ロシアとの強い人的なつながり

さらに、3点目として、インドには、まだロシアの強い人的つながりが残存していると考えられる。

これは冷戦時代に起因するのであるが、冷戦時代、インドは、政治体制は自由民主主義であったが、経済体制は社会主義であった。これは、ソ連がインドに対して影響力を高める最適な組み合わせであった。

まず、社会主義体制下で生産されるインド製品は品質が悪く、国際競争力はない。しかし、ソ連は、そのようなインド製品を、武器やお金にかえてくれ、インド企業にはお金が入った。インドは自由民主主義の国なので、選挙を行う。選挙をするにはお金がかかる。インドの政党は、企業からの寄付金を集めて選挙を戦うのである。

結果、インドの政党は、ソ連が支払った資金で、選挙を戦って、政府を構成していたのである。ソ連はインド政治に強い影響力をもっていた。

冷戦が終わり、ソ連が崩壊すると、インド経済は崩壊の危機に入り、社会主義の経済から資本主義経済へと改革が進められた。そのため、今、インドの選挙は、ロシアの強い影響下にあるわけではない。しかし、冷戦時代の歴史的経緯を経てつくられた、人的なつながりは、存在する。

インドでは、年配の政治家や専門家が、ロシア寄りの傾向を示すことが多い。世代交代が進むまで、インド政治では、ロシアが一定の政治的影響力をもっていると推測されるのである。

長期的には変わる可能性がある

このように、インドにとって、武器の供給と、国連安保理における拒否権という観点から、ロシアが必要だという事情がある。歴史的な経緯からロシア寄りの有力者も多い。結果、ロシアのウクライナ侵攻に対するインドの姿勢は、ロシア寄りのものになっている。国連安保理の決議に棄権したのも、その一例だ。問題は、この傾向は、今後も続くのか、という点だ。実は変わっていく可能性がある。

まず、過去10年を見ると、インドは、ロシアよりも、米英仏イスラエルの4カ国から武器を輸入することの方が多くなっている。今現在、保有している武器は、旧ソ連製やロシア製なので、修理部品や弾薬も、旧ソ連製やロシア製のものが必要だ。しかし、今後は、武器の更新が進むにつれて、米英仏イスラエルに依存する傾向が増していくだろう。そうすれば、インドにとってどの国が最も大事なのか、変わっていくことになる。

次に、米国の姿勢が変わってきていることだ。2019年にパキスタンが支援するテロ組織が、インドでテロ事件を起こした際、当時、米国の国家安全保障問題担当補佐官だったジョン・ボルトン氏は、インドのアジド・ドバル国家安全保障顧問に電話をかけ、「インドには自衛権がある」といったとされる(米国の国家安全保障担当大統領補佐官も、インドの国家安全保障顧問も、日本で言えば国家安全保障局長にあたる)。

インドが、パキスタンにあるテロ組織の拠点を越境空爆したのは、その直後だ。実は、米印、英印、日印首脳会談における共同声明や、今月のクアッド(QUAD)の外相会合でも、パキスタンが起こしたテロについて、パキスタンに取り締まりを求めたり、インドに対するテロを非難する、インド寄りの内容が盛り込まれている。米国もパキスタンへの武器売却をやめつつあり、インド重視の姿勢は明確だ。

だから、今後、インドがパキスタンに対して軍事行動を行う場合、これまでのように、ロシアの拒否権に頼る必要はなくなりつつある。米英仏が、インドのために拒否権を行使するかもしれない。

さらに、ロシアの政策が問題だ。ロシアは、インドが最大の脅威だと考えている中国との連携を進めている。さらに、中国と連携するのと機を同じくして、パキスタンに武器を供給するようになっている。

例えば、中国とパキスタンが共同開発したとされるJF-17戦闘機のエンジンは、ロシア製だ。パキスタンはロシアからMi-35戦闘ヘリコプターも購入している。インドはこれらの取引に関して、ロシアに抗議している。もしロシアが中国との連携を進め、パキスタンにも武器を販売するなら、インドはロシアから離れていくだろう。

つまり、今は、インドにとってロシアとの関係が重要である。しかし、その関係は、長期的には変化しつつある。今後の動向次第で、変わっていくだろう。注目である。

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