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何もできない虚しさと、少しでも痛みを分かち合えたら、と思う心。

冬季五輪の盛り上がりに合わせたかのようにヒートアップし続けていたロシアとG7諸国のせめぎ合いは、「外交努力を」と叫ぶ声もむなしく、「ウクライナ侵攻」という形で新たな戦史の幕を開けることになってしまった。

いわゆる「冷戦」は、30年以上も前に終わった話とはいえ、それ以降も世界のどこかで戦争は続いていた。

湾岸戦争からパレスチナ、アフガニスタン、イラク、さらにはイスラム国にまでつながる中東の紛争は決してやむことはなかったし、欧州圏に目を移しても、古くは旧ユーゴ諸国間の凄惨な戦いから、つい最近にもニュースになったナゴルノ・カラバフ戦争*1まで、決して戦禍と無縁だったわけではない。

ただ、それでも今回の「侵攻」が異質に感じられてしまうのは、旧ソ連邦とはいえ、今や紛れもない西洋型民主主義国家になったはずのウクライナに、特殊な統治体制下にあるとはいえ、つい10年ほど前までは「G8」の一角を占めていたロシアが国家の本能をむき出しにした軍事作戦を仕掛けている、ということ、そして、侵攻の火ぶたが切られるずっと前から、事前情報があふれていて、先進国首脳がこぞって批判の声を上げていたにも関わらず、いざ始まったらメディアが淡々と戦況を伝えるのみで、誰も何もできずにいる、という状況を目の当たりにしてしまっているから、なのかもしれない。

冷戦終結に端を発した世界秩序の混沌は、それでもなお大きな”抑止力”として機能していた米国の度重なる介入政策の失敗とここ数年の”国内分裂”で、いよいよ歯止めの利かないところに来てしまっているような気がする。

具体的な行動を伴わない口先だけの呼びかけは、腹をくくった国家指導者の前では何の意味も持たない。

長年政権を握り続け、”大ロシア”の復興を人生最後の目標にしていたかもしれないプーチンにとっては、「賢くはないが何をしてくるかわからない」敵方の前大統領よりも、スタンダードなリベラル寄り政治家である現大統領の方が組しやすい、と思ったところはあったのかもしれないし、やれ新型コロナだ、やれSDGsだデータ寡占だ、と西洋の国たちが踊り狂っている間に五輪外交で背後を固めて一気に宿願を達成する、という発想も当然あったのだろう*2

そして、残念なことに、ここまでの展開はまさにユーラシアの果ての独裁国家が思い描いたとおりになっている・・・。

ソ連邦崩壊による諸国の民主化に心湧きたちながらも、安定には程遠い「その後」の世界情勢に刺激され、国際政治学の道を一瞬だけ目指したのが90年代前半の自分だった。そして当たり前のことではなるが、学問では何も現実を変えることはできない、という虚しさが、その後の自分の人生をリアリスティックな現場実践の世界へと向かわせた。

あれから30年近く経ったが、自分が極東の島国の中にいて、何もできない無力な存在であることに変わりはない。

当時と違うところがあるとしたら、今、欧州大陸で起きている出来事が自分の資産を思いっきり直撃している、ということくらいで、ここ数日、決して愉快な気持ちではないものの、それでも、何も感じないよりは良かったのかもしれないな、と思っていたりもする。

金融資産の価値は下がり、その一方で、燃料費から何から物価が跳ね上がり、新型コロナ禍も未だ残っている中で、様々なものを冷え込ませるには十分すぎるようなハードラックではあるのだが、それでも今、まさにキエフの街で不安な時間を過ごしている人々の苦しみ、悲しみに比べたらなんてことのない話に過ぎないわけで・・・。

新型コロナ禍と同様に、いつ終わるか分からない隣の国の軍事作戦に、この先我々がどれだけ翻弄されるのかは分からないけれど、せめてその現場で起きていることの痛みの何百分の一でも共有できたなら、そして、そういった痛みの広がりが、心の底から平和を希求する人々の思いに転化して、いずれ世界中から戦の灯を消す方向に向かってくれたなら・・・などと叶わない想像を働かせつつ、明日こそはもう少しマシなニュースが飛び込んでくることを願って、祈りをささげることとしたい。

*1:個人的にはバクーを訪れた際に、90年代の第一次戦争で亡くなった自分と同年代だった若い兵士たちの墓碑が国立の追悼施設に並べられているのを見て、平和の尊さを改めて感じた、というエピソードもある。

*2:ソチ五輪の直後に行ったクリミア併合しかり、今回の五輪直後の侵攻しかり、4年に一度の冬の祭典に合わせてことが起きるのは、決して偶然ではないと自分は思っている。

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