- 2022年02月23日 15:59 (配信日時 02月23日 12:15)
「国民のカネを投入してまで維持する意味があるのか」組織に根付いた"郵便局体質"の害悪
2/2民営化は名ばかり、日本郵政株の3分の1は政府が保有
もとは国鉄(JRの前身)にも似たような体質があった。精算窓口でのネコババやカラ出張が新聞を賑わせたものだ。だが、民営化によって誕生したJRは、その体質を一変させた。日本郵政も民営化によってその体質は変わるはずだった。だが、郵政民営化の歩みは鈍い。2007年に日本郵政グループが発足、当初は完全民営化が前提だったが、その後の揺り戻しで、政府は日本郵政株の3分の1超を持ち続けることになった。
民営化した民間会社にもかかわらず、総務省が「監督強化」できるのも、この政府の持ち株と法律で日本郵政を縛っているからだ。持株会社である日本郵政は、今も日本郵便の株式の100%を保有。本来は保有株すべてを売却することになっている「ゆうちょ銀行」の発行済み株式の88.99%、「かんぽ生命」の49.90%をいまだに持ち続けている。つまり、民営化は名ばかりで、事実上、日本郵政グループは国が実質支配しているのだ。
郵政民営化では、銀行業も保険業も民間の企業で十分で、「官業」として国が事業を行えば民業圧迫になると考えられた。だから政府保有株をすべて売らせて、民間金融機関として自立させる道を考えた。
政府は郵便局網の維持に必死
今も、日本郵政を通じて間接支配しているのは理由がある。政府は必死になって郵便局網を維持する道を模索している。郵便局を保有する日本郵便には全国一律のサービスを提供する「ユニバーサルサービス」が義務付けられているが、2021年末時点で2万3774に及ぶ郵便局の多くは赤字だとされる。それを補い郵便局網を維持するために、ゆうちょ銀行とかんぽ生命に「業務手数料」や「拠出金」の形で毎年1兆円もの資金負担を求めてきた。
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Filograph
その支援資金が細ってくると、総務省は2019年から新たな方法に切り替えた。それまでは金融2社が自社商品を郵便局で販売してもらう「業務手数料」として支払われていたものを、独立行政法人の「郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構」にいったん拠出させた後、日本郵便に交付金として支払うように変えたのだ。資金をふんだんに持つ独法を絡めることで、郵便局網維持のための資金確保を狙うと共に、税金を投入する道筋を開いたとみられている
自民党の集票マシーンと呼ばれた「旧特定郵便局長」
そこまでしてなぜ、政府は「郵便局網」を維持したいのか。その理由をうかがわせる不祥事が昨年発覚した。
2021年10月に西日本新聞の報道で発覚したのだが、全国の郵便局長(旧特定郵便局長ら)でつくる任意団体「全国郵便局長会」(全特)が日本郵政に要望、2018~20年度に約8億円分のカレンダー購入経費を負担させた上で、全国の局長に全特が擁立する自民党参院議員の後援会員らに配布するよう指示したというもの。郵便局の持つ顧客の個人情報を政治活動に流用したとして大問題になった。日本郵政は郵便局長ら112人を社内処分したと発表している。どうやら組織的に、郵便局の持つ情報と日本郵政の資金を使って、特定候補の応援をしていたという疑いが濃厚になった。
旧特定郵便局長は明治時代に地方の名士などが設置したものが多く、代々局長を世襲している例もある。地域の中核的存在だったことから政治的にも大きな影響を持ち、自民党の「集票マシーン」と呼ばれることもある。
こうした郵便局長は日本郵政の職員でありながら、転勤もなく、同じ業務を担い続けている。これが顧客との馴れ合いを生み、不正が頻発している根本原因だとも指摘されている。郵政民営化では、この特定郵便局の解体が決まったが、結局、今もひとつの「既得権」として郵便局長ポストが守られているとされる。
では、総務省が権限を強化することで、こうした長年の問題は解消されるのだろうか。残念ながらむしろ逆だろう。
日本郵政の事業に国民のカネをつぎ込む必要があるのか
自民党の大物議員の間には、「郵政再国営化」論がくすぶっている。宅配便が全国をカバーし、町々にコンビニができる中で、郵便局に対するニーズはどんどん低下している。宅配会社や地域金融機関との競争で収益性も低下、もはや日本郵政のやりくりだけでは既存の郵便局網を維持することは難しくなっている。そうなると集票マシーンを失うことになる自民党にとっては死活問題になる。郵便局を国営化して国で支えようというわけだ。
総務省の官僚たちが、大臣や与党政治家の意向に従わざるを得ないのは言うまでもない。それだけでなく、総務省自身も郵政事業に利権を持つ。
2019年末、かんぽ生命の不正販売問題の責任を取って、日本郵政、かんぽ生命、日本郵便の3社長が交代した。いずれも民間金融機関出身者だったが、後任は揃って官僚出身者となった。民間出身者が過酷なノルマを課したことが不正販売につながったかのような情報が流されたが、実のところ、民間経営者による改革を嫌う局長や総務官僚らの反発が背景にあった。不祥事を機に総務省はまんまと社長ポストを手に入れたのである。
果たして、今回の「監督強化」で総務省は何を奪還しようとしているのか。再国営化か、税金投入か。日本郵政が手掛ける事業はどれも、民間企業で十分のものばかりで、もはや国が手掛ける歴史的意味を失っている。そこにこれからも巨額の国民のカネをつぎ込む必要があるのかどうか、今こそ真剣に考えるべき時だろう。
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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)
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