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「人生の最短距離をカーナビのように子へ指示する」養老孟司が教育熱心な親に抱く違和感

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子育てではなにを心がけるべきか。解剖学者の養老孟司さんは「現代は人生がカーナビに従う車のようになってしまった時代だ。目的に向かって最短距離で走り続ける人生は、親も子も不幸にする」という。小児科医の高橋孝雄氏との対談をお届けしよう――。

※本稿は、養老孟司『子どもが心配 人として大事な三つの力』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

叱られた少年と母親 ※写真はイメージです - iStock.com/takasuu

過剰な教育は「子ども時代」の幸せを奪う

【養老】私は最近、「自足」という言葉をよく使います。「自らを満たす・充足させる」という意味合いで、この「自足」の状態を悟っていないと、人生はなかなか上手くいかないものでしょう。

たとえば猫は、自分の居心地の良い場所を見つければ、それで満足する。一方で、ジェフ・ベゾス(アマゾン創業者)は宇宙旅行をしていましたが、これは自足以上の欲にみえてならない。

ベゾスの例は極端にしても、個々人の過剰な欲が膨れ上がり、世界全体を道理に合わない方向に動かしているように思います。

【高橋】なるほど、実に興味深い話です。それでは養老先生は、日本という国が自足するためには何が必要だと考えますか?

【養老】何もかも手に入るわけではないけれども、生きているだけで満足できる。そんな状況を、生まれてくる子どもたちに対してつくってあげないといけないでしょう。何も難しいことではありません。親が子どもに対して「あなたたちが元気に飛び跳ねていてくれればいい」とさえ、願えばよいのです。

にもかかわらず現状は、「あなたの将来のためだから」と言ってわが子に過剰な教育を強制し、いまある楽しみを我慢させている。それは、親が自分の不安を子どもに投影させているだけです。

子どもたちの日常の幸せを、まず考えてやらなければなりません。

親に必要な「放っておく勇気」

【高橋】まったく同感です。私はかねてより、「親は自分の願望を子に託すな」と訴えています。「こういう教育をしてやれば、自分にはできなかったこんな夢が実現するのではないか」というような気持ちが強すぎる。試したいのであれば、たとえば我が子に英会話を習わせる前に、まずは自分がやってみればいい。

もちろん子どもに期待する親心は当然のものですが、だからといってあれもこれもと押しつけて、日常の幸せを奪っては本末転倒です。「放っておく勇気」も必要なのです。

結局のところ、子どもに後悔してほしくないからではなく、親自身が後悔したくないだけなのでしょう。私はそれを「後悔したくない症候群」と呼んでいます。

【養老】なるほど、うまく名づけましたね。昨今はますます、子どもの時代が「大人になるための準備期間」のように捉えられていますね。そうして「幸せの先送り」が進んでいく。すると子どもたちは、自分がいつ幸せを享受できるのか、一向に実感できない。

若い世代の自殺が多いのは、幸せな瞬間が未来に回されるばかりで、「いま」を体感できていないからだと思います。子どもの時代に幸福を味わっていれば、そう簡単には自殺に走らないのではないでしょうか。

別の言い方をすると、子ども時代が独立した人生ではなくなっている。人生の一部としか見られていないのです。子どもの時期がハッピーであれば、人生の一部がハッピーになる。その幸せが将来に先送りされるから、「いつになったら、自分は自分の人生を生きることができるのか」という迷いが生じてしまうわけです。

「正しい子育て」なんてない

【高橋】最近流行りの「自己肯定感」という言葉、実はあまり好きではないのですが、あえて使うならば、人は生まれてきた瞬間が最も自己肯定感が高いはずです。「生まれてくるんじゃなかった」と思って生まれてくる赤ん坊はいませんからね。

赤ちゃん ※写真はイメージです - iStock.com/itakayuki

そういう幸福感に満ちた子どもの心が、成長するにつれて、家族や周囲、そして社会からのプレッシャーを受けてしだいに擦り減っていく。

ところが親はそうとは知らず、ネットに流布するさまざまな「正しい子育て」に直面し、親としての自信をなくしてしまう。そもそも「正しい子育て」なんてないと開き直ってほしいというのが、小児科医としての私の切実な思いです。

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