- 2022年02月21日 16:43
ウクライナ危機でますます強まるトランプの“口撃” - 海野素央 (明治大学教授 心理学博士)
2/2「政治的うまみ」が少ないウクライナ危機
ロイター通信とグローバル・マーケティング・リサーチ会社イプソスの共同世論調査(22年2月14~15日実施)によると、「米国が直面している最も重要な問題は何か」という質問に対して、1位が経済・雇用(22%)、2位が犯罪(11%)、3位が公衆衛生および医療保険制度(共に9%)であった。
しかも同調査では、「バイデン大統領は何を優先するべきか」という質問に対して、経済とコロナ対策が上位を占めた。米国民の優先事項は明らかにウクライナではない。ということは、外交的解決により危機的状況を脱しても、バイデン氏の支持率が急上昇しない可能性が高い。米国民はインフレ対策と新型コロナウイルス感染拡大の阻止を「成果」としてみるからだ。一方で、外交交渉が失敗すればバイデン氏のリーダーシップ能力が厳しく問われる。つまり、ウクライナ危機には「政治的うまみ」が少ないのだ。
見えてきた「バイデンイズム」

『約束してくれないか、父さん: 希望、苦難、そして決意の日々』
にもかかわらず、なぜバイデン大統領はウクライナに固執するのか。回顧録『約束してくれないか、父さん: 希望、苦難、そして決意の日々』(早川書房)の中で、オバマ元政権で副大統領としてウクライナ問題を担当していたバイデン氏は、権威主義者のプーチン大統領から民主主義の新興国ウクライナを守るために、武器供与を行うことが道徳的義務であったと記述している。バイデン氏は副大統領のとき、すでに「民主主義VS権威主義」という対立構図を描いていた。
バイデン大統領は2月15日ホワイトハウスでの演説で、ウクライナ危機はロシアとウクライナ両国を超える問題だという認識を示した。その上で「どの国民も自分たちの将来を決定する権利がある。一国が隣国の境界線を変更することはできない」と指摘し、「自由」という普遍的価値観を擁護するために公然と戦うと強調した。自由の擁護――これこそ「バイデンイズム」の真髄である。
米中間選挙への影響
中国のジュニアパートナーとして見られたくないプーチン大統領は、ウクライナ危機を作り、この数週間世界を「米中」から「米ロ」関係に引き戻すことに成功した。バイデン氏は果たして緊張緩和に向けた外交努力を通じて、この危機を切り抜け、中間選挙に向けて弾みをつけることができるのだろうか。
仮に外交努力が実らず、ロシア軍のウクライナへの軍事侵攻を許した場合、トランプ氏と野党共和党は即座に「プーチンの勝利」とみなし、バイデン批判を強めていくことは確かだ。
さらにガソリン価格が高騰すれば、支持基盤である中間層の生活にさらなる打撃を加え、バイデン氏の支持率低下は必至だ。中間選挙へ向けて共和党に「追い風」となるだろう。
鍵は「いつ」ロシア軍がウクライナへ軍事侵攻をするのかだ。11月8日の投票日に近づけばバイデン大統領と与党民主党にかなり不利に働くことは確かだ。プーチン大統領はバイデン氏から譲歩を引き出しやすくなるからだ。
バイデン大統領はロシア軍の軍事侵攻はあり得ると主張している。仮に軍事侵攻がなければ、バイデン政権における情報機関の分析の正確性が問われることになる。これも中間選挙を控えたバイデン氏と民主党にとってマイナス要因になる。
トランプ「参戦」?
中間選挙で息がかかった多くの候補を当選させたいトランプ前大統領は、バイデン・プーチン両大統領の外交交渉の駆け引きを傍観していないだろう。
トランプ氏は、米ニューヨーク・タイムズ紙のマギー・ヘイバーマン記者にホワイトハウスを去ってからも北朝鮮の金正恩総書記と連絡をとっていると語った。仮にプーチン氏とも良好な関係を維持しているならば、トランプ氏は北朝鮮問題とウクライナ危機を武器にしてバイデン氏に揺さぶりをかけることが可能だ。バイデン氏とプーチン氏の戦いに、トランプ氏も「参戦」してくるかもしれない。
だが、バイデン大統領はトランプ氏とはまったく異なった目的でウクライナ危機に取り組んでいる。バイデン氏にとって外交努力は中間選挙を意識して政治的得点を稼ぐためでも、米国民の目を新型コロナとインフレから逸らすためでもない。
バイデン大統領は自由と民主主義を死守するという強い信念と価値観に基づいて、ウクライナ危機に取り組んでいるのだ。
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