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毎日60匹が殺されている…なぜ日本では「犬猫の殺処分」が一向になくならないのか

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本来であれば手術費用は10万円超なのだが…

「野良猫だから手術をするという考えがなかったそうなんです」と鈴木さん。

「このケガの手術は不要、不妊去勢手術だけをお願いしますと言われました」

そうは言っても、脚が切断されたままの猫の様子は見るに絶えない。齊藤朋子獣医師は手術を行うことを決断した。肉から飛び出ている足を切断し、丁寧に縫合する。1時間半を要した。動物病院でこの手術を行う場合、費用は10万円を超える。対して今回、捕獲した人が負担する手術費用は1万3000円だ。

手術を行う獣医師の齊藤朋子さん 手術を行う獣医師の齊藤朋子さん - 笹井恵里子

齊藤獣医師は「私たちにとっても勉強になることですから」と補足する。

「過酷な環境で生きている野良猫にはさまざまな外科手術が発生します。ただそれらを無償で請け負ってしまうと、手術に使う物資にお金がかかってこちらも苦しくなるので、最低限の手術代はいただいています。昨日も子猫の目を摘出する手術をしたんですよ。中から膿がわいていて……。不妊去勢手術をする時に抗生剤を使用するので、それでいったんは目の症状もおさまる可能性があります。けれどもまた再発して、繰り返すと死んでしまう状態でした。それを説明すると、猫を運び込んできてくれたボランティアさんが目の手術代を負担することを含めて了承してくれたので、無事行えました」

「『いらない』といわれる猫を減らしたい」

飼い猫と違い、野良猫の命の責任は誰にもない。だから常に、“死んでも仕方がない”存在だ。

手術を行う一室を管理するボランティアの長谷川道子さんは「『いらない』といわれる猫を減らしたい」と訴える。

「かわいいかわいいと言って、子猫を産ませる人が少なくありませんが、そういう人に限って適切に飼育しているように見えないんです。いずれ大きくなると、虐待の可能性、いらない猫になってしまう恐れがある。だから、むやみに猫を増やさないこと。そうすれば殺処分は少なくなるのではないでしょうか。ここで不妊去勢手術を行いますと告知すると、たくさんの野良猫が運びこまれてくるので、地域のみなさんは増えすぎた猫に困っているんだなと思います」

脚を手術した猫 脚を手術した猫 - 笹井恵里子

その日の夕方、足切断の手術をした猫がケージの中でドタンバタンと音をたててもがいていた。猫には患部をなめないようにエリザベスカラーがつけられたが、そのつけ心地が悪いようだ。齊藤獣医師とともに奮闘する青山千佳獣医師はケージから猫を取り出し、顔を上向きにさせて「がんばるんだよーー」と話しかけた。不思議なことに青山獣医師が説明すると、猫がおとなしくなった。

青山獣医師が説明すると、猫はおとなしくなった 青山獣医師が説明すると、猫はおとなしくなった - 笹井恵里子

「殺処分が過去最少になった」とよろこんではいけない

「猫にだって真剣に頼めばわかるんですよ」と青山獣医師は胸をはる。

「不妊去勢手術を行うために、捕獲器を置いて、そこに入ってくれる猫たちは手術に同意してくれた、と私は思っているんです。そのたびに『手術に同意してくれてありがとう』って思います」

そう、すべては人間の都合なのだ。猫が増えすぎると人にとって都合が悪いから、共存するために“猫に手術を受けてもらっている”ともいえる。

この手術を野良猫に受けさせることが地域住民にとって当たり前の感覚になった時、殺処分はゼロになるだろう。

「殺処分が過去最少の2万3000匹になったとよろこんではいけない」と、齊藤獣医師は力を込める。

「たとえ1匹になっても、その1匹は殺されるんだから、その1匹の身になったらゼロを目指さなきゃいけない。殺処分ゼロなんて到底無理、夢物語と言う人はたくさんいます。『無理だよね』と諦める人の前には、安楽死の選択肢があるんでしょう。私は獣医師だから、殺処分ゼロへの道、不妊去勢手術という方法を選択できる。だから絶対に“ゼロ”を諦めない」

有志の獣医師たちはそうした決意のもとで手術を行っているが、それでも涙を流してしまう時があると聞いた。それは赤ちゃんの入っている猫の子宮を処分する時だという。(続く。第2回は2月22日11時公開予定)

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)など。新著に、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)がある。
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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)

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