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「キャッシュ・フォー・ワーク」がなければ被災地の人口はもっと減っていた―災害経済学者・永松伸吾氏インタビュー前編

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政治のリーダーシップだけで、なんとかなるレベルではない


―民主党政権では、政府のリーダーシップが足りなかったという言説がありますが、そういうトップダウンで集団移転を進めていくのは難しいということですか?

永松:難しいと思いますね。そもそも建設業者が足りないとか、土地がないとか、リーダーシップでなんとかなる問題ではないですから。阪神・淡路大震災クラスのものであれば、まだ全国から人をかき集めればなんとかなりましたが、今回はそういうわけにはいかないんです。

実は、阪神・淡路が起こった1995年当時は、建設業の市場規模が約90兆円あったんです。しかし今はその半分ぐらいです。今回の東日本大震災は、被害規模が阪神・淡路の倍以上になって、建設業のマーケット規模は半分ですから、圧倒的に業者が足りないんですよ。これは、構造的な問題です。

僕がいま心配しているのは、もし首都直下地震が起きた場合のことです。想定では、その災害規模は66兆円といわれていますが、東日本大震災のだいたい3倍です。これは、もう対応できるレベルではないですよね。次の巨大災害でも、絶対に今回と同じような問題、いやそれ以上の問題が起きる。

また、最近になって被害想定が出た南海トラフ巨大地震は、30数万人が犠牲者になるといわれている。本当かなとも思いますが、いま政府が被害想定をしていて、おそらく百兆円を超えるレベルの経済被害が出るんじゃないかと噂されています。本当はとっくに発表されている予定だったのですが、延期されたところを見ると、その規模があまりにすごすぎて、各方面で調整しているんじゃないかと思います。あくまで想像ですが。

もし首都直下地震や南海トラフ巨大地震が起きたら、そのときの政治のリーダーシップだけでどうにかできる問題ではないんですよね。

―阪神・淡路大震災や中越地震では、時間がたってもいつまでも復興しない部分というか、あとあとまで震災の爪痕が残る部分があったと思いますが、東日本大震災で、のちのちまで爪痕が残るのは、どのような分野だと思いますか?

永松:のちのちまで残る問題というのは、逆説的ですが、ある意味「残らない」ともいえるんですよ。というのは、時間がたてばたつほど、その問題が震災に起因しているのか、もともとの問題なのか、わからなくなるからです。

たとえば、中越地震の場合では、過疎化の進行が大きな問題となりました。でも、それは震災によって加速した部分はあるとはいえ、もともとそういう問題を抱えている地域だったともいえるわけです。

そういう意味では、震災の問題があとあとまで残っているというべきなのか、あるいは、もともとの構造的な問題が解決されないまま、それが加速してそのまま残っているという言い方をしたほうがいいのかもしれないですね。

―東北では過疎化が進んでいたり、農業や漁業の後継ぎがいなかったりという問題があると思いますが、震災をきっかけに、そこが顕在化してきているという現実がありますか?

永松:そうですね。平成24年(2012年)中の人口移動について、この前、総務省が発表していましたが、ほとんどの被災自治体は人口が減っていますよね。確かに、震災直後の23年度比べ減り方は小さくなっていますが、増えたところは数えるほどしかない。特に福島は、若い世代を中心に、下げ止まり感が弱いですね。

そういう点で、あとあとまで残るだろうという意味では、地震の前まではなかった「放射線」という問題がありますから、福島は傷跡が残りますよね。

前編は、復興に向けた取り組みや被災地の現状について聞きました。後編では、「被災地のために何ができるのか」を考えていきます。 ※後編はこちらから

プロフィール

永松伸吾(ながまつ・しんご)
1972年生。関西大学社会安全学部准教授。大阪大学大学院国際公共政策研究科から同研究科助手、人と防災未来センター、独立行政法人防災科学技術研究所などを経て現職。一般社団法人CFW-Japan代表理事。専門は災害経済学、防災・減災・危機管理政策。主著に『キャッシュ・フォー・ワーク――震災復興の新しいしくみ (岩波ブックレット) 』『減災政策論入門―巨大災害リスクのガバナンスと市場経済 (シリーズ災害と社会4)』など

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