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「キャッシュ・フォー・ワーク」がなければ被災地の人口はもっと減っていた―災害経済学者・永松伸吾氏インタビュー前編

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石巻では300人近い被災者が「行政の補助」の仕事をしている


―被災地では役所自体も大きなダメージを受けていて、人出不足で事務がうまく回らないという話を聞きましたが、そういう行政事務の補助の仕事もありましたか?

永松:ありました。たとえば、石巻市は300人に近い規模で、被災者を派遣会社から派遣してもらって、行政事務の補助をしてもらっています。その派遣会社が被災者を雇うお金は、国の「緊急雇用」事業から出ています。それがないと、市役所の事務が回らないんですね。

今年に入ってからも、ある研究プロジェクトで、随分と緊急雇用の現場を回りました。さきほど、被災者をただ雇うだけでろくに仕事もさせないような「雇用のための雇用」になってはいけないという話をしましたが、現地を見て確信しました。そういうことは、今回の被災地の現場ではないですね。絶対にない、と言っていいほどです。

被災地の行政やNPOはそんなに暇ではないんですよ。必要のない人を雇うほど暇も余裕もない。人を雇うためには、採用面接をしたり保険に加入させたり、労務管理をしたりといろいろと大変です。なにか問題があれば責任も問われますし。つまり、被災者がかわいそうだから慈善事業で雇ってやろうという余裕もインセンティブも、被災地の行政やNPOにはないんですね。

雇用された被災者の人は懸命に働いているし、一人一人がすごく重要な仕事をしています。行政の事務一つにしても、それが滞ると、たとえば、業者に公共事業の発注ができないとか、仮設住宅や学校へバスを走らせられないとか、いろんなところで支障が出ます。被災者の人が、いろいろな復興事業をしっかりと下支えしているわけですね。被災者自身が、被災地の復興に責任を負って働いているというのは、一般にイメージする被災者像とはずいぶん違うかもしれない。でも少なくない人々がこれだけの災害に遭いながら、前を向いて動き始めている。それはある意味、感動的ですよ。

私も含め、経済学の頭では、公的雇用と聞くとなんとなく「モラルハザード」とか言いますけど、そんな話は聞かないですね。現場から離れている人はそういうことを言うが、現場では、そんなことが問題になっていると聞いたことがありません。

―復興の進み具合についてですが、永松さんの目から見て、「ここはうまくいっている」というところと、逆に「ここは滞っている」というところの違いはありますか?

永松:滞っているといえば、すべて滞っていますよね・・・。うまくいっているのは、雇用の分野でしょうか。これは、過去の災害ではなかったことですし、世界的にもこれだけ大規模な対策は珍しいと思います。

たとえば、震災発生から昨年末までの約2年間で、岩手・宮城・福島の被災3県で、新規就職者数は約27万人です。そのうちの2割が緊急雇用です。福島にいたっては3割近いんです。つまり、被災地の雇用維持にどれだけ緊急雇用が役立っているかということです。これがなかったら、もっと悲惨ですよ。

―阪神・淡路大震災のときは雇用が外に流れていってしまっていた面があったようですが、今回はうまくいっているということでしょうか?

永松:緊急雇用がなければ、ほかの都市へ流出してしまったという人は少なくないと思います。おそらく就業者だけで、5、6万人の規模はあるでしょう。それに付随する家族のことも考えると、緊急雇用がなかったとしたら、10万人や15万人の規模で、被災地の人口はいまよりもっと減っていた可能性があります。

そういう意味では、緊急雇用というか、復旧・復興事業で被災者を雇用するという「キャッシュ・フォー・ワーク」的な考え方によって、被災地の人口流出に歯止めがかかっているのは間違いないと思いますね。

逆に、うまくいっていない部分――うまくいっていないと言うべきなのかわかりませんが――そういう部分としては、「ハード的な部分」での復興は遅れていますね。

いま津波の被災地では、高台への防災集団移転をやろうとしています。この防災集団移転というのは、災害に関して危険なところから安全なところへ移転することに関して、国が公的な資金で補助する仕組みです。

この仕組みによって、危険な元の土地を、政府が買い取ることができます。そうすると、被災者はそのお金で新しい土地を買って、新たに家を建てることができます。それをしなかったら、また津波がくるかもしれない元の土地に、家を建てるしかありません。被災者の復興のために、防災集団移転という事業を適用して、なるべく税金を入れられるようにしたわけです。それでも自己負担は大きいと言われていますが、その問題を脇においていたとしても、実際にはこれが、ものすごく大変なんです。

まず、移転すべき土地がない。津波被災地の多くは三陸沿岸部で、リアス式海岸ですから、家を建てるのに適した平坦な土地がもともと少ない。移転先の土地をどこに確保するのか、まだ決まってないところがたくさんあります。

さらに、移転するなら移転するということで、移転先には5戸以上が住まなければならないんですが、当然「俺はそんなところに行きたくない」という人が出てきます。また、移転が完了するまでにはそれなりに時間がかかりますが、「それまでずっと仮設住宅に暮らすのは嫌だ」という人もいるんですね。それならば「別のところに住みたい」と。 若くて財力がある人たちが抜けていくと、移転先は高齢者ばかりになってしまう。それでコミュニティの維持が本当にできるのか、という問題がありますね。最近は、いったん高台移転で合意がまとまっていたものが、事業がほとんど進捗しないので、気が変わる住民も出てくるのではないかということも心配されています。

このように防災集団移転はいろいろ問題がありますが、何よりも移転が進まない理由は、事業規模が大きすぎて、行政などの関係者が対応しきれていないということがあるように思います。

今回の東日本大震災では、2万7000戸が移転対象になっているんですね。この防災集団移転事業というのは、昭和47年に制度ができて、東日本大震災が起こるまでの実績はわずか1,834戸しかないんです。その15倍弱の規模を今回の1回の災害でやろうとしている。前例のない規模です。行政事務もパンパンです。日常業務をやるためのキャパシティでは、とてもできるわけがないというレベルです。

また、山を切り開いたり造成したりする建設業者も足りない。さらに、防災集団移転について合意形成をサポートするコンサルタントも不足している。そもそも、そういう事業をやったことがある人が限られていますから。そういう物理的な制約によって、復興が遅れているということがあります

最近では、「民主党政権がだらしなかったから復興が進まないんだ。安倍政権になったらお金をがんがんつきこむから復興が進むはずだ」というもっともらしい言説が発せられていますが、そんな簡単に復興が進むことはありえないです。

そういうレベルの話ではなくて、災害が大きすぎて、復興事業を実施する労働力や業者の数が足りなくて、目詰まりを起こしているんです。だから「復興にミラクルはない」と僕は思っています。

もう一つ、集団移転がなかなか進まない理由として、土地の権利問題があります。政府が移転元の土地を買い取るときに、その土地の持ち主を特定しないといけないのですが、被災地域では、祖父祖母の代からずっと住んでいるが相続の手続きなんかしたことがないという土地があったりするわけです。そうすると、3代、4代前にさかのぼって、相続権者を特定していき同意をもらう必要がある。地権者が数百人に及ぶケースもあるようです。

そうやって土地の権利者の合意をいちいち取っていたら、なかなか進めることができないので、特例措置が必要という声が被災自治体からでは出ています。

ただ、これも微妙な問題ですよね。個人財産にかかわる問題で、いわば資本主義の大前提の部分で、役所の規制とは次元が異なる話ですから。そんなに簡単にできるものではないと思います。

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