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「キャッシュ・フォー・ワーク」がなければ被災地の人口はもっと減っていた―災害経済学者・永松伸吾氏インタビュー前編

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関西大学社会安全学部の永松伸吾准教授
関西大学社会安全学部の永松伸吾准教授 写真一覧
BLOGOSが「知」のプラットフォームSYNODOSとタッグを組んでお送りするインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。今回は「3.11からの復興」をテーマに、関西大学社会安全学部の永松伸吾准教授に話を聞きました。

永松准教授は、東日本大震災の発生直後から「キャッシュ・フォー・ワーク」(労働対価による支援)という新しい災害復興の取り組みを提唱しながら、被災地の復興状況の研究・報告を精力的に行ってきました。被災地に何度も足を運び、この2年間の復興の様子を見守ってきた永松准教授に、被災地の現状と課題、今後に向けた展望を語ってもらいました。【取材・永田正行/構成・亀松太郎(BLOGOS編集部)】 ※後編はこちらから

被災者自身が「被災者支援」の仕事に従事する「キャッシュ・フォー・ワーク」


―永松さんは、災害に関する公共政策の研究者、あるいは、一般社団法人「キャッシュ・フォー・ワーク・ジャパン」の代表理事として、東日本大震災の被災地に関わってこられたと思います。日本では永松さんが提唱したと言われる「キャッシュ・フォー・ワーク」とは、そもそも何なのでしょうか?

永松伸吾氏(以下、永松): もともと僕は、大阪大学の大学院で経済学を学んでいたのですが、その当時は阪神・淡路大震災の直後でしたので、神戸の経済復興を研究対象として博士号をとりました。 

そのとき、復興において「雇用」というのが非常に重要だとわかったんですね。被災地を早く復興しようとすればするほど、外部の人の支援を受けなければいけないのですが、それをやればやるほど、地元の人たちの仕事がなくなってしまうという状況がありました。逆に、なるべく地元に仕事を作るようにすればするほど、復興が遅れてしまうというジレンマがある、ということを研究していく中で学んだわけです。

つまり、外部からの支援の結果として、地元では仕事がなくて困っている人がいたり、飲食店が店をあけても、目の前で無料の炊き出しが行われていれば、客がこなくて困ってしまうというミスマッチがありました。そこを、なんとかうまくつなぐことによって、地元の人たちの仕事も確保しながら、被災地の復興も促進するような「二兎」を得ることができないか、ということをずっと考えていたんです。

そして、どうも海外には「キャッシュ・フォー・ワーク」という手法があるらしいということを、研究の中で学びました。それは、もともと途上国への人道支援の手法の一つで、復旧・復興に関するいろいろな仕事を被災者自身にやってもらったらいいのではないか、というものです。

それまでは人道支援というと、食料を大量に配ったり、お金をばらまいたりしていたわけですが、それではなかなか被災者が自立しない。それよりは、被災者自身に働いてもらったほうが、仕事にもなるし、経済的支援にもなるし、なによりもただお金をばらまくよりも、働いている分だけ具体的に復興が進んでいく。そういう「キャッシュ・フォー・ワーク」という手法がある、ということを知ったんですね。

ただ、日本では「キャッシュ・フォー・ワーク」は無理だろうとも思っていました。というのは、海外のケースでは肉体労働が中心だったので、日本では難しいだろう、と考えたからです。しかし2005年に米国でハリケーン・カトリーナによる災害が起きたとき、被災者を雇用して「被災者支援」の仕事をしてもらっていました。たとえば、電話相談窓口のオペレーターとして働いていたりしました。そういうのであれば、先進国でもできるんだなと。肉体労働ではなくて事務的な仕事だったら、いっぱい仕事を作れるんじゃないか、と。そう考えている時に、東日本大震災が起こったわけです。

「これはえらいことになった」と思って、発生直後の3月13日に釜石に行きました。現地の状況を見ると、既存の産業基盤がほとんど失われてしまっている。電気や水道などのインフラが止まっていることはもちろん、市街地の建物はボロボロでしたし、携帯電話も通じないという状況でした。

そこで、いままで「キャッシュ・フォー・ワーク」は日本ではまったく注目されていなかったけど、今回はやる必要があるでのではないかということをブログに書いたんですね。そうしたら、「そんな方法があるのか」とものすごい反応がありました。そして「やろう」「やるべきだ」という人たちが集まって、「キャッシュ・フォー・ワーク・ジャパン」という名前をつけて団体を作ったわけです。最初はそういう言論活動を中心にやっていきました。

ところが、割とあっさりと、そういう復旧・復興事業に被災者を雇用するという制度的な枠組みができてしまったんですよ。「『日本はひとつ』しごとプロジェクト」というのが4月5日に発表されました。被災者を雇用して災害対応や復旧・復興に関する事業を実施してくれ、そのお金は国が出す、という制度です。

――それまでは、そのような制度はなかったんですか?

永松:実はこれは「緊急雇用」と言われる制度で、リーマンショックのときからあったのですが、それを災害対応の事業に拡張するということを震災後に発表したんですね。それから、各地でいろいろとやり始めました。ただ、そのときは、ほとんどの人が基本的には、がれきの片付けとか、肉体労働のイメージしかなかったので、「どういう仕事をしてもらったらいいのか」というアイデア出しが重要でしたね。

もう一つ心配したのは、被災者を雇用したけれども、ろくに仕事もさせないとしたら、ただお金をあげていることと変わらないわけです。何もしなくてもお金がもらえるとなると、その後の復興を考えたときに、モラルハザードを生む可能性がありました。実際、「キャッシュ・フォー・ワークが被災者の労働意欲を阻害する場合がある」ということも、先行研究では明らかにされていました。

したがって、「そうならないように」ということで、制度ができてしまったあとは、どちらかというと、「キャッシュ・フォー・ワーク」に関するコンサルティングの活動をやろうということになりました。そして、いろんなところに行って調査して、面白い事例をどんどんウェブサイトで紹介するということをやっていました。

―具体的には、被災者の仕事として、どういう業務があったんですか?

永松:本当にいろいろあるんですけど、初期の頃は「がれき」関係ですね。がれきといっても、実は、緊急雇用としては「がれき処理」というはできません。派遣業と同じで、建設業の業務は規制されているからです。例外的に市町村単独のお金でやったものは、がれき処理をやっているところもありますが、ほとんどが、がれき片付けそのものではなく、がれきの中に混ざっている「思い出の品」を回収するといった周辺のことをやっていました。

それから、避難所の清掃業務とか、炊き出しの配膳業務とか、避難所の運営に関する仕事。そして、仮設住宅ができてからは仮説住宅の入居者のケアや見守り、仮設住宅の集会所などの管理業務。それから、救援物資の仕分けですね。漁業の方面では、漁業者が船を出せないので、海の中のがれきを回収するというのもありました。これらをみな「緊急雇用」で行いました。それを僕は「日本版キャッシュ・フォー・ワーク」と呼んでいるわけです。

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