- 2022年02月20日 16:21 (配信日時 02月16日 14:12)
バイデン大統領が「ウクライナ」を重大視する4つの理由 - 斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)
2/2情勢の行く末を注視する中国はロシアと距離を置く?
②次に、バイデン政権が、中国による台湾侵攻の可能性と関連付けている点が挙げられる。
プーチン大統領は今月4日、北京で、習近平国家主席と2年ぶりの首脳会談に臨んだ後、5364字に及ぶ長大な共同声明を発表、この中で両国が米国と対抗する「連携強化」を確認し合った。しかし、ウクライナへの直接言及はなかった。中国側は、ロシアに自制を求める国際世論が盛り上がりつつあることから、今回あえてこの微妙な問題についてプーチン氏とは距離を置いたとみられている。
しかし、中国はその一方で、ロシアが実際にウクライナ侵攻に踏み切った場合、米欧諸国が具体的にどのような対応を見せるかを注視していることは間違いない。すでにバイデン政権が予告している「対露経済制裁」についても、単にその内容だけにとどまらず、それがどれくらいの長期に及ぶのか、また、欧州のいくつの国がいつまで米国と同一歩調をとり続ける覚悟があるのかなど、すべてが重大関心事だ。
そしてもし、ロシアが何らかの形でウクライナに侵攻後、14年クリミア併合時と同様、時間をかけ既成事実化させていくことに成功したとしたら、それは言うまでもなく、中国を台湾侵攻に踏み切らせる呼び水になる。
今世紀以来、「アジア・シフト」の戦略を推進してきた米国にとっては、中国の台湾侵攻は実は、ロシアのウクライナ以上に最悪事態であり、何としてでも回避させなければならない事情がある。さらに、中国人民解放軍が大挙して一挙に台湾に攻め込んだ場合、米軍の防戦は事実上不可能、というのが米側専門家たちの大方の見方だ。
従って、バイデン政権の当局者たちは、当然のことながら、今回中国が「ウクライナ危機」に異常なほどの関心を抱いていることを十分理解しており、当面は、なんとしてもプーチン大統領に侵攻計画の再考を促す必要に迫られている。
目下のところ、ホワイトハウスや国務、国防総省が連日のように、ロシア軍部隊の動きを積極的に内外に公表し、「侵攻切迫」警報を鳴らし続けている狙いも、まさにそこにある。
その結果、何らかの形で米露間が歩み寄り、危機の地雷を除去することができたとすれば、中国側も今後、対台湾戦略の見直しを余儀なくされることにもなりかねない。
外交方針上、プーチンの要求は受け入れられない
③バイデン大統領は昨年春、就任100日目を迎えた記者会見で外交基本戦略を説明、その中で、中国とロシアの両国を「専制主義国家」と位置付けた上で、自由主義世界全体として今後、「専制主義との戦い」に断固たる姿勢で臨むことを強調した。これは、その後のバイデン外交の「大看板」ともいうべきものだ。
そこに現れたのが、「ウクライナ危機」だった。
バイデン政権側からみれば、今回の危機は、ロシア側が一方的に作り上げたものであり、初めから妥協の余地はあまりない。
これに対し、プーチン大統領はこれまで、米欧主要国首脳との数回にわたる対面、電話会談を通じ①北大西洋条約機構(NATO)をロシア近隣の東欧に拡大させない②ウクライナのNATO加盟を認めない――の2点を繰り返し求めてきた。
しかし、まず①については、NATOへの参加は機構の性格上、各国の自由意志を前提としたものであり、プーチン体制下で勢力拡大に乗り出しているロシアの存在を脅威と受け止め、自国の安全保障上の理由から参加を新たに希望する国があれば、それを拒むわけにはいかない。従って、ロシアの軍事力強化と勢力拡大が続く以上、今後、NATO加盟国は増えこそしても減ることはあり得ない。
②についても、ウクライナ国内北東地区にロシア系住民が居住するものの、世論調査では国民の65%近くが「NATO加盟」を支持している。ゼレンスキー大統領も加盟への期待感を表明している。また、逆にロシアへの編入を希望する国民は少数に過ぎない。
バイデン大統領としては「専制主義との戦い」を外交基本方針として大々的に掲げているだけに、こうしたウクライナを取り巻く国際環境の実態を無視するプーチン氏の要求は受け入れることはできず、ましてや、ロシア軍によるウクライナ侵攻はいかなる意味でも容認できないという立場だ。
中間選挙や内外経済への影響も必至
④「ウクライナ侵攻」が国内政局にもたらす影響も無視できない。
とくに11月中間選挙を控えている時だけに、バイデン大統領としてはもし、「ウクライナ危機」対応で失敗すれば、ただちに深刻な支持率低下に直面する。
内政面での当面の重要課題は、いぜん収束を見せないコロナ対策と、国民生活を圧迫しつつある7%近くの物価上昇の2つだ。
加えて外交面で結果的に、ロシア軍のウクライナ軍事侵攻を許し、その対抗措置として欧州、アジア諸国をも巻き込んだ大規模な経済制裁に踏み切った場合、国際経済の混乱は拡大し、その波紋は米国市民生活にも広がることは必至だ。
与党民主党はこれまで、上下両院ともに薄氷の差で制してきたが、今年11月中間選挙では、ただでさえ当初から苦戦を強いられてきている。
今後、かりにバイデン政権が早期のコロナ収束とインフレ退治に成功した場合でも、中間選挙については「下院では共和党が十数議席差で多数を制し、上院は五分五分」というのが、最近までの下馬評だった。
しかし、「ウクライナ侵攻」の結果、内外経済情勢に悪影響が広がったまま投票日を迎えた場合、下院はおろか、上院も共和党に明け渡すことになり、ひいては24年バイデン再選戦略にとっても致命的となる。
従ってバイデン政権としては、道理にまったく反するロシアの今回の暴挙の動きを何としてでも事前に制止する必要に迫られている。しかし、それが米国単独では不可能なゆえに、英仏独など欧州諸国および日韓などアジア諸国との結束に向けて、異常なほどのエネルギーを注いでいる段階だ。
実際に動き出すかはプーチンのみぞ知る
問題は、こうした米側の事情にロシアがどこまで耳を貸すかどうかだ。
ひとつの見方として、今回の場合、過去2回の時とは異なり、ロシア軍の動向は神経を研ぎ澄ました米側インテリジェンスによって事前に細部にわたり監視されており、機密情報が世界中に流布されているため、実際には動きにくくなっている側面もある。
しかし、すべてを決するのは、プーチン氏の胸先三寸次第だ。
米情報機関は、表面に現出する動きはキャッチできたとしても、プーチン氏の隠された「意図」まで読み取ることまで期待できず、能力も及ばない。
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