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「石原慎太郎さんとの私的な思い出 1」続:身捨つるほどの祖国はありや 14

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写真:石原慎太郎氏(2009年10月) 出典:Photo by Peter Macdiarmid/Getty Images

牛島信(弁護士・小説家・元検事)

【まとめ】

・石原さんから芥川賞の期待を受けたが、期待に応えられなかった。

・私は、石原さんの三島由紀夫に対する複雑な思いを想像していた。

・「あなたは男と女が書けてない」と指摘する石原さんに「男女より個人と組織」と答えた私。

私は石原さんの期待を裏切ってしまった。

「あなたに芥川賞をあげるよ。なに、ほんの150枚かけばいいんだ。雑誌社にも話してある。」

そういわれたのは、2003年よりも前だった。

「君の文章は手練れだな」とも言ってくださった。

それで私は、2003年の年賀状に、「今年は大きな目標を抱えています。『一年待つ』といわれています。」と記している。石原さんに言われてのことだった。

石原さんが、『en-taxi』という雑誌の第一号、2003年春の対談で私について触れている。

「変な話だけど、牛島信という、不思議な推理小説家がいるんだよ。これは一番東京で流行っている弁護士なの。だから事件のネタをふんだんに持っている。しかし幻冬舎の見城徹が彼に、痛烈に言うのは、あなたの小説の人物は立ちあがってこないって。確かにそのとおりだな、と」

確かに、石原さんにも見城さんにもそう言われたことがある。

石原さんは、その雑誌の対談の席で、伊藤整について私と話したこと、あとは意識の襞の問題じゃないのと言った、とも語っている。

石原さんは70歳。私は53歳。

石原さんを紹介してくれたのは見城徹さんだった。1998年11月19日のことだった。衆議院議員を辞められ、都知事になられるほんの4年の間に起きたことだ。

そのとき、私は、石原さんが著書で引用していたアンドレ・ジッドの『血の糧』から、「君に情熱を教えよう。・・・私は心中で待ち望んでいたものをことごとくこの世で表現した上で、満足して――まったく《絶望しきって》死にたい。」という一節を印字した紙を持って行って、そこに石原さんの署名を貰った。

石原さんは署名してくれながら、こんな文学青年みたいなことするなよ、と私をたしなめながらも、ナタナエルをナタニュエルと訂正までしてくれた。

今、手元の『石原慎太郎短編全集Ⅰ』(新潮社 1973年刊)の見返しには石原さんの署名がある。きっとあのときいっしょに持って行ったのだろう。2巻本で4,000円もするものを、よくも買って持っていたものだ。私は早くから石原さんのファンだったのである。殊に、『処刑の部屋』に惹かれていた。

一年どころか何年も待たせたあげく、結局私は石原さんの望むものを書かなかった。最後には、「もう芥川賞の委員を辞めるのでね」と、わざわざご挨拶に私の今の事務所に来てくださった。記録によれば2013年にお辞めになっているから、そのころのことだったのだろう。石原さんという方は、そういうなんとも律儀な方だった。

「君の事務所、見せてくれよ」と初めに私の事務所にいらしたときのこと、食事をした近くのシティクラブ・トーキョーから歩いて数分のところまでの間、いっしょに歩いていると人々が振り返ってみる。ことに横断歩道で立ち止まると信号待ちの人がみな石原さんを見上げていた。

事務所の部屋で、石原さんは、「三島さんは頭のいい人だったな」と私に向かってつぶやいた。しみじみとした調子、様子だった。その時、私は、「もう石原さんはどうやっても三島さんにかないませんよね」と言った。余計なことを口にした。

「なぜだ?」

石原さんは少しむきになって質した。

「だって、三島由紀夫は45歳で腹を切って死んじゃったでしょう。石原さんは生きのびてしまった。もうどうにもならないじゃないですか」

そう答えた私に、石原さんは、

「うるさい。死にたくなったら俺は頭から石油をかぶって死ぬよ」と答えた。

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