- 2022年02月15日 15:44 (配信日時 02月15日 06:00)
トランプが「人種差別者は黒人」とレッテル貼りする理由 - 海野素央 (明治大学教授 心理学博士)
2/2バイデンに追い風
最新の世論調査結果をみると、最高裁判事指名に関してバイデン氏に追い風が吹いている。エコノミストと調査会社ユーゴブの共同世論調査(22年1月29日~2月1日実施)によると、最高裁における人種の多様性に関して、有権者の66%が「重要である」と回答した。20年米大統領選挙でバイデン氏に投票をした有権者の92%、無党派層の61%が重要であると捉えている。
さらに同調査では、黒人女性最高裁判事指名について53%が賛成、25%が反対と答えた。昨年8月から支持率低迷が続いているバイデン氏にとって、黒人最高裁判事誕生がゲーム・チェンジャー(不利な状況を変える出来事)になり得るのか注目だ。
トランプは人種差別の被害者? 「波及するメッセージ」
バイデン大統領の黒人女性判事指名を意識したトランプ前大統領と共和党議員が、黒人を巡る発言を繰り返している。トランプ氏は1月29日、南部テキサス州で支持者を集めた大規模集会を開き、ニューヨーク州、ジョージア州およびワシントンDCの3人の検事を「急進的な悪意のある人種差別者」とレッテルを貼って厳しく非難した。
彼らはトランプ一族が経営するトランプ・オーガニゼーションの脱税疑惑、20年米大統領選挙においてトランプ氏が南部ジョージア州務長官に圧力をかけた問題と、21年1月6日に発生した連邦議会議事堂乱入事件を調査している。ポイントは、3人の検事全員が黒人であることだ。
米ワシントン・ポスト紙のクリーブ・ウットソン・ジュニア記者は、トランプ前大統領はテキサス州の集会で支持者に対して「自分は人種差別の犠牲者である」というメッセージを発信したと指摘した。確かにその通りだ。
白人中心の支持者は、トランプ氏のメッセージを「白人男性は人種差別の犠牲者である」と解釈するだろう。彼らは「白人男性は不公平に扱われ差別されている」というメッセージを支持者間に波及していくのだ。
「人種差別を行うのは黒人」という「隠されたメッセージ」
白人男性は生まれながらにして特権を得ている。だがその特権は今、失われつつある。しかも彼らは差別まで受けている。
このようなストーリー(物語)を構築したトランプ前大統領の狙いは、支持基盤の中核を成す白人男性の怒りや危機感を煽り、24年米大統領選挙まで彼らを活気づかせることである。一言で言えば、白人男性の「士気の維持」といえよう。
トランプ氏のメッセージには「隠されたメッセージ」が存在する。
人種差別を行うのは実は白人ではなく、黒人であるというメッセージが隠されているのだ。白人が黒人を差別するのは大嘘で、「逆差別」が真実であると言いたいのだ。
トランプ前大統領のメッセージに基づけば、バイデン大統領の黒人女性最高裁判事指名は、白人男性に対する差別になる。トランプ氏のメッセージは、正に「波及する隠されたメッセージ」といえる。
「白人男性VS黒人女性」
黒人から人種差別を受けているというトランプ前大統領のメッセージを受信した白人男性の支持者は、バイデン氏の黒人女性最高裁判事指名に反対することは容易に想像できる。上で紹介したエコノミストとユーゴブの共同世論調査によると、20年米大統領選挙でトランプ氏に投票した有権者の57%が、すでに黒人女性最高裁判事指名に反対している。
トランプ前大統領は「白人男性VS黒人女性」という新たな対立構図を作り、支持基盤である白人男性の結束を図るために人種を絡めたメッセージを発信していることは確かだ。トランプ氏の応援団も黙っていない。
テッド・クルーズ上院議員(共和党・南部テキサス州)は、バイデン大統領の黒人女性最高裁判事指名の約束に関して、「『あなたが白人男性や白人女性ならば運がなかった。(最高裁判事になる)資格がない』と言っているようなものだ」と批判した。クルーズ上院議員は白人男性と白人女性に対する人種差別であるというメッセージを発した。
今後、クルーズ氏や他の共和党議員はバイデン氏の黒人女性指名の約束を、連邦最高裁における「アファーマティブ・アクション」とレッテル貼りをして、ますます攻撃を強めていくだろう。
仮にそうなれば、トランプ前大統領から黒人、ヒスパニック系並びに無党派層の票が逃げる可能性が高まる。黒人を人種差別者として非難する選挙戦略は、結局トランプ氏と共和党にとって逆効果になるのではないだろうか。
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