記事
  • WEDGE Infinity
  • 2022年02月14日 13:42 (配信日時 02月14日 07:40)

三菱商事も困惑? 「風力発電業界」は国家窮乏策を望むのか - 堀井伸浩 (九州大学経済学研究院准教授)

2/2

新規参入者が牽引するイノベーション

産業育成については中国の経験から論じてみよう。中国では17年以降に洋上風力の導入が加速し始めるが、その背景にあったのが国内の風力発電システムメーカーの「競争の激化」であった。

中国は世界最大の風力発電導入国であり、陸上風力は2000年代後半に国内メーカーの成長がコストダウンを先導したことが導入の大きな後押しとなった。洋上風力についても国有企業である上海電気が16年には設備の82.6%と圧倒的なシェアを押さえていたが、20年にはそのシェアは38.5%にまで急低下、遠景能源と明陽智能がともに21.7%にまでシェアを急上昇させた。

上海電気の洋上風力発電システムはドイツ・シーメンスの技術ライセンスを受けて生産するものであるが、遠景は国内の東方電気と共同開発した国産技術を用いたシステムであり、上海電気製と比べ価格は3割程度安いという。まだ数年の歴史しかない中国の洋上風力であるが、既に11社の風力発電システムの最終的な組み立てを行うアセンブリーメーカー、21社の運用企業が存在しており、こうして「競争の激化」が進んでいることで洋上風力の発電コストが急激に低下し、それが近年の導入急拡大の追い風となっている。

この中国の洋上風力発電システムメーカーの競争状況からわが国は何を学ぶべきだろうか? 何と言ってもまずは、中国政府の競争促進によるコストダウンを追求する姿勢である。

中国政府は元来、再エネの導入制度において企業間の競争を促し、価格を引き下げる効果を重視してきた。陸上風力の導入にあたっては競争メカニズムが働きやすい再生可能エネルギー割当基準(RPS)を採用し、太陽光はFITを採用したとは言え、世界でも最低水準の買取価格から出発し、その後も果断に買取価格を引き下げた。陸上風力の経験があるとはいえ、中国メーカーにとって新たな技術である洋上風力についても、22年からは中央政府による補助金は完全撤廃し、買取価格は大幅に引き下がる見通しである。

買取価格の引き下げを進めてコストダウンを迫る環境を政府が作り出してきたということになるが、それに企業が応えることができるかどうかは確実ではない。中国が成功してきたのはやはりメーカーの新規参入を促し、多数の企業による競争が実現したことにあり、洋上風力でも上海電気によるほぼ独占態勢が続けばコストダウンは実現しなかっただろう。

競争のない日本企業は世界から姿を消す

それは政府が先行企業を保護する姿勢を取らなかったからこその賜物だ。太陽光に至っては、いったん業界首位を占めた企業であっても数年後には没落する例がいくつもある(「日本の「グリーン成長」を可能にする条件は?(中編)」(国際環境経済研究所、21年3月11日)。新規参入企業が先行企業を打ちのめして台頭できたのは競争の条件が明瞭であったためであり、中国でも安定性など価格以外の要素が入札において考慮されないわけではもちろんないが、価格こそが最も重要な選定基準となっている。

中国は風力も太陽光も後発ながら国内メーカーの育成に成功しており、その秘訣は行政による保護ではなく、競争を通じたものであったという点はわが国が真摯に学ぶべきことである。

わが国は風力も太陽光も2000年代までは世界上位の一角を占める実力のあるメーカーを抱えていたが、現在はランキングから姿を消したどころか、アセンブリーメーカー自体が存在しなくなりつつある。巻き返しのためには行政の保護の下で護送船団的に共存を図る生ぬるい発想を捨て去る必要がある。

その意味で、三菱商事コンソーシアムの「価格破壊」は「風力発電業界」の生ぬるい発想を打ち破る強烈な目覚ましとなったと評価している。しかし「風力発電業界」は今後の入札基準の見直しや審査評価の透明化、更には今回の入札結果さえも見直すべきと政府に「政商」のように圧力をかけているという(「三菱商事「価格破壊」の衝撃…ニッポンに巣食う「再エネ政商」の目を覚まさせる“一撃”となるか」マネー現代)。

先に述べたように、今回の入札の制度設計に不備があったことは否めないが、だからと言って価格水準の比重を低め、事業可能性という曖昧さの残る基準の比重を高めるのは誤りである。国情が異なるので同じようには考えられないかもしれないが、中国では洋上風力に限らず陸上風力でも、国家プロジェクトに関する事業可能性は国が前面に出て担保し、事業者は価格と発電の安定性の面で競い合う状況となっている。企業にとっては効率性を上げるための努力に専念できる状況であると言える。

レントシーキングに政府は屈せずイノベーション支援を

経済学にはレントシーキングという概念があり、民間企業などが政府に働きかけ、制度や政策の変更を行うことで、自らに都合よく規制を設定することで超過利潤(レント)を得るための活動を指す。自分で努力して市場競争力を上げるよりも政治を動かしてライバルを排除した方が費用が掛からない場合にレントシーキングが発生する。

レントシーキングがもたらす帰結は競争の欠如によるイノベーションの喪失であり、コストの高まり=効率性低下という形で社会全体が被害を受ける。筆者には「風力発電業界」の行っていることはレントシーキングに他ならないように見えるし、最近政治家の中にも三菱商事を叩くことで制度見直しに介入しようと蠢動(しゅんどう)する動きが始まっているようだ。

資源エネルギー庁は今後の風力発電プロジェクトの評価基準を見直す方向性を示唆したとする報道もあるが、政府は真にグリーン成長を実現しようとしているのであればレントシーキングに決して屈するべきではない。三菱商事コンソーシアムは他の企業が考え付かなかったスキームを生み出したのであって、それこそイノベーションに他ならない。それを否定し、価格以外の評価基準の比重を上げることは、行政による恣意的な決定がなされるリスクを引き上げ、今後先行企業以外の企業の新規意欲を挫いてしまうだろう。政府はイノベーションを活発化させるために、先行企業の影響力排除こそを行うべきだ。

競争の阻害は国民負担増を招く

そもそも中国が驚異的な規模で洋上風力を急拡大し、買取価格の引き下げにより競争圧力を強めている状況を踏まえれば、わが国が高い買取価格を保証するようなことをしていては、中国企業に対抗したアジア展開など望むべくもなく、国内の限られた内需だけではグリーン成長は画餅に終わるのは確実だ。

結局、国内の洋上風力導入コストも高止まりして、買取価格費用を更に増大させ、国民負担が増すばかりとなる。21年度末までにFITで認定された再エネの導入で30年には最大4.9兆円にまで買取費用は膨らむことがほぼ決定している。更に洋上風力でも手厚い国の支援を望むというのはさすがに国家窮乏策ではないか。

カーボンニュートラル目標を実現するためにはコスト引き下げとグリーン成長は欠かせず、そのためにはイノベーションがカギを握る。政府はイノベーションを支援する姿勢を堅持することが必要だ。

あわせて読みたい

「風力発電」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。