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「会社の窓口は信用してはいけない」パワハラ相談の5割がもみ消されているという驚きの事実

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日本社会に蔓延する「経営服従型いじめ」

筆者は著書『大人のいじめ』を通じて、いま日本中を覆い尽くしている、労働者をひたすら使いつぶすことで利益を上げる労務管理や経済の在り方が、パワハラを積極的に必要としてきたことを論じてきた。職場のストレスによる不満の矛先を経営者に向けさせないために、あるいは経営の論理を優先する働き方についていけない労働者を「矯正」「排除」するために、ハラスメントが「役立って」いるのだ。いわば、労働者を沈黙させ、「支配」するためのシステムである。筆者はこれを「経営服従型いじめ」と呼んでいる。

ワーククラスピラミッド
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rudall30

このような職場が蔓延する社会では、コミュニケーションや啓発によるパワハラ対策では、焼け石に水だろう。ちなみに、前述の経団連のハラスメント調査で、ハラスメント防止・対応の課題について「長時間労働」を挙げたのは、回答した企業のうち、わずか5%であった。

多くの大企業のトップたちは、自分たちが依存してきた低賃金・長時間労働からの転換には目もくれず、表面的な「対策」に問題を矮小(わいしょう)化しようとしている。それは、労働者を使いつぶすことで経済成長を目指してきた、これまでの資本主義の在り方に、これからも頼り続けたいからだろう。逆に言えば、ハラスメントを根本から減らしていくことは、職場の在り方を、経済の在り方を変えることにつながるのだ。

「会社が助けてくれる」幻想は一旦捨てよう

「会社が助けてくれるはず」という幻想は、一旦捨てたほうがいい。もちろん、真面目に対策に取り組もうという会社の存在は否定しないが、そんな「ガチャ」には期待できない。上からの「ハラスメント対策」は、まず疑ってかかるべきだ。

ハラスメント被害に対抗するためには、労働者としての権利を行使することだ。労働者からの強力な突き上げがあって初めて、ハラスメント対策や職場環境の改善に、企業も重い腰を上げるようになる。たしかに、「大ごとにしたくない」という被害者もいるだろう。そういう人でも、少なくとも権利行使のための準備はしておくべきだ。

ハラスメントの連鎖を断ち切れるのは労働者自身

具体的には、可能な限り被害の証拠を残すことだ。スマートフォンの録音アプリやICレコーダーで、加害者の言動の録音を取っておこう。メールやSNSによるハラスメントは、そのままデータやスクリーンショットを保存しておいてほしい。動画を撮影できるのなら、それもかなり大きな証拠になる。一方で証拠がなければ、パワハラの事実が認められることは、残念ながらかなり困難になってしまう。

ポケットボイスレコーダーの録音ボタン
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tomasz Śmigla

そして、早めに会社以外の相談窓口に相談してみてほしい。たとえ、あとから会社に相談することになったとしても、その前に専門家の意見を仰いでおくに越したことはない。労働者側の立場で労働問題を専門とする弁護士たちもいる。あるいは、筆者が役員を務めている、NPO法人POSSEや総合サポートユニオンのような、職場の理不尽に対して声を上げる労働者をサポートする支援団体や労働組合もある。

ハラスメントの連鎖を断ち切ることができるのは、労働者自身の力だ。その行動は、会社に対する幻想を捨て去り、ハラスメントと労働者使いつぶしの資本主義で荒廃していく日本社会を変えていく一歩にもなるはずだ。

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坂倉 昇平(さかくら・しょうへい)

NPO法人POSSE理事

1983年生まれ、静岡県出身。ハラスメント対策専門家。京都大学大学院文学研究科修士課程修了。2006年、労働問題に取り組むNPO法人POSSEを設立。08年、雇用問題総合誌『POSSE』を創刊し、同誌編集長を務める。現在はPOSSE理事として、年間約5000件の労働相談に関わっている。共著に『18歳からの民主主義』(岩波新書)、『ブラック企業vsモンスター消費者』(ポプラ新書)。

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(NPO法人POSSE理事 坂倉 昇平)

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