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五輪イヤー侵攻はロシアの〝お家芸〟過去傍観の米は露の面子保つ解決策を

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▲写真 チェコスロバキア占領下のプラハ中心部で、ソビエト軍の戦車と市民 (1968年8月25日) 出典:Photo by Keystone/Getty Images

ドプチェク氏らはモスクワに連行されたが、国際的な非難、圧力を受けて、ソ連はやむなく解放。しかし、自由化路線はその後、勢いを失い、同氏は翌年、失脚、保守派が再び台頭した。

東京五輪女子体操で個人総合など3個の金メダルに輝き、日本で大きな人気を誇ったチェコのベラ・チャスラフスカ選手は、芸術家、知識層などが、自由化の推進を求めた「2000語宣言」という公開状に署名していたことから、当局の嫌がらせにあい、10月12日のメキシコ五輪開会式直前になってようやく出国が認められた。

メキシコでは、個人総合など4個の金メダルを獲得したが、ソ連の侵攻に抗議して東京での赤ではなく、青のレオタードで演技、優勝を逃した平均台での表彰式では、抗議の意味を込めて金メダルを獲得したソ連選手とは挨拶も交わさなかった。

引退後は私生活でのトラブルもあり、華々しい活躍ぶりとは裏腹につらい晩年を送った。2016年、74歳で寂しく亡くなった。

▲写真 メキシコオリンピックで跳馬演技をするベラ・チャフラフスカ選手(1968年10月25日) 出典:Getty Images Sport

■ 五輪に暗い影落としたハンガリー動乱

メルボルン夏季五輪(11月22日開幕)直前のハンガリー動乱も、自由化を求める市民の要求を戦車が蹂躙した冷酷な事件だ。

1956年の春から始まった社会主義労働者党の圧政に抵抗する市民らの抗議活動は、次第に激化。7月に保守・強硬派の労働者党書記長が登場したのを機に、10月には治安機関と対立、政府機関の占拠に発展した。

10月下旬と11月のはじめの2度にわたって、ソ連軍の戦車2500両、15万人の部隊が侵攻。11月10日までの間、労働者、学生、知識人らとの衝突が続き、2万人近い市民らが犠牲になったともいわれる。

▲写真 首都中心部を占拠するソビエト軍の戦車(1956年11月5日 ハンガリー・ブタペスト) 出典:Photo by Keystone/Getty Images

事件後、ソ連の後押しで登場した新政権は1200人を拘束、その死刑を執行した。

事件のさ中に、国民慰撫のために就任した改革派が支持する首相も、ユーゴ大使館に亡命したが、結局ソ連に捕らえられ2年後に処刑された。

事件は当然のことながら、五輪にも影を落とした。

水球のソ連対ハンガリーの試合では、両国選手が乱闘、取材した日本の特派員によると、「血潮が糸を引いて水の中から湧き上がってきた」という凄惨な状況だった。 

ちなみに、この年冬季五輪は1月から2月にかけてイタリアのコルチナ・ダンペッツオで開催。スキー男子回転に出場した猪谷千春選手が2位に入り、日本人として初めて冬季五輪でメダルを獲得した。日本にとっては記念すべき大会だった。

■ 米、平和共存優先させ介入避ける

これら一連の過去の旧ソ連、ロシアによる侵攻を振り返ってみると、いくつかの疑問が浮かびあがってくる。

最大のナゾは、今回のウクライナ問題でロシアをしきりにけん制しているアメリカがなぜ、過去には介入しなかったのかーということだ。

様々な解説、見方がなされている。

いずれも米国の大統領選の年に起きていること、チェコ事件についていえば、ジョンソン政権が、戦略兵器制限交渉(SALT)を控え、ソ連を刺激したくなかったこと、アフガニスタン問題では、テヘランの米大使館人質事件の発生直後で、カーター政権が、この解決に忙殺されていたーなどだ。

いずれももっともらしい分析だが、背景にあるのは、もっと本質的なことではあるまいか。

アメリカが、ソ連とその衛星国との問題に関わるのを、あえて避けたとみるべきだろう。冷戦たけなわの当時、相手の勢力圏に手を伸ばすことは、力のバランスを失わせ、まがりなりにも保たれていた東西の共存体制を崩す危険があったからではないか。

■ 米は融通無碍な外交で決着図れ

しかし、いまは状況が異なる。

冷戦ははるか昔の物語、ソ連も消滅した。

今日、アメリカは世界の問題に関与するに、だれはばかることはない。

今回のウクライナ危機でアメリカは、周辺国に兵力を派遣、ロシアをけん制する一方、プーチン大統領が武力侵攻を強行すれば、大規模な経済制裁を断行する構えをみせている。国際貿易のドル決済からロシアを締め出すことなどが検討されているという。しかし、強硬策一辺倒でいいのか。

2月7日に行われたプーチン大統領とフランスのマクロン大統領との会談について仏側は「ロシアがあらたな軍事行動をとらないと約束した」などと発表した。ロシア側は翌日、これを否定したが、どちらが真相かはともかく、ロシアがかならずしも、武力にこだわっているのではないという事実が透けて見える。 

▲写真 露仏首脳会談 右プーチン大統領、左マクロン仏大統領(2022年2月7日) 出典:ロシア大統領府

アメリカとしては、振り上げたこぶしをプーチン大統領がメンツを保っておろすことができる収束方法をさぐるべきだろう。

強硬策や武力でことを解決することだけが、超大国の役割ではない。

ハンガリー動乱、チェコ事件とは時代が違う。アメリカは唯一の超大国として、どの国とも、どの首脳とも忌憚なく話ができる融通無碍な外交政策を展開すべきだろう。

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