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日本に波風を立てつづけた石原慎太郎を悼む

田原総一朗です。

石原慎太郎さんが亡くなった。 僕にとっての石原さんの存在を、何と呼べばいいだろう。 親友、盟友、仲間……、どれも違う気がする。 ともかく長い付き合いだった。

初めは僕が一方的に、「作家・石原慎太郎」を知った。 僕は早稲田の文学部に通いながら、作家を目指す学生だった。 ある日『太陽の季節』という小説を読み、大きな衝撃を受けた。

すさまじいリアリティ、これまでの価値観を真っ向から粉砕する、強烈な迫力に圧倒された。 僕は「とてもかなわない」と、作家の道をあきらめた。 石原慎太郎に挫折させられた、と言ってもいい。

その後、石原さんは政治の世界に入り、僕はジャーナリストになった。 ある時、雑誌の依頼で、対談をすることになった。 石原さんは、「今の日本は対米従属であり、自立した国家にならなければならない。そのためには憲法を改正し、軍隊をもつべき」と主張した。

僕は石原さんの持論に「リアリティがない」と反論し、大げんかになった。 大げんかはそのまま記事になり、石原さんはさぞ怒っているだろう、と考えていた。 ところが、後日、石原さんの事務所から、意外な連絡が来たのである。

その記事を「後援会の冊子に転載してもよいか」という許可の連絡だった。 なんと「石原がとてもおもしろがっている」というのだ。 あの大げんか記事を、である。 私は驚き、石原さんの懐の深さ、人間の大きさを感じた。

それからはことあるごとに、連絡を取り合う関係になった。ある日、石原さんが、「ハト派という人たちがいるが、何を言いたいのかさっぱりわからない。田原さん、誰か紹介してくれ」と言ってきた。 私は加藤紘一や、小渕恵三らを紹介した。

意見が違う人物を否定しない、そしてその意見をきちんと聞く。 石原さんと僕の考え方は違うが、その点は一致していたと思う。 だからこそ石原さんと僕は、何度も意見を闘わせ、共著も2冊出した。

30代の頃、衆議院議員だった石原さんは、田中角栄の「金権政治」を徹底的に批判、『文藝春秋』に「君、国売り給うことなかれ」という論文も発表した。 立花隆の「田中角栄研究」が掲載される、前月のことである。 しかし政界引退後の2015年、「あらためて田中を見直したい」と僕に取材を申し込んできた。

僕は、1時間半くらい、ロッキード事件などについて話した。 その後、石原さんは、『天才』を出版。 かつて強烈に批判した田中角栄を、見事に描き切った。 やはり石原さんは、「作家」なのだとあらためて思った。

かつて僕は、石原さんの「日本自立論」を「リアリティがない」と批判した。 しかし、いまアメリカは経済が悪化し、他国のことを守る余裕などない国になっている。 つまり、日本の「対米従属」は不可能になり、日本の「主体的安保」は必要に迫られている。 「憲法改正」すべきという、石原さんの論が非常にリアリティを持っている。 そんな時期に石原さんが亡くなられたことは、とても残念だ。

石原さんは、「作家として政治を行った」人物だと思う。 自分でもよく「私は作家だから」と言っていた。 作家というのは、「波風を立てる」のが仕事だ。 だから忖度などせず、多くの発言で日本に波風を立ててきた。 そして、そこには確固たる信念があった。 あれだけ言いたいことを言った政治家は、後にも先にもいないだろう。 もっともっと議論をしたかった。 石原さんのご冥福をお祈りします。

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