- 2022年02月08日 13:03 (配信日時 02月08日 09:15)
トヨタやソニーもかなわない…エアコンのダイキンが株価上昇率で「グーグル超え」のワケ
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リビングルームで食事を楽しんでいる家族 - 写真=iStock.com/Edwin Tan
経営陣の強い危機感が原動力に
ダイキンは2015年、異業種・異分野の技術を持つ企業や大学や研究機関との「協創」を掲げ、380億円を投じて「テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)」を設立した。
また、2015年の「パリ協定」(気候変動を抑制するための温室効果ガス削減に関する国際的取り決め)に賛同した同社は、2018年に「環境ビジョン2050」を策定した。
ここで、長期的視野に立って2050年の社会変化を予測し、これから進むべき方向として「温室効果ガス排出実質ゼロを目指しながら、安心で健康な空気空間を提供」することを謳っている。
これらの積極的な改革推進の背景には、技術競争で勝ち続けること、そして顧客にこれまで以上の新しい価値を提供できなければ、メーカーとして永続的な発展はないという、経営陣の強い危機感があった。
これについてダイキンの井上会長は「2050年に世界の空調需要が現在の3倍に拡大すると予測される中、快適な空気環境を提供すること、温暖化影響を限りなく低減することが、ダイキンの社会的使命である」と語っている。
経営陣がグローバルかつ30年以上の長期スパンで課題を捉え、強い危機感を持ったからこそ、ビジョンをアップデートできたといえるだろう。
そして、未来に向けたビジョンへの投資の一つが、前述したダイキン情報技術大学の設立で、ここで同社は、新たなビジョンの実現に向けたDX人材の育成を進めている。
ダイキンはこのようにして、この10年間でグーグルを上回る株価の成長率を達成し、さらに未来に向かって突き進んでいるのである。
ダイキンが示した“DXの本質”――「DX×3P経営」とは
ここまで述べてきたなかで重要なキーワードである「DX」について、私なりの定義を述べると、次のようになる。
「DXとは、データとデジタル技術を前提とした組織と事業によって、顧客価値を大きく向上させるイノベーションである」
ここで最も重要となるポイントは、「DX=イノベーション」という点だ。つまり、今の業界秩序を変えるような破壊的な取り組みであるべきだ、ということで、新産業を創造することこそ、DXの本質なのである。
では、イノベーションを起こすために、企業には何が求められるのか。
イノベーションの世界的な権威である元ハーバード大学ビジネススクール教授の故クリステンセン氏は、米国ブリガムヤング大学のダイアー教授、フランスINSEAD(欧州経営大学院)のグレガーセン教授とともに執筆した『イノベーションのDNA』(翔泳社)で、「イノベーションの源泉」として3つの要素を示している。
それが、「哲学(Philosophy)」「人材(People)」「プロセス(Process)」の3Pである。
この3つのPとDXを組み合わせ、DXに強い人と組織を作るためのアプローチを、私は「DX×3P経営」と呼んでいる(図表2参照)。

図版=筆者作成
業績を上げ続ける企業の共通点
図表2は、3Pをそれぞれ「ビジョンと哲学(Philosophy)」「人材戦略(People)」「プロセス(Process)」と再定義したものだ。
最初の「ビジョンと哲学」は、創造的な行動と思考を促す哲学を企業文化(カルチャー)の中に植え付けているということ。
イノベーティブな企業は、誰もが創造性を発揮できるような行動指針をトップから発信し、リスクをとって挑戦することを奨励している。
次の「人材戦略」については、クリステンセン氏らはイノベーション人材に共通するスキルがあると説く。従来の価値観に基づく評価ではなく、創造的なスキルや能力の観点から人材を評価し、育成し、採用する必要があるのだ。
最後の「プロセス」は、イノベーションを起こす企業には、社員の創造性を刺激する仕組みがあるということだ。イノベーティブな企業では、事業開発や人材交流など、さまざまなところでイノベーションを意識したプロセスが構築されている。
このような3Pをしっかりカバーできているからこそ、持続的にイノベーションを生む企業であり続けているのである。どれか一つの要素だけで、それがうまくいくわけではない。
ダイキンをはじめとして、DXの推進により業績を高めている企業を見ると、どの企業も共通していることがある。
どんな未来が来るのか、自社はどこに向かいたいのかという「ビジョンと哲学」に真剣に向き合い、人材戦略やプロセスについても、その「ビジョンと哲学」に基づいたアプローチを行っている。
「戦略が二流でも、実践が一流であればいい」
日本の企業が、今後もGAFAに圧倒され続ける存在であることは決してない。
ダイキンの例を見れば分かるように、日本企業には大きなポテンシャルが秘められており、DXを実現することができれば、そのポテンシャルが開花し、GAFAに対抗しうるようになる。

福原正大『日本企業のポテンシャルを解き放つ DX×3P経営』(英治出版)
それが伝統的な日本企業であっても、人材の潜在能力は欧米トップ企業と比べても遜色ないし、ビジネスモデルも遅れをとってはいない。
GAFAのようなメガIT企業であっても、リアルのモノ・サービスづくりに強い企業に対しては大きな危機感を抱いている。
なぜなら、リアルのビジネスに強い企業こそ、DXを実現すれば競合になりうると考えているからだ。
だから私は、経営トップが新しい時代に沿ったビジョンを社内で示し、真剣に人と組織の変革に取り組んでDXを推進していけば、その大きなポテンシャルを開放できるはずだ、と確信している。
ダイキンの井上会長がよく発言している「戦略が二流でも、実践が一流であればいい」という言葉は、DXを推進するうえでも示唆にあふれている。
きれいな事業戦略を描ききれなくても、それを実行する人と組織が強ければ、必ず成功に向かって進んでいくことができるだろう。
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福原 正大(ふくはら・まさひろ)
IGS社長、一橋大学大学院特任教授
慶應義塾高校・大学(経済学部)卒業後、東京銀行に入行。フランスのビジネススクールINSEAD(欧州経営大学院)でMBA、グランゼコールHEC(パリ)で統計学の修士号を最優秀賞で取得。筑波大学で最適化と極値論の研究を行い博士号取得。2000年世界最大の資産運用会社バークレイズ・グローバル・インベスターズでAIを利用したモデル運用に携わる。35歳にして最年少マネージングダイレクター、日本法人取締役に就任。2010年にIGSを設立、2021年12月29日にマザーズに上場した。著書に『日本企業のポテンシャルを解き放つ DX×3P経営』(英治出版)がある。
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(IGS社長、一橋大学大学院特任教授 福原 正大)
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