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  • 2022年02月03日 12:03 (配信日時 02月03日 06:00)

スケート5種目メダル獲得へ 高木美帆支えるメンタル力 - 新田日明 (スポーツライター)

自身にとって3度目の五輪は重要な大役も兼ねている。北京冬季五輪に臨むスピードスケート日本代表の高木美帆選手は5種目に出場するだけでなく日本選手団の主将を務め、周囲からの期待値と注目度がひと際高い。

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それでも本人は「主将としては私がやれることは限られている。もちろん大役をしっかりとやり遂げたい思いはありますが、一人のスケーターとして戦いに来ている」と強調しつつ「まずは自分のやれることに集中して一つ一つやり遂げていきたい」とも述べ、大会本番のレースにかける意気込みを示した。当然ながら主将であることよりも競技に重きを置いて全神経を注ぎ込み、結果を出すことでおのずと日本選手団を勢い付かせることが可能になると確信している。 

選手としても個人・団体の5種目に出場

決して主将の役割は簡単ではない。日本選手団を代表して取材対応をこなさなければならず、時間の許す限りにおいては他競技の会場へ足を運んで日本代表選手たちの応援に行くことも求められてくる。肩書きと役割が重荷となり、その重責も担うことになる日本代表選手団の主将は五輪で活躍できないというジンクスも以前からささやかれているものの、高木選手にとっては〝戯言〟に過ぎないだろう。

主将に加え、北京五輪では500メートルから3000メートルまでの個人4種目と、団体追い抜きの計5種目に出場する。500メートルを含めた5種目で代表権をつかみ取ったのは1992年のアルベールビル五輪に出場した、あの橋本聖子氏以来のことだ。

これだけの種目に出場し、世界トップクラスの選手たちとしのぎを削り合いつつギリギリの緊張感の中で戦い続けるためにはタフな精神力と強いフィジカルが必要不可欠。そのいずれも兼ね備え、27歳の今でも「成長」を続けている高木選手だからこそ今大会の北京では主将の重責にさいなまれることもなく過去2度の五輪を凌駕し、最高の成績を収める予感が漂う。

前回の平昌五輪後に成長を加速

前回大会の2018年平昌五輪では団体追い抜きで金、1500メートルで銀、1000メートルで銅と3つのメダルを獲得。ちなみに五輪の1大会で金銀銅のメダルを〝制覇〟した日本人女子選手は高木選手が初めてのことだった。北京では平昌を上回る数のメダル獲得に期待がかかっているが、本人もそれを自覚している。

平昌五輪の終了直後も「成長」を物語るように脅威のレベルアップを遂げてきた。同年3月10日にオランダ・アムステルダムで行われた「世界オールラウンドスピードスケート選手権大会」では男女を通じ、欧米選手以外で史上初となる大会総合優勝の快挙を達成。500メートル、3000メートル、1500メートル、5000メートルの4種目を滑り、タイムを得点に換算した合計ポイントで総合順位を争うハードレベルの大会で世界の強豪に競り勝った実績は特筆すべき経歴と言って文句はあるまい。大会名の通り、高木選手は女子スピードスケート界で世界屈指の「トップ・オブ・オールラウンダー」へと躍り出たことで、その名声を一気に高めたのである。

そして20年に、ノルウェー・ハーマルにて開催された「世界スプリントスピードスケート選手権大会」(500メートルと1000メートルを2本ずつ滑り、選出されたポイントの総合成績で争う)でも初優勝し、オールラウンド選手権大会と併せて日本人初となる2冠にも輝く。今季もワールドカップ1500メートルで3連勝を飾るなど好調モードを堅持しており、平昌以降ここに至るまでの戦績を北京五輪へのプロローグとしてとらえるならば十二分過ぎるほどの栄光を築き上げてきた。

ソチでの落選を乗り越えた精神力

高木選手の五輪への思いは並々ならぬものではない。中学3年生のとき、1000メートル、1500メートル、チームパシュートで日本代表として10年のバンクーバー五輪へ日本スピードスケート史上最年少で選出された。選出当時「人生が変わった」と胸の内を明かしたが、やはり世界の檜舞台は甘いものではなく、3種目とも振るわぬ結果となり〝メダルなし〟に終わった。

そして次のソチ五輪代表選考会では全種目で5位に沈み無念の落選。ここから「もう一度、必ず五輪の檜舞台へ立つ」ことを目標に掲げ、15年には日本のナショナルチームヘッドコーチに就任したオランダ人のヨハン・デヴィット氏に師事し、スピードスケート強豪国〝蘭流〟の強化プログラムのもとで徹底したハードメニューをこなし続けた。

メンタル面の向上と筋力トレーニングを自らに課し、高木選手はその年の15年2月に世界距離別スピードスケート選手権の団体パシュートで日本初の金メダルを獲得、そして16年12月にはワールドカップ第3戦の1000メートルで初優勝を遂げ、同年12月には全日本選手権の全4種目で優勝を果たして史上7人目の「完全優勝」を飾るなど日本を代表するトップスケーターへ仲間入りした。

この頃、思えばデヴィッド氏は高木選手について「成長度は無限大だ。なぜならば底知れぬ強靭なメンタリティーを兼ね備えているからである。アスリートはメンタルを磨き上げれば成長に必要なポテンシャルも引き上げることが可能になり、より強くなる。だから彼女には大きな成長が今後も見込める。間違いなく凄い選手になるだろう」と太鼓判を押していた。

チャレンジし続ける気持ちが原動力

その恩師の〝予言〟は今、見事に的中した格好と言える。メンタルの強さを証明するように高木選手は「とにかく速くなりたい。そして成長したい」との言葉を口癖とし、まるで自己暗示をかけるかのごとく己の限界へとチャレンジし続けている。4種目ものレースで欧米の壁を打ち破った末に18年オールラウンド選手権を制したのも、また今大会の北京五輪で実に5種目において日本代表の座をつかみ取り、本気で5つのメダル獲得に照準を合わせているのも「速くなりたい」「成長したい」という純粋な気持ちの表れだ。

仮に北京五輪で5つのメダルを獲得できれば、14年のソチ五輪で5種目に出場し、金2、銀3を手中に収めた「憧れの存在」であるイレイン・ブスト選手(オランダ)の偉業とも肩を並べることができる。

「少しでも多くの種目にトライすることが、一番速くなる道だと感じる。短距離から長距離までやるのは大変なこともあるが、純粋に全部速くなりたいという思いもあります」とも語っている高木選手。北京の氷上では、さらに「成長」を遂げた姿とともにメダルラッシュで日本中を興奮の坩堝へと引き込んでくれそうだ。

長引くコロナ禍で疲弊気味のビジネスパーソンたちもリンクを躍動する彼女の戦いぶりに勇気と感動を与えられ、同時に明日への活力も必ずやきっと植え付けられるはずである。

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