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岸防衛相と河野太郎氏が大舌戦…日本の敵基地攻撃能力の保有が"時代遅れ"といわれるワケ

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中国参戦の局面で敵基地攻撃能力が発揮される

核兵器と大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有した北朝鮮に、今後米国は完全非核化とICBMの廃棄を要求するだろう。しかし、北朝鮮が無条件で受け入れることはない。

やむなく米国が北朝鮮の核関連施設に対する空爆に乗り出した場合、北朝鮮も黙ってはいない。北朝鮮攻撃の拠点となる在日米軍基地への攻撃を行うと脅すだろう。

こうなってくると、中国が介入する可能性が高い。中国にとっては、金正恩が最高指導者である必要も、国号が「朝鮮民主主義人民共和国」である必要もない。だが、朝鮮半島の北半分は、中国と米国との緩衝地帯、すなわち、中国の安全保障に寄与する地域である必要があり、米国の影響下に置くわけにはいかないのだ。結果として、第2次朝鮮戦争、すなわち、米国・日本・韓国対中国・北朝鮮の戦争が勃発する。

中国が参戦し、日本を弾道ミサイルで攻撃してきた場合は、中国東北部の吉林省などに配備されている、日本を攻撃目標とする弾道ミサイル基地を破壊しなければならない。

「敵基地攻撃能力」とはこのような事態になって発揮される。

日本の装備では“移動式発射機”を叩けない

だが、そこで発揮される「敵基地攻撃能力」とはそもそも何なのだろうか。実は日本政府は現在も「敵基地攻撃能力」が何を指すのかを明確にしていない。

北朝鮮は移動式発射機(輸送起立発射機・TEL)も用いて、多くのミサイルを発射するようになっている。移動する弾道ミサイルを発射前に攻撃する能力は日本にはない。情報衛星(偵察衛星)では移動する目標を探知・追尾することができないからだ。また、列車から発射される弾道ミサイルもある。列車はトンネルなどの遮蔽(しゃへい)物で覆って衛星から隠すことが可能だ。

現在、米国では小型衛星数百機で構成する「衛星コンステレーション」構想が進められており、日本でもこの構想との連携を検討している。だが衛星コンステレーションは発射されたミサイルの探知と追尾を行うものであるため、これも発射前のミサイルを叩く機構とはなり得ない。北朝鮮が開発を進めている極超音速兵器にどこまで対応できるのかも不明だ。

「敵基地攻撃能力」については自民党内でも異論が出ている。前防衛相の河野太郎広報本部長は、自身のブログで「『敵「基地」攻撃能力』は、昭和の議論であり、令和の今日もはや意味がありません」と指摘している(「ごまめの歯ぎしり」2021年11月11日掲載「敵基地攻撃能力から抑止力へ」)。

防衛相の言う「あらゆる選択肢」とは何を指しているのか

河野氏の指摘に対し、岸信夫防衛相は1月14日の記者会見で「古くからある議論ではありますが、まさに現代の問題でもあります」と反論。「国民の命、暮らしを守るために何が求められているか、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討していき、その中で国民の皆様や与党にもご理解いただきたい」と訴えた。

しかし、たとえ憲法を改正して「専守防衛」という国是を捨て、先制攻撃できる兵器を保有するに至ったとしても、移動式の弾道ミサイルを発射前に発見することは不可能に近い。

岸防衛相は、「あらゆる選択肢を検討し、防衛力の抜本的な強化に取り組んでいく」と述べているが、その中身は明らかになっていない。「あらゆる選択肢」とは何を意味しているのか、具体的な手段の確立が急務となっている。

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宮田 敦司(みやた・あつし)
元航空自衛官、ジャーナリスト
1969年、愛知県生まれ。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校(現・情報学校)修了。北朝鮮を担当。2008年、日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。博士(総合社会文化)。著書に『北朝鮮恐るべき特殊機関 金正恩が最も信頼するテロ組織』(潮書房光人新社)、『中国の海洋戦略』(批評社)などがある。
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(元航空自衛官、ジャーナリスト 宮田 敦司)

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