- 2022年02月01日 16:27
加藤浩晃「医療4.0は患者が主役になる時代。医療は多角化・個別化・主体化へと向かっていく」- 「賢人論。」第157回(前編)加藤浩晃氏

これまでの歴史を振り返って、医療の世界には20年スパンで変化が起こっている――。そう語るのは『医療4.0(第4次産業革命時代の医療)』(日経BP社)を上梓した医師・加藤浩晃氏だ。2020年からの「医療4.0」の時代を①多角化②個別化③主体化という3つのキーワードから解説していただくともに、現状の医療が抱える課題についても聞いた。
取材・文/みんなの介護
医療4.0の時代では、患者が主役になる
みんなの介護 ご著書にもありますが、あらためて「医療4.0」についてご説明をお願いします。
加藤 医療の歴史を振り返ってみると、約20年刻みで変化が起きています。その変化を医療1.0から医療4.0まで4段階にわけて考えたのです。
1960年代に国民皆保険制度が実現して今の医療提供体制の礎ができた頃が「医療1.0」。高齢化の懸念によって老人福祉法の制定や高齢者保健福祉の10ヵ年計画であるゴールドプランが策定。今につながる介護施策が進んだ1980年代の「医療2.0」。
そしてインターネットが使われ始め、電子カルテなど医療のICT化が進んだ2000年代からの20年が「医療3.0」。そして第4次産業革命に合わせて医療現場も変わりつつある状況が2020年からの「医療4.0」です。
本の中では、医療4.0で予測される3つの未来について書かせてもらいました。1つは医療との接点が医療機関以外にも広がる多角化。2つ目は個人に応じたオーダーメード化が進む個別化。3つ目が医療の主体が患者自身に変わっていく主体化です。
多角化の具体例をあげてみましょう。昔の医療は、病気になってから病院に行ってやっと受けられました。それが、今では検診など病気になる前から医療機関と接するようになっています。
また、在宅で医師からの診療が受けられたり、オンライン診療が進んだりしたことも多角化と言えます。多角化の例としては、お隣の中国で行っている無人クリニックなどもありますね。
みんなの介護 無人コンビニは聞いたことがありますが、無人クリニックというものもあるのですね。
加藤 電話ボックスのような空間に検査機器が置いてあるんです。そこで検査を行い、オンライン診療ブースで画面越しに診察を受けます。診察が終わると自販機のように薬が出てきて持って帰れるんです。そのような無人クリニックが中国で登場しています。
みんなの介護 面白いですね。もう1つの個別化はどのようなものでしょうか。
加藤 個人の状態を把握しながら、医療が提供されるようになるのが個別化です。すでにがん治療などでは、個別化したデータに合わせた抗がん剤治療が行われています。
現在、ウェアラブルデバイスが腕時計型を初めさまざま登場しています。これを身に付けて体温・活動量・血圧・脈拍といった個人のデジタルデータを毎日とると、自分自身のビックデータが溜まっていきます。通常時のデータがわかると、自分自身で調子の良し悪しが把握できるようになります。
例えば、平熱が35.5℃ぐらいの人だと、37.0℃であってもその人にとっては高熱かもしれない。「異常」に気づくことができます。
また、1000人のうち990人に効く薬であっても、自分は効かない10人に入るかもしれない。そのように、個人の状態に合わせて考える医療に変わりつつあるということです。
みんなの介護 最後の主体化はどのようなものでしょうか。
加藤 主体化は患者さんが自分の治療に対して主体的にかかわるようになることです。例えば、マイナンバーと保険証を紐づけるPHR(パーソナルヘルスレコード)が進められています。これにより、病院で受けた薬の処方や特定健診の結果などが、マイナンバーと紐づいたマイナポータルで見られるようになっていく。アプリとの連携も想定されています。
検診結果やお薬情報、手術歴や採血結果など自分のスマホから見られるようになるんですよ。自分のデータを自分で持つ時代に変わりつつあります。
また、治療方針に関するガイドラインも医療者だけではなく患者さんと一緒につくる流れがあります。「医者からこう言われたからこれをした」というスタイルの治療はなくなりつつあるんです。患者さんが理解して納得しながら医療と付き合っていくように変わるのが主体化だと思います。
「サスティナブル」ではない日本の医療現場
みんなの介護 「医療4.0」の時代の到来にあたって、解決すべき課題とは何でしょうか。
加藤 1つは一部の医師の働き過ぎ問題。それから、医療の偏在化と医療費の増大です。医療4.0に向けてこれらを解決する必要があります。
コロナ禍で医療崩壊が注目されました。しかし、今風に言うと医療現場はそれ以前から「サスティナブル」な状態ではありませんでした。
医師の平均年齢は50代なので、40代の先生は若い方です。その40代の病院勤務の先生の中には、1週間で100時間働いている方が3~4%ぐらいいます。今の日本の医療は、彼らが献身的に時間外労働を頑張ることで成り立っている。これはサスティナブルじゃないんです。
2020年4月から働き方改革をやっているのに、医師の働き方改革は2024年からのスタートです。逆に言うと2024年に医療現場の働き方は大きく変わると予想されるんですけどね…。
そのような状況なので、若い先生の中にも病院勤務はやりたくないという人が、昔に比べると増えてきています。
みんなの介護 医師の働き過ぎについてもデジタルが助けになる面はあるのでしょうか?
加藤 医師の働き過ぎ問題については、デジタルでサポートできる部分もあると思っています。
実は、医療現場ではわりと医師自身が雑用していることがあるんです。そのため、医師不足と言われる地域でも、医師が医師だけの仕事をちゃんとやっていたら解決できるんじゃないの?と思えるケースもある。医師の時間は有限です。ほかの職業ももちろんそうですが。どうしたら医師の時間をもっと効率的に使えるかを考えることも問題解決につながるのではないでしょうか。
医療提供の偏在化については、例えば、デジタルを使って地方への遠隔医療対応を行う。また、予防的なアプローチをもっと行うことによって医療費を減らしていく。そのように、医療4.0が進む中で解決できる可能性を感じています。

みんなの介護 デジタルの応用は介護現場でも期待できそうでしょうか。
加藤 期待できると思います。例えば、介護現場ではコミュニケーションロボットやパワードスーツの活用が期待されます。また、ケアプランを最適化するAIもある。
ただ、デジタルはあくまで目的ではなく手段だと思うんです。人間がやらなくちゃいけないことをサポートするためにデジタル活用が進み、事例が充実してくる。何事もどこかで導入しているのを見て、良さそうだなと思ったら使う人が増えていきます。
撮影:丸山剛史



