- 2022年01月31日 11:10 (配信日時 01月31日 05:59)
EUの限界が試されるウクライナ危機とリトアニア問題 - 岡崎研究所
1月17日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙外交問題コメンテーターのギデオン・ラックマンが、ウクライナ危機とリトアニアに対する中国の抑圧的な貿易措置が欧州連合(EU)の地政学上の力の限界をテストしていると論じている。

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EUのジョセップ・ボレル上級代表はウクライナのドンバスに展開するウクライナ軍を訪問し、フェンス越しにロシアが支援する分離派の軍の陣地を覗き、「最早、ヤルタの時代ではない」「EUはウクライナが最も信頼するパートナーであり、EUは見物人ではあり得ない」と述べて、ロシアとの交渉のテーブルから排除されていることに苛立ちを表明したという。
1月19日、欧州議会で演説したフランスのマクロン大統領は、EUがロシアと対話を持ち、欧州の安全保障に関するEUとしての提案を策定して交渉することを提唱した。この段階に至ってのこの種の行動は現実離れも甚だしく、西側の分裂を誘い、有害である。EUの面目が失われようとしている事態ではない。
EUは、ロシアが提起するNATOの拡大などの問題の当事者ではない。欧州の安全保障の利益はNATOによって代表されている。役割分担と割り切って不都合があるようには思えない。
リトアニアの問題は性格を異にする。この一件にEUが外部の大国に小突き回される命運にあることの証左を見ようとするのは大袈裟に過ぎると思うが、ともかく、EUは結束してリトアニアを守らねばならない。しかし、これといった名案は見出し難い。
リトアニアが「台湾代表事務所」の開設を認めたことに憤激する中国はリトアニアとの間の直通の貨物列車の運行を停止し、両国間の貿易を停止した――リトアニアに工場を有するドイツの自動車部品大手Continentalの製品も対象となる。
更に、EUの他の加盟国企業がリトアニアでの投資と部品調達を控えるよう警告し、これら企業の中国でのオペレーションに報復することがあり得ることを警告したとも伝えられる。これはEU加盟国間に楔を打つ中国が得意とする手法と言い得よう。
EUは、12月8日に欧州委員会が提案した反抑圧法制(Anti-Coercion Instrument)を早期に実現し、その対象とすることによって中国に対抗することを考えるのかも知れないが、恐らく間に合わない。中国への対抗措置を講じ得たとしても、中国の抑圧が止むことは考えられず、その効果如何という問題がある。
問題はリトアニアがどれだけ耐えられるか
台湾はリトアニアを支援する意向を表明している――中国税関に拒否されたリトアニアの貨物を出来るだけ多く引き受け(2万4000本のラム酒を引き受けた)、2億ドルの基金を設けてリトアニアに投資するとしている。EUとしても、リトアニアの支援の方が有効であり、これを検討すべきではないかと思われる。
いずれにせよ、リトアニアが何時まで耐えられるかの問題がある。1月4日、リトアニアの大統領ギターナス・ナウセーダは台湾の代表事務所の開設自体ではないがその名称に(台北ではなく)「台湾」を使ったことは間違いだった、名称については自分に協議がなかったと述べた。
彼は「台湾」の名称の撤回までも求めた様子はないが、政府内部における本件のその後の取り扱いは詳らかにしない。EUおよび加盟国にも名称の問題での騒動を不必要な騒動だと迷惑に思う向きがあるに違いない。かといって、中国に屈服する形になることは甚だしく望ましくない。
どうなるのか分からないが、FTの論説が指摘するような、リトアニア危機が「世界の場でその利益を守るEUの能力の飛躍を導くこともあり得る」ことにはなりそうにない。
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