- 2022年01月30日 15:43 (配信日時 01月30日 11:15)
「本当にイクメンを増やす必要があるのか」妻たちを苦しめる"取るだけ育休"の本末転倒
2/2高まる母親から父親への不満
0~6歳の乳幼児を育てる父親に聞いたところ、「自分は妻に必要とされている」と自覚している父親の比率は77.6%(2014年)だった(ベネッセ教育総合研究所)。じつはこの数値は91.2%(2005年)、81.5%(2009年)、というように徐々に低下傾向にある。これはちょっと驚きの数値ではないだろうか。
また2020年4月、こんな記事が朝日新聞に掲載されていた。
「働いてくれていた方がよかった」。関東地方に住む40代の女性は、夫の育休が「過酷だった」という。夫の「育児」は、上の子を保育園に送ることくらい。帰ってくるとテレビの前でごろ寝した。お昼になると「ご飯はどうする?」。夫が自ら近くのスーパーに買い物に行くという発想もなかった。
(朝日新聞2020年4月4日朝刊)
記事には、育休を取り、「家事育児を担っている」と周囲にアピールしながらも、積極的に子育てをしない父親たち、それに不満を募らせる母親たちの証言が紹介されていた。
「取るだけ育休」に苦しむ母親たち
またSNS上では「取るだけ育休」に苦しむ母親たちの声が溢れているという。それを裏付けるように、母親のための育児アプリを運営する「コネヒト」が日本財団と共同でインターネット調査を行ったところ、育休を取得中の父親の家事・育児の時間が1日あたり2時間以下だった人が32.3%にも上ったという(2019年、母親約500人に尋ねた結果)【男性の「とるだけ育休」を防ぐための提言(「変えよう、ママリと」)】。
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RyanKing999
これをどう考えればいいのだろうか。
博報堂生活総合研究所が行った「家族調査」では、「夫も育児を分担する方がよい」と答えた父親は88.9%(2018年)で、10年ごとの推移を見ても過去最高を記録している(1988年45.8%、1998年66.3%、2008年83.5%)。これは大きな変化だと言えるだろう。
そうすると、父親は参加する気持ちはあるのに何らかの理由で実行できないのか、あるいは父親の行動と母親の期待との間にズレがあり母親が不満を溜めているのか、そこを検討してみる必要がある。
夫婦で同じ役割に取り組むことで発生する問題
「配偶者の家事・育児の満足度」について、不満があると答えた男性が32.1%なのに対し、不満があると答えた女性が52.9%というように、かなり開きがあることを伝えている調査結果(iction! 週5日勤務の共働き夫婦 家事育児 実態調査2019)がある。そこでは、双方によるこんな本音が紹介されていた。
〈妻への不満〉
「自分の家事にダメ出しをされる」(32歳)
「理想が高すぎてついていけない」(43歳)
「完璧にやろうとするので常にピリピリしている。もう少し楽観的な思考も必要」(32歳)〈夫への不満〉
「夫の気分で家事・育児をしたりしなかったりする」(42歳)
「仕上がりが雑」(35歳)
「進んでやってはくれるが、出来栄えが不十分であったり、自分の方針と合わないことがある」(39歳)

榎本博明『イクメンの罠』(新潮新書)
父親はいちおうやってはいるが、母親としてはそのレベルに納得できない。これはなぜ起こるのか。経験者として考えてみると、二人の人間が同じ役割に取り組むと、どうしてもやり方も違えば、こだわる点も異なる。得手不得手もある。そこで不満や苛立ちが生じる。
これは子育てに限らない。仕事でも勉強でも、稽古事でも起こる。これが、イクメンの「ブーム化」「義務化」について私が抱く疑問に関係してくる。つまり、同じ役割を夫婦が分担し合うという方向を推奨する動きへの疑問である。
父親が「男性版産休」や育休を取って育児に専念するという場合には、家庭内にこのような問題が発生することは知っておいていいだろう。さらには、育児に対する意識の違いといった問題もある。
夫の育休がきっかけで離婚した夫婦も
先ほど紹介した新聞記事で「働いてくれていた方がよかった」と語っていた女性は、結局離婚することになったという。乳児を抱えての必死の育児生活では、決して無視することのできない事例ではないだろうか。
男性が育休を取れる時期は、生後1年までと定められている。この間に父親が育児をどう担うかは、「ブーム」に乗せられるのではなく、父親個人の仕事の事情、夫婦間の事情、性格や経済状況まで、あらゆる事情を考慮しながら夫婦で決めていくのがいいだろう。やってみて駄目なら、別の方法を試してみるなど、試行錯誤すればよい。
父親になった男性全員が育休取得を義務化され、母親とまったく同じ役割を担うことを求められ、それがうまくいかなくて自信を失ってしまうというようなことになれば、これ以上の少子化が進むことになりかねない。
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榎本 博明(えのもと・ ひろあき)
心理学博士
МP人間科学研究所代表。1955年、東京都生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。『〈ほんとうの自分〉のつくり方』(講談社現代新書)『50歳からのむなしさの心理学』(朝日新書)『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書)など著書多数。
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(心理学博士 榎本 博明)
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