- 2022年01月31日 11:51 (配信日時 01月30日 10:30)
迫るウクライナ危機 米国の金融制裁でロシア経済麻痺? - 斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)
バイデン政権は、ロシアによるウクライナ侵攻の可能性が高まったと判断し、その場合の決定的対露制裁措置として、ロシア主要銀行との国際取引停止によって金融界を事実上麻痺状態に陥れ、同国経済全体に直ちに深刻な打撃を与えるプランを立案していることが明らかにされた。
[画像をブログで見る]ロシアによるウクライナ侵攻はいよいよ、時間の問題となってきた。
米欧諸国はこのところ、連日のようにロシア政府側にあらゆる外交チャンネルを通じ、軍事行動を思いとどまるよう説得工作に乗り出しているが、これまでのところ、ロシア側との妥協の糸口が見られず、悲観的見方が広がりつつある。
欧米各国による個別交渉実らず
ロイド・オースティン国防長官、マーク・ミリー統合参謀本部議長は1月28日、ペンタゴンでの特別ブリーフィングに臨み、「ロシアは今や、10万人以上の部隊を集結させ、ウクライナへの部分侵入どころか、国全体に攻め込む段階に入った」として、ロシアの軍事行動が切迫しているとの悲観的見通しを明らかにした。
米側の外交努力とは別に、フランスのマクロン大統領もプーチン大統領と直接電話会談を行い、事態鎮静化に向けた諸方策について意見交換したが、双方の隔たりは大きく、ロシア外務省も「わが国を納得させる内容ではなかった」とのコメントを出し、話し合いに進展は見られなかった。
西側諸国との金融取引遮断を模索
こうした中、29日付けのニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は、バイデン政権当局者の話として、ロシアがウクライナへの侵攻に踏み切った場合、米政府は報復措置として、ロシア大手金融機関にかつてない規模の制裁を科し、同国経済を麻痺させる計画を策定中、と報じた。
具体的には、「SDN」として知られる「いくつもの極限の経済制裁リスト」公表をベースとしており、ロシアの主要銀行による国際取引を事実上、停止させてしまう狙いがある。
同紙によると、世界各国の通商は米国の銀行システムに連結している現状に鑑み、米財務省が「SDN」リストを発表した場合、多くの外国金融機関はロシアの主要銀行との取引が禁止され、結果的にロシア経済に甚大なダメージを与えることになるという。
西側諸国は去る2014年、ロシアがウクライナのクリミア半島併合に踏み切った際、貿易面などでの対露制裁を科したことがあったが、米政府当局者は「今回の場合、ロシア側に与えるインパクトは深刻さにおいても根本的に異なる」と説明している。
実際に、財務省の「SDN」リストの中には、すでにロシア最大規模を誇る「Sberbank」「VTB」の2つの銀行も含まれるとされていることから、米政府がこの制裁措置を世界に向けて正式発表した場合、西側の政府機関、主要企業による対露金融取引がほとんどストップすることになる。
追加の経済制裁も検討
ロシア経済は、全体の30%を占める原油、22%の天然ガスなどの輸出に大きく依存しているが、もし、「SDN」制裁が発動されるとしたら、当該諸国の金融機関を通じた代金支払いが凍結されることになるだけに、ロシアの市民生活にも甚大な影響は避けられない。
さらには、世界各国の銀行間でクライアントの送金、入金情報を交換する際に必ず使用される「SWIFT コード」と呼ばれるメッセージ・サービスからもロシアの銀行をシャットアウトする措置も打ち出される可能性もある。
このほか、ニューヨーク・タイムズ紙によると、米政府は追加制裁措置として、①諸外国金融機関による対露融資停止、②ロシア基幹産業向け部品サプライチェーンの遮断、③プーチン大統領側近グループ保有海外資産の凍結――なども検討されているという。
ウクライナ侵攻で想定される3シナリオ
一方、時間の問題となってきたロシアのウクライナ侵攻に関し、昨年まで米国家安全保障会議(NSC)で欧州部長を務めたアレクサンダー・ビンドマン陸軍少佐は、定評ある国際問題誌「フォーリン・アフェアーズ」(1月21日付け)に重要論文を寄稿、その中で、考えられるロシアによる今後の出方に関し「3つのシナリオ」があるとして、次のように指摘している。
①ウクライナに対する強圧的外交処理=すでにロシア軍部隊が占領中のウクライナ東部のドンバス(Donbas)地区をロシア領として正式承認する。これは、ロシアがグルジアの反政府地区アブハツィア(Abkhazia)、および南オセチア(Ossetia)地区に対してとったものと同様措置であり、すでにロシア共産党が関連法案を国会に上程済み。この措置をとることにより、クレムリンは国際危機と自国への制裁を回避できることになる。
②ロシア空軍部隊によるウクライナ東部地区の追加的占領=とくに、ウクライナ・アゾフ(Azov)海の主要港マリウポル(Mariupol)および主要都市ハルキフ(Kharkiv)を攻略すると同時に、ウクライナの最重要港オデッサ(Odessa)にも侵攻。これにより、ウクライナを対外的に孤立化させる。
③ロシア陸、海、空軍同時投入による全面的ウクライナ占領=最も可能性の高いシナリオであり、この場合、ウクライナ側の反撃を阻止するため、すみやかな制空、制海作戦が求められる。これと同時に、在ベラルーシ・ロシア軍も首都キエフに向けて進軍、防戦に当たるウクライナ軍部隊を東部、および南部に追い詰め、最後に投降させる。占領後、ロシアは長期駐留を避け、ウクライナ国内での内戦化とロシア支持派の台頭を待つ。
欧州諸国から制裁反対の懸念も
ビンドマン少佐は、実際に、ロシアが全面侵攻に出た場合、米欧諸国による対露反応は、「前例のない厳しいものになり、ロシアが被るダメージは計り知れない」として、具体例として、米議会ですでに、ロバート・メネンデス上院外交委員長が、ウクライナに対する大規模軍事テコ入れを可能とするための「特別軍事調達基金」法案を準備していることにも触れている。この「メネンデス法案」には、バイデン大統領、民主党要人のみならず、野党共和党有力議員の間でも支持する声が高まっているという。
他方で、懸念されるのが、こうした米側の対露措置に対し、欧州諸国がどこまで歩調を合わせられるかだ。
ドイツなどのように、ロシアからの天然ガス供給に自国エネルギーの大半を依存する国にとっては、出方次第では、ロシアが〝懲罰措置〟として供給をストップする可能性もすでに指摘されており、これまでのところ、ドイツ政府当局も、米国主導による対露制裁に冷淡な反応しか見せていない。
また、金融制裁措置に関しても、欧州連合(EU)諸国の中には、「SWIFTコード」サービス停止によって自国の金融機関にも影響が及ぶとして、反対の声が挙がっている。
バイデン政権としては、トランプ前政権時代に深刻な亀裂が生じた米欧関係の再構築に取り組んでいる時だけに、今また、ウクライナ問題めぐり、再び関係悪化の事態を招くことはできるだけ避けたいのが本音だろう。
最終的には、こうした米欧諸国間の動きとそれにともなうさまざまリスクを、プーチン大統領がどう読み取り、いつの時点で次の一手を打ち出すかにかかっている。
なお、ウクライナ侵攻により、上記のようなバイデン政権の対露金融制裁が発動された場合、ロシアとも取引のあるわが国の銀行、商社などにもさまざまな影響が及ぶことも避けられない。その意味で、今後の米欧の対応をとくに注視していく必要がある。
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