- 2022年01月26日 15:49
「安全保障の専門家は“始まる”という前提で考え始めている。2月10日〜20日が非常に危ない」ロシアによるウクライナ侵攻の可能性、小泉悠氏に聞く
2/2■“見えない戦争”を起こす可能性もある

ロシアが2014年にウクライナを攻めた時に、最初は覆面をした兵隊がいっぱい現れて、議会やテレビ局など重要施設を占拠していった。さらにインターネットなどを遮断し、ウクライナ本土の情報が入ってこないようにした。そういう中で、ロシアに煽られたと思われる現地住民が“我々はロシアに入りたい”とデモを起こして騒いだ。
そこにロシアが“政変でできたキエフの新しい政府はネオナチストだ”“ロシア系住民を迫害するつもりだ”という情報をバーっと浴びせかけることで、心配になった人々がロシアに占領してもらった方がいいのではないかという話をしだすようになった。今回もそういう状況を作り出すことを考えているのかもしれない。
また、2015、2016年にはサイバー攻撃によって、一部の地域の電力を丸ごと落としてしまうという攻撃をやってもいる。こうした手法を組み合わせることで、社会インフラが動いていない、ネットもテレビも見られない、そういう中でよく分からない人たちが暴れ、そこに対してロシアが“我々は平和維持部隊だ”“人道援助だ”と言って入っていくという、“見えない戦争”を起こす可能性もある。
私の専門はロシアの軍事思想だが、ロシアの将軍たちが書いているものを見ると、そのような戦争を計画し続けている。一方で、ロシア軍の制服組トップ・ゲラシモフ参謀総長の好きな言葉は“戦争にテンプレートはない”だ。我々がこうして想像しているというのとは別の方法、つまり本当にものすごい火力で圧倒しながら入っていくという、思い切った“正攻法”を取る可能性もあるだろう。
■NATOは“武器を送るので、なんとか頑張ってくれ”

NATOが軍事力を使ってまで止めにいくかどうかというは、かなり怪しい。やはりウクライナは同盟国ではないので守る義務はないし、ロシアは核保有国なので、最終的には核戦争までいってしまう可能性もある。
また、去年12月にバイデン大統領がプーチンさんとオンライン会談をしているが、その後、早々にアメリカ単独で軍事力を使うことはないと言ってしまっている。イギリスもそうだ。現時点でNATOの国々が言っているのは、“やったら経済制裁を課して、経済的にひどい目に合わせる”というところまでで、“我々が入って止める”とまでは言わない。あるいは“武器を送るので、ウクライナなんとか頑張ってくれ”という感じだ。
一方、ロシアは去年12月、NATOとアメリカに対して“これ以上NATOを東に拡大しない”という条約案を提出、これを認めろと言っている。ロシアもこれだけ軍隊を集めてきたので話し合おうじゃないかということで、今年の1月に3回連続で協議をやったが、NATOもアメリカも絶対に飲めないというスタンスで、ロシアとしては“決裂した”と言っている。
ここから西側ができるのは、やはり経済制裁だ。しかしロシアという国は何でも自給できるので、あまり効かない。2014年に食らった時も、市民生活には影響が出たし、エネルギー部門にお金が入ってこなくなってしまった。しかし、それで破滅的な状況になるかと言えば、そんなことはない。SWIFTという国際決済システムから排除するという話も出ているが、すでに排除されている北朝鮮もイランも、国として潰れているわけではない。
■来月の10日から20日にかけての期間が非常に危ない

やはりここからはプーチンさんの“世界観”の問題に入ってくるだろう。国内の経済が多少悪くなろうとウクライナを取り戻すんだという決意があるとすれば、もう止めることはできないだろうというのが大方の見方だ。だから外交セクターの方や経済セクターの人たちが“何とかロシアを止められないのか”と一生懸命考えている一方、非常に残念な話だが、私のようにロシアの軍事などを見ている人たち、あるいはアメリカの安全保障の専門家たちは、“始まる”という前提で考え始めている。
当のウクライナも、“NATOに入りたい”と憲法に書くなど、何が何でもロシアの勢力圏から逃れるということを国是にしているが、ロシアは諦めて、中立という条項を憲法に書けと2015年くらいから言い続けている。ウクライナとしては当然、そんな話を飲むわけはない。
私としても何らかの落としどころが見つかればいいとは思っているが、あまりにもロシアの要求が強行過ぎて、落としどころらしきものが全く見えてこないし、軍事力の行使を回避できそうな雰囲気も見当たらない。それが非常に不気味で怖い。
そして、来月の10日から20日にかけて、ロシア軍がベラルーシにおいてベラルーシ軍との大演習をやることになっている。大体、過去に大戦争が起こる時は“演習”という名目で始まることが多いので、この期間が非常に危ないと思う。ロシア軍が通常戦力の演習を行う場合は核部隊の演習をするが、去年はやっておらず、今年は“延期する”と言っている。もしかすると、ここで核部隊の大演習を行い、NATOに対して“手を出すな”と言いながら、ウクライナに対しては通常部隊での侵攻、もしくはハイブリッド戦を仕掛けるというシナリオがありえそうだ。
こうした問題は、我々にも跳ね返ってくる。例えば台湾でこういうことが起きた場合、ヨーロッパ側から“中国の気持ちも分かる”と言われてしまえば我々はおしまいだ。だから日本としては、“ロシアの気持ちも分かる”と言いたい気持ちがあっても、軍事力による現状変更はダメだとはっきり言わなければ、国際秩序全体に対してまずいし、我々の安全保障面にも良い影響がないと思う。(『ABEMA Prime』より)
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