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生活保護に移ったホームレスが、あえて荷物を路上にこっそり置き去りにする意外な理由

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なぜか登記されていない物件

日中はオフィスビルの吹き抜けで過ごし、夜は新宿駅西口地下広場で寝泊まりしている五十代くらいの女性も、つい最近まで生活保護を受けながらアパートで暮らしていたが、自分から打ち切り、ホームレスになったという。現在、収入はなく、私たちと同じように炊き出しに与りながら生活をしている。彼女が話す。

「生活保護はどうしても私に合わなくて。私はすぐにアパートに入ることができたのだけど、物件自体に問題があるのよね。その物件は登記がされていなくて。そんなところに住むのは怖いじゃない」

日本では建物を建てた場合、一カ月以内に登記をすることが義務付けられているが、登記をされていない「未登記物件」は多く存在する。厳密に言えば違法であるが、罪を問われるようなことではない。それは、登記という行為がそもそも、物件の持ち主を守るためのものであるからだ。社会問題に詳しい弁護士の大城聡氏が話す。

「日本では不動産は価値があるものだから、登記することによって“これは自分の物件です”と言うことができる。仮に第三者に物件を占拠されたときに、登記をしていれば自分のものだと証明ができる。となると、普通に考えれば皆登記をするわけで、分かりやすく言えば、登記もしていない人間が管理しているような物件には何らかの問題があるだろう、という推測は成り立つでしょう」

「ピカピカの自転車に乗って、君はカッコイイね」

彼女はあまり多くを語りたがらなかったが、おそらく劣悪な環境の物件に嫌気が差し、路上に舞い戻ったのだろう。幡ヶ谷のバス停で女性ホームレスが撲殺されたように、やはり女性には男性よりも危険がつきまとう。

二〇二一年四月二十八日に公表された厚生労働省の調査結果によれば、全国のホームレスの内訳は、男性三五一〇人、女性一九七人、性別不明一一七人。この数値の信ぴょう性は不明であるが、女性ホームレスのほうが圧倒的に少ないのは、現場を見ても歴然である。それだけ路上における生活は女性にとってリスクがあるということなのだろう。彼女も一人で目立たぬように大勢がいる場所に寝たり、交番の横に寝たりしているという。

散歩を終え、ベースで黒綿棒と話すなり、まったりするなりしていると、ホームレスたちにスープを配って歩く「スープの会」の人たちがやってきた。大学生くらいの青年と中年男性の二人組が私の自転車(今回の取材用にドン・キホーテで買った最安値のママチャリ)を見て、こんなことを言い出した。

「この自転車、すごいねえ。こんなにピカピカの自転車に乗っているなんて、君はカッコイイね」

幼稚園児の頃、両親に初めて買ってもらった自転車を近所の人に褒められたときのような感覚だ。なんだか子どもをあやすような言い方で非常に癪に障る。

ホームレスの癪に障った「綺麗ごと」の押し付け

中年男性がチラシを出し、普段している活動について話し始めた。となりの大学生くらいの青年は、「時間になったので戻りましょう」と小声で急かしている。青年は就職活動で「ホームレス支援をしていました」などと言うのだろうか。私がひねくれているような気もするが、そんな感情を抱いてしまった。


國友公司『ルポ路上生活』(KADOKAWA)

彼らが去ったあと、スープを拒否していた黒綿棒に聞いてみる。

「なぜスープを受け取らないんですか? NPOだからですか?」

「僕はスープの会があまり好きではないんだ。僕が唄を歌っているといつも彼らが集まってくるのだけど、その拍手や声援が子どもを褒めているみたいな感じに聞こえてとても不快なんだ」

私と一ミリも違わない感情を抱いている。聞くと同じようなことを思っているホームレスが黒綿棒の周りにも結構いるらしい。

上手く言葉には表せないが、「あなたも私たちと同じ社会で生きている」「あなたは一人じゃない」といった綺麗ごとのメッセージを強制的に受け取らされているような気分だ。何か一つでも認めてあげることで、「ホームレスのあなたも社会の一員である」ということを押し売りしている。私の場合それがピカピカの自転車だった。正直、「舐めるなよ」と思った。

「物事は開かれるべきだ」という認識

スープの会とのやり取りもあってか、この都庁下でぬくぬくと過ごしている自分になんだか急に冷めてしまった。しかし、それが本当のホームレスたちにとっては「安住」という最も重要な要素であり、この場所から移動しない理由なのだろう。


西新宿で拾った布団を都庁下の路上に敷いて寝ていた國友氏。 - 筆者撮影

それから数日経った八月四日の朝、私は黒綿棒にお礼と別れを告げ、自転車で上野へ向かうことにした。黒綿棒は最後、私にこう伝えた。

「君と僕は気質が同じだと感じている。お互いに物事は開かれるべきだという認識があるだろう。ホームレス社会と一般社会の風通しに対する考え方が近いので、ここまで気軽に話せる関係になったのだと思う」

黒綿棒、私もまったく同意見だ。社会に背くように塞ぎ込むホームレスであれば、私はあまりコミュニケーションを取ろうとしないだろう。もし将来、自分が本当のホームレスになることがあるとすれば、この考えのもと路上生活を送りたいと思っている。

上野に着いて一段落したら、まずはこの約二週間一度も洗わずに酷使した、雨に濡れたときの犬の臭いがするタオルを石鹸で洗うことにしよう。黒綿棒にそのことを話すと「僕のタオルは犬を通り越してカブトムシの臭いになっている」と笑っていた。


不安な気持ちのまま、上野駅前での生活が始まった。 - 筆者撮影

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國友 公司(くにとも・こうじ)

ライター

1992年生まれ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。キナ臭いアルバイトと東南アジアでの沈没に時間を費やし7年間かけて大学を卒業。編集者を志すも就職活動をわずか3社で放り投げ、そのままフリーライターに。元ヤクザ、覚せい剤中毒者、殺人犯、生活保護受給者など、訳アリな人々との現地での交流を綴った著書『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)が、2018年の単行本刊行以来、文庫版も合わせて6万部を超えるロングセラーとなっている。

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(ライター 國友 公司)

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