- 2022年01月21日 12:13 (配信日時 01月21日 06:00)
再起をかける「日本のエース」香川真司の決意 - 新田日明 (スポーツライター)
このままでは終われない。サッカーベルギー1部リーグ「STVV(シント=トロイデンVV)」へサッカー元日本代表のMF香川真司選手が移籍した。10日に行われたSTVV入団会見で香川選手は「新しいチーム、監督のもとで変化、進化していきたい」などと語って目を輝かせ、新たな意欲をみなぎらせていた。
[画像をブログで見る]これまでボルシア・ドルトムント(ドイツ)、マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)、ベシクタシュJK(トルコ)、レアル・サラゴサ(スペイン)、PAOKテッサロニキ(ギリシャ)と海外5カ国を渡り歩き、この新天地は6カ国6クラブ目となる。もう気が付くと32歳。かつてドルトムント、一時期はマンUでも大旋風を巻き起こした日本サッカー界のビッグネームはベテランの領域に入り、近年は明らかにもがき苦しんでいる。
ラブコールを受けギリシャ移籍も
公式戦出場は昨年9月が最後。だがこの時、在籍していたギリシャ1部のPAOKでは同クラブのオーナーでフォーブス誌・長者番付ランキングにおいて常連となるなど世界的な大富豪として名高いイバン・サビディス氏から直々にラブコールを送られて入団に至った経緯もあり、ほぼ〝将来安泰〟が約束されている立場のはずだった。
年俸1億円に出来高を加えれば、その倍以上の額を手にできる厚遇だったとみられ、PAOKの中でも香川選手はトップクラスの扱いを受けていた。いかに香川選手に対し、経営陣を含めたクラブ側からの期待値が高かったかを物語っている。
ところが結論から言えば、香川選手は期待に応えることができなかった。それまでもゲーム出場の機会が少なくPAOK移籍後、何とか試合勘を取り戻そうと必死に順応を試みるもチームメートたちからは好待遇が足かせとなって色眼鏡で見られ、クラブ内でも浮いた存在になり、苦悩の日々が続いた。
ケガが重なるなどコンディション不良にさいなまれ、人知れずメンタルの面でもダメージが蓄積し、試合に出ても結果を出せず次第にベンチメンバーからも外されるようになった。2021年の1月から1年半の契約で華々しくスタートを切ったPAOKでのプレーは昨年12月18日、クラブ側と本人の双方合意のもと契約解除に至るという、何とも寂しい形で〝終焉〟を迎えた。
思えば、香川選手はPAOKへの移籍前から低迷が続いている。通算で約6年半もの長きに渡って在籍したドルトムントでは数多くの伝説を築き上げた功労者でありながらも、18年のロシアW杯出場後辺りをターニングポイントに出場回数を徐々に減らしていき、最後はほぼ戦力外とみなされ、19年1月に追われるようにしてトルコ1部のベシクタシュへレンタル移籍。
その後、スペイン2部のサラゴサへ2年契約で完全移籍を果たすも、以前から憧れていたリーガ・エスパニョーラでは現地メディアより「1部昇格請負人」と期待されながらチームにフィットできず、かつての「輝き」をここでも取り戻せなかった。チームが1部昇格を果たせず2部リーグ3位に終わり、香川選手は戦犯扱いされ、サラゴサ側との双方合意によって在籍約1年半で契約解除に至っている。
〝世界への橋渡し〟クラブが救世主となるか
Jリーグの古巣・セレッソ大阪から復帰オファーが舞い込んだものの、これを香川選手は固辞。次の移籍先であるPAOKからオファーがかかるまで約4カ月ものブランクが空くハメになった。
しかしながら、それも自分自身が意を決し選んだ末の道だ。海外のクラブで荒波にもまれ、ドルトムントやマンUでプレーした当時のように超一流プレーヤーとしのぎを削ることで、あの絶頂期の感覚を呼び戻し、もう一度「輝き」を放ちたい――。そういう強い思いを胸に秘め、PAOKでも不完全燃焼に終わりながらも辛抱強く待ち、今回何とかSTVVからのオファーをつかんだ。
STVVはギリシャのビッグクラブだが、これまでも日本人サッカー選手を多く抱えてきた経緯がある。かつて所属していたMF遠藤渉選手はブンデスリーガ・VfBシュトゥットガルトへ、DF冨安健洋選手はプレミアリーグの名門アーセナルへそれぞれ移籍した。今も元日本代表のシュミット・ダニエルと橋岡大樹、東京五輪代表の林大地ら6人の選手が在籍しており、その橋渡し役となっているのが日本人の立石敬之CEOである。
日本のIT系大手「DMM.com」がオーナー企業となって出資するSTVVにおいて、かつてJリーグ・FC東京で敏腕GMとしてらつ腕を振るい、今もアビスパ福岡で顧問を兼務する立石CEOの存在は非常に大きく、選手の力量チェックを含めたリサーチとマネジメント能力の高さは欧州サッカー界の間でも一目置かれている。それが証拠に遠藤選手、冨安選手の欧州4大リーグ・人気ブッククラブへの移籍は立石CEOの尽力によるものであることは疑いようがない。
その立石CEOから香川選手は絶大な期待を寄せられ、今回の契約合意に結びついた。立石CEO曰く、ここまで香川選手を獲得しても残念ながら成果につながらなかったクラブについて「昔のイメージを持って獲得するところがあった」と評しつつ、STVVを率いる現場のベルント・ホラーバッハ監督とも話し合いながら「新しい香川真司を作っていこう」との方針で一致したという。
プレーヤーとしての能力だけでなく、これまでの経験値、そして試合に臨む姿勢や立ち居振る舞いなど若い選手たちに与える影響力の高さを評価し、次世代の育成にも存分に力を発揮してほしいという狙いも香川獲得の目的として現場と意見を共有している。
まだまだ老け込むに早過ぎる
ただ、香川選手も単にその範疇に甘んじるつもりはない。前出の通り実戦は昨年9月を最後に離れているとはいえ、日本人選手に理解の深いSTVVで「新しいチーム、監督のもとで」一旦すべてをリセットし、かつての「輝き」も取り戻す腹積もりであることは間違いないところ。日本代表がW杯本戦出場権をつかむことを想定し、大逆転で久々の日本代表入りを果たすとともに今年11月のカタールW杯出場を本気で視野に入れているのも香川選手を良く知る関係者であるならば、それが「ジョーク」でないことを当然知っている。
ちなみに当初の予定では今月13日に渡欧し、現地でのメディカルチェックを経て正式契約を締結する運びだった。査証申請に必要な書類関連の都合で渡欧日程が未定となっていることからSTVVデビューは、もう少し先になりそうな気配だ。ただ確かに難儀続きだが、これまで幾度もの困難を乗り越えながら諦めずに夢を追い続けている香川選手には、このSTVV移籍で今度こそ〝何か〟をつかみ悲願の復活も果たしそうな予感が漂う。
本来ならば、香川選手は次のカタールW杯も日本代表のベテランとしてチームの精神的支柱にならなければいけない男だ。まだまだ老け込むには早過ぎる。激動の時代を生き抜く世のビジネスパーソンたちも時代の潮流にもまれ、抗いながら必死に再起を果たそうとする香川選手の生き方に共感を覚えるところはきっと多いだろう。少なくとも筆者は香川選手の復活を信じ、応援したい。
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