- 2022年01月23日 16:23 (配信日時 01月20日 06:01)
欧米流の脱炭素論にモノ申す 都合よくSDGsを持ち出すな - 堀井伸浩 (九州大学経済学研究院准教授)
2/2先進国が考えるべき発展途上国の現実
以上を踏まえた上で、COP26で槍玉に挙げられた石炭火力の役割について再検討してみたい。図は石炭で発電している世界の国々について、石炭火力への依存度とその発電量、それと豊かさの指標である一人当たりGDPとの関係を示している。石炭火力による発電量・依存度が高い国々は図の左側、すなわち経済発展途上段階に多く存在している。途上国にとって石炭火力の優れた経済性は魅力的に映って当然で、エネルギーコストを節約して浮いた資金を投資に回すことが出来ればそれだけ早い経済発展が可能になる。未だ経済発展の端緒をつかんでいないような国々はアジアにもアフリカにも数多く存在しており、そうした国々はまだ電力需要が小さいためこの図に載っていないが、将来的に石炭火力の優れた経済性を享受する権利がある点も忘れてはならない。
(出所)BP統計および世界銀行データより筆者作成 写真を拡大
経済発展には産業化のプロセスを経る必要があるが、産業化は大容量かつ安定した電力の供給が必要である。既に産業化を成し遂げた先進国には過去に築き上げた化石燃料による電力システムがベースとしてあり、あくまで追加的に再エネを導入することで間欠性や割高な価格といった再エネの問題は何とか対処可能かもしれない。しかし化石燃料による基盤を持たない途上国がイチから再エネで産業化を支える電力システムを構築するのは相当困難である。
再エネ一本鎗は〝偽善〟
SDGsの17の目標は相互にトレードオフになっているものも多く、とりわけ気候変動対策は適切に行わないと他のSDGs達成の障害となる可能性が高い。上に挙げたSDGsの普遍的な目標の多くは経済発展の遅れから生じているものが多く、気候変動対策が再エネ一本鎗で進んだ場合、途上国の経済発展の足を引っ張り、普遍的な目標の多くが達成できない事態を招く可能性がある。気候変動は長期的に対処すべき問題であり、いま困難に直面している人々がいる貧困・飢餓撲滅を放置して再エネ一本鎗を推し進めることは偽善である。
気候変動対策の必要性を説く人たちは目標13のことだけを語り、目標7については黙殺する。しかし先進国が石炭火力をより高効率でクリーンなエネルギーへと進化させ(もちろんCO2以外の環境負荷については既に十分クリーンである)、途上国に経済性に優れたエネルギー源を供給することはまさに目標7の達成にプラスである。それにもかかわらず、近年石炭火力を排斥する動きが全世界的に進められており、総仕上げとしてCOP26の場で「段階的廃止」が打ち出された。インドの造反によりその目論見は砕かれることとなったが、こうした石炭火力排斥の動きはSDGs達成を実際には阻害するものであると認識すべきである。
化石燃料の低炭素化こそ我が国のグリーン成長戦略
そもそも世界のCO2排出量は中国、米国、インドの3カ国で48.7%と圧倒的なシェアを占めている。こういう状況で、経済規模が小さな国々がその小さなエネルギー需要を支えるために化石燃料を利用することが世界の気候変動にどれだけ影響を及ぼすというのだろうか。化石燃料利用が経済発展を促進するメリットとわずかなCO2排出増加がもたらすデメリットを比較考慮すれば途上国の石炭火力導入は責められるべきものではないはずだ。
その意味で、我が国ばかりか、中国までもが、欧米を中心とした国々の圧力を受けて、石炭火力の海外展開を今後行わない決定を下したことは状況をかえって悪化させる懸念がある。経済発展を志向する途上国にとって今後先進水準の石炭火力へのアクセスを閉ざされることとなるためである。国際援助によるファイナンスが期待できなくなれば、発電効率の低い、従来型大気汚染への対策も不十分な石炭火力が途上国に導入される結果を招く恐れがある。それはSDGsの7番目の目標を達成できず、ひいては他の多くのSDGs達成を危うくする事態ということになる。
もちろん現在の石炭火力をそのまま途上国に導入していこうと言っているわけではない。再エネの問題も今後蓄電池のコストダウンなどで解決される可能性があるように、石炭火力の高い炭素強度という問題も同様にイノベーションで解決される可能性があり、だからこそ石炭を排斥してその芽を摘むべきではないのだ。石炭火力の脱炭素につながる技術のシーズとして、石炭ガス化複合発電(IGCC)や二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)、バイオマス混焼など既に実用化段階のものから(但し、コストはまだ割高である)、水素・アンモニア混焼など今後イノベーションが必要なものまでいくつもある。
これらのシーズを実用化し、途上国の安価で信頼できるエネルギーへのニーズに応えていくことが求められている。石炭火力関連のCO2削減技術について我が国はこれまでの技術基盤があり、事実IGCCやCCSは日本の技術が世界トップレベルにある(世界で導入されているCCS設備の7割が三菱重工製)。
我が国は石炭火力を始めとする化石燃料の燃焼技術の脱炭素化で世界に貢献することができるし、少なくとも欧米や中国に圧倒的に差をつけられた再エネで巻き返そうとするよりもずっと勝算の高い戦略であると考える。
アジア諸国との協力に勝機を見出せ
ただし、こうした石炭火力の脱炭素に向けた技術開発を我が国だけで進めようとしても立ちはだかる壁は高い。外圧に弱い我が国は欧米による石炭排斥の圧力は無視できないだろうし、その結果、成長の見通しが芳しくない我が国の国内市場だけでは技術開発の投資回収に十分なリターンを期待できそうもない。そのため、石炭の利用が多く、経済発展のために安価で安定的なエネルギーを希求しているアジア諸国との連携が重要である。今年1月に政府はインドネシアの石炭火力発電所でアンモニア混焼導入の官民共同事業を進める覚書を締結した。こうした連携を拡大していくことが望まれる。
アジア諸国との協力によって化石燃料の脱炭素技術の実用化、低コスト化の実現を目指すべきだ。COP26で途上国は経済発展を止めてまで温暖化対策を進めることに明瞭なノーを示した。インドを始めとする途上国は、2020年までに先進国による資金支援を毎年1000億ドルに引き上げるという2009年のCOP15での約束が未達成となったことを強く批判し、COP26では2025年にこの1000億ドルという目標を達成するために努力することが合意された。しかしこの目標を達成しても待つのは単に金額が引き上げられた次の目標だろう。再エネ一本鎗という方策では、途上国のカーボンニュートラルを実現するためにはいくら資金があっても足りないためだ。先進国も自国の対策費用負担も大きく、途上国の支援をどこまで増額できるか、心許ない。
堂々と石炭火力の海外展開を
こうした点を考えると、途上国に化石燃料の脱炭素技術というオプションを提供することこそが現実的な温暖化対策と言えるのではないか。化石燃料の脱炭素化に成功すれば、対策コストを大幅に削減でき、再エネ一本鎗に偏向する現状の気候変動対策に対して、日本はゲームチェンジャーになれる可能性がある。途上国にも適用可能な脱炭素の石炭火力システムを開発し、堂々と石炭火力の海外輸出停止を撤廃する日を目指すべきである。
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