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どうなる成人式(下)民法改正「18歳成人」に思う その2

写真)振袖姿で成人式に臨む新成人たち。
出典)Photo by Koichi Kamoshida/Getty Images

林信吾(作家・ジャーナリスト)

【まとめ】
・女性は振袖、男性は袴。民族衣装を着る機会が成人式以外にないのが現実。

・成人式参加年齢を18歳に下げると「学校の制服で十分」ともなりかねず、着物業界としては死活問題。

・法的な成人年齢の問題と、成人式に参加できる年齢、成人式のあり方は別個に論じる必要がある。

前回述べたように、成人の日という祝日も成人式というイベントも、その歴史は戦後からと、浅いものである。ただ、これも前回述べたように、子供が一人前になったことを祝う儀式それ自体は、古くからあるし、また日本の特有のものでもない。

 たとえば、足首をロープで固定して高所から飛び降りる「バンジージャンプ」は、南太平洋にあるバヌアツ共和国で古来行われていた成人の儀式にルーツが求められるし、アフリカ先住民のマサイ族には、
「一人でライオンを斃したら一人前の大人と認める」
 という風習があるとされる。ただし、こちらは多分に伝説的なもので、
「一人で狩猟ができるようになれば……」
 という話に尾ひれがついたのではないか、と見る向きも多い。

 話を我が国に戻して、武家社会における元服の儀式についても前回少し触れたが、もともとは武士が台頭する以前、奈良時代から行われていたもので、男児が一人前になったことを祝して冠を被せる行事に、その起源が求められる。そもそも元服とは「冠をかぶること」の意味で、古い日本語で成人したばかりの若者を「冠者(かじゃ)」と呼んだのも、同じ語源である。

 武家社会にもこの風習は引き継がれたが、次第に簡略化され、冠ではなく、月代(さかやき)を剃ることで元服の儀式とした。おおむね13〜17歳で迎える儀式だとされているが、特に年齢が定められてはいなかった。

 月代を剃るのは、兜をかぶっても蒸れないように、という実用的な理由があったのだが、現代人の目にはあまり見栄えがよろしくないらしく、TVの時代劇では月代を剃っていない戦国武将が登場したりもするが、その話はさておき。

 江戸時代には、女性も元服の儀式をするようになったが、こちらもやはり、髪型を変えることで大人になった証しとした。男性と異なるのは、おおむね結婚と同時に元服したことだが、具体的な形式は時代や身分によって様々なので、ここでは詳細まで踏み込まない。

 江戸時代にはまた、庶民階級にも元服の儀式が広まったとされるが、それ以前は、米俵を一人で運べるようになったら一人前とか、そうした「通過儀礼」のみ各地に伝わっていた。要するに、独立して生計を立てることができるか否か、という線引きだったのだろう。

 ここで前回述べたことを少しだけ補足しておくと、成人年齢を20歳とする旧民法は、1876(明治9)年に制定された。今次の改正の理由として、日本人が好きな(?)
「18歳から成人と見なすのは世界の大勢」
 というのが挙げられている(法務省のホームページにも、ちゃんとそう書かれている)。

 たしかに今や140か国以上が、法的に18歳以上を成人と規定しているし、これまた日本人が大好きな「欧米では」という話をすると、1970年代に相次いで18歳以上を成人とする法律が成立したが、それ以前は、18~21歳の間でまちまちであった。

 とは言え我が国の場合、国民投票を含む選挙権を先んじて18歳以上に与え、それから民法が改正されているので、これはどう考えても本末転倒だろう。少年法も先んじて改正されているが、この問題については項をあらためて見る。

 話は変わるが、女性の新成人が振袖を着て参加する風習について、ここで少しだけ考えてみたい。と言うのは「18歳成人式」に対する強硬な反対論があり、その論拠が振袖を着る習慣にあるからだ。

 どういうことかと言うと、現在我が国では満18歳の女性のうち90%以上が高校生なので、成人式の年齢まで18歳に引き下げてしまうと、成人式も学校行事の延長に過ぎなくなり、参加も制服で十分ということにもなりかねない。着物業界としては死活問題である。

写真)袴姿で成人式に臨む男性も目立つようになった。
出典)Photo by Koichi Kamoshida/Getty Images

 振袖とは江戸時代の町人文化の中から生まれた服装で、もともと女性の着物は袖の縫いつけに余裕を持たせていたが、これは熱がこもるのを防ぐためだとか。前述の月代もそうだが、エアコンなどない時代に、高温多湿の風土に対応する工夫は重要だったのだ。

 着物の袖が長くなったのは、女性の身長が伸びたという理由の他、踊りを披露する際に舞台映えがする、袖を振ることは「厄(悪運)を振り払う」に通じて縁起がよい、とされたからであるらしい。このことから、町人文化と言っても、比較的富裕な層から生み出された流行だったのだろうと推察される。

 一説によれば、江戸の町娘は、振袖を外から内に向けて振ると「殿方の気を引く」ことができ、逆に外側に向けて振ると、自分にはその気がない、という合図になると考えていた。

 今でも、好きな相手に思いが届かない状況を「振られた」「袖にされた」と表現するのは、どうやらこれが語源であるらしい。

 いずれにせよ、明治以降に洋服が一般的になっても、振袖は未婚女性の礼装という位置づけだけは、変わることがなかった。

 再三述べるように、成人式は戦後始まったものだが、女性が振袖で参加するようになったのは、元号で言うと昭和40年代、すなわち高度経済成長期に入ってからのことである。当初は、やはり「持つ者と持たざる者」の問題があって、一部の自治体では、礼装を準備できない女性が参加をためらうのを未然に防ぐべく「普段着での参加」を呼びかけたケースもあったようだ。

 男性の場合はどうかと言うと、昭和の時代にはスーツが一般的だったが、平成の後半あたりから羽織袴が目立ちはじめた

 別に、若者の右傾化とかいう問題ではなく、いわば民族衣装である着物を着る機会が、成人式を置いてまずないというのが現実なので、折角だから、ということではあるまいか。

 以上を要するに、法的な成人年齢の問題と、成人式に参加できる年齢、それに成人式そのもののあり方は、それぞれ別個に論じる必要があろう

 次回は、民法改正に伴い、男女とも満18歳になれば自由意志で結婚できるようになった、という問題を考えてみたい。

(つづく。その1

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