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恥か? 勝利か?「1月6日」を巡るバイデンとトランプの攻防 - 海野素央(明治大学教授 心理学博士)

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 今回のテーマは「1月6日を巡るバイデンとトランプの攻防――2022年中間選挙と24年大統領選挙への影響」である。21年1月6日に発生したトランプ支持者による米連邦議会議事堂乱入事件から1年が経過した。11月8日の中間選挙と24年大統領選挙をにらんで、同事件を巡るジョー・バイデン大統領とドナルド・トランプ前大統領の攻防が激化している。

 トランプ氏と野党共和党議員は、どのようにして連邦議会議事堂乱入事件を自分たちに有利な出来事に変えようとしているのか。バイデン氏は果たして米国の民主主義を守り抜くことができるのか。また、同事件は今秋の中間選挙と24年大統領選挙にどのような影響を与えるのか――。

米国民はバイデン勝利と「1月6日」をどうみているのか?

 米公共ラジオ(NPR)とグローバル調査会社イプソスの共同世論調査(21年12月17~20日実施)によれば、「20年の大統領選挙の結果を受け入れる」と回答した有権者は全体の65%であったが、共和党支持者は47%にとどまった。逆に「不正選挙がジョー・バイデン大統領を助けた」という声明に対して共和党支持者の66%が賛成した。

 では、彼らは一体どこから不正選挙に関する情報を得たのだろうか。20年大統領選挙で「不正があった」と回答した有権者を対象に尋ねたところ、1位がフォックスニュース、2位がソーシャルメディア、3位が極右ニュースサイト「ブライトバート」や右派メディア「ニュースマッスクス」など、超保守的なニュースであった。彼らの情報収集源はかなり偏っていることが分かる。

 さらに、同調査では「時には米国の民主主義を守るために暴力もやむを得ない」という声明に対して、30%の共和党支持者が賛成を示した。前回の大統領選挙の結果に不満を抱く共和党支持者の中には、暴力を正当化する者が3割存在しているということだ。

 米ワシントン・ポスト紙とメリーランド大学の共同世論調査(21年12月17~19日実施)の結果も見てみよう。「バイデン大統領は選挙で合法的に選ばれた大統領か?」という質問に対して有権者の69%が「合法的」と回答した。17年に行われた同調査と比較すると、トランプ氏を合法的に選ばれた大統領と答えた有権者は57%で、バイデン氏が12ポイント上回った。ちなみに、バラク・オバマ元大統領に対しては85%が合法的と回答した。トランプ氏はオバマ氏に28ポイントも下回った。

 トランプ前大統領は前回の大統領選挙でバイデン氏が不正によって大統領職に就いたと批判している。だが、米国民は上の3氏の中でトランプ氏が最も非合法的に選ばれた大統領であると捉えているのである。この点は看過できない。

トランプの「3つの大嘘」

 バイデン大統領は1月6日米議会議事堂で演説を行い、「真実」と「嘘」を明確にしなければならないと強い口調で述べた。そのうえで、トランプ前大統領と多くの共和党議員が主張する嘘を一つひとつ潰していった。バイデン氏は特に「3つの大嘘」に焦点を当て、それを正した。

 第1は、20年11月3日の投開票日が「反乱の日」であったという大嘘である。トランプ氏の言う「反乱」とは民主党による不正選挙を指している。

 これに対してバイデン氏は、同月3日は米国の歴史において民主主義を証明した日であり、称賛されるべきだと反論した。新型コロナウイルス感染拡大の最中に、1億5000万人以上の有権者がリスクを冒して一票を投じた。バイデン・トランプ両候補の得票数の合計は、米国史上最高であった。

 第2は、20年大統領選挙の結果は信頼できないという大嘘である。トランプ前大統領は選挙結果の無効を訴えて法廷闘争に出たが、相次いで敗訴した。バイデン氏は4年間にトランプ氏が指名した判事たちが敗訴を決定したと強調した。

 第3は、議会議事堂を襲撃した暴徒は「真の愛国者」であるという大嘘である。バイデン氏は暴徒が議事堂に乱入したとき、彼らは公共物を破壊し、廊下で排便をし、上下両院の事務所から資料などを略奪し、標的になっている議員を探し出そうとした事実を指摘した。そのうえで「これが愛国者か? 私はそう思わない」と言い切った。

「国家の統一」よりも「民主主義の擁護」を優先

 では、なぜバイデン大統領は昨年トランプ氏を糾弾しなかったのか。また、なぜバイデン氏はここまで強い表現を使ってトランプ前大統領の「大嘘」を全面否定する必要があったのか。

「国家の統一」を選挙公約に掲げたバイデン大統領は、議会議事堂乱入事件に対するトランプ前大統領と支持者の責任の糾弾は、社会の分断を深化させる結果になるとみていたフシがある。バイデン氏は昨年、トランプ氏の荒唐無稽の話に無関心を装っていた。

 だが、トランプ前大統領は事実無根の主張を繰り返して「不正選挙」を支持者のモチベーターにしている。蜘蛛の巣のように嘘の糸を張り巡らしており、一向に止めようとしない。

 加えて今秋の中間選挙と24年大統領選挙に向けて、トランプ氏が議会議事堂の襲撃に参加して警察官に射殺された退役軍人の女性および、逮捕された多くの暴徒を「ヒーロー」「殉教者」並びに「愛国者」として称賛し、支持基盤を固めていくのは確かだ。

 バイデン大統領は選挙の年である22年から24年にかけて、米国における民主主義の危機はさらに深まると読んでいるのだろう。バイデン氏は国内外の権威主義者から民主主義を守り抜く意思を示している。

 そこで、1月6日を機に「国家の統一」よりも「民主主義の擁護」を優先させて、議会議事堂襲撃に関するトランプ氏と支持者の責任を問いただし、厳しく非難したのかもしれない。

「12月7日」「9月11日」と「1月6日」

 バイデン大統領の演説に対するトランプ前大統領の反論を紹介する前に、カマラ・ハリス副大統領の演説にも注目したい。

 ハリス副大統領も1月6日米連邦議会で演説を行い、1941年12月7日、2001年9月11日および2021年1月6日を同列に論じた。日本による真珠湾攻撃、国際テロ組織アルカイダによる同時多発テロ、トランプ支持者による連邦議会議事堂乱入事件は、どれも米国の民主主義への攻撃だと言うのだ。ハリス氏が民主主義への攻撃の日として、1月6日を米国民の記憶に刻まれるのを望んでいることは理解できる。

 日本人の筆者は3つの歴史的事件の同列の扱いに多少違和感を持ったが、同時に連邦議会議事堂乱入事件を巡る認識の相違に気づいた。一部の日本メディアは「1月6日」を米国の歴史に汚点を残した日になったと報道している。

 だがハリス氏はトランプ支持者から攻撃を受けた後、米連邦議員は議事堂に戻り、獲得選挙人の確認作業を終了させたと述べて、米憲法に対する彼らの忠誠心の高さを称えたのだ。バイデン大統領は演説で、暴力による選挙結果の覆しを試みたトランプ支持者について「彼ら(トランプ支持者)は失敗した」と語気を強めて、「民主主義の勝利」であるという認識を示した。

 つまり、バイデン・ハリス両氏は1月6日は汚点を残した日ではなく、米国が民主主義の強さを示した日と認識しているのだ。

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