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“正しい”より“面白い”で人と社会が変わっていく-第155回(後編)筧裕介氏


『認知症者世界の歩き方』の書籍において、ユニークなアプローチで認知症に対する理解を大きく前進させた筧氏。固定観念にとらわれない表現が生まれた背景には、過去に「力不足」を感じた体験にあった。

取材・文/みんなの介護

現代で必要なのはイシューの明確化とデザインの力

みんなの介護 『認知症世界の歩き方』を始め、社会課題解決のためにデザインプロジェクトを進行する上で大切にされていることは何ですか?

 イシュー(解決すべき課題)を明確にすることです。

例えば、「認知症の方が暮らしやすい社会をつくる」ということは、組織が中長期に達成するビジョンとしてはわかりやすいかもしれません。しかし、これだけ壮大なビジョンの達成には、なかなか到達しません。「その実現のために、具体的にチャレンジできる、すべき課題(=イシュー)は何か」、と的を絞って考えることが必要です。

『認知症世界の歩き方』は、「認知症の方が生きている世界や見えている景色を、周囲の家族、医療介護関係者そして一般市民に知ってもらいたい」という思いから生まれました。これがイシューなんです。

このイシューを解決するために、何をすべきかを具体的に考えてチャレンジする。設定したイシューから逃げない、ぶれないことが大切です。イシューが絞られていて具体的だと、意外と解決策はすぐに見えてきます。

みんなの介護 大きすぎるテーマを掲げて「解決しない」と悩むよりは、具体的に取り組みたいテーマを定めることで解決の糸口が見つかるのですね。

 はい。もう一つ大切にしているアプローチがあります。イシューの解決手段としてのデザインです。

人の共感を呼び、共感者同士のコミュニティをつくり、社会を動かす。そのために大切なのが、人の感性に訴える「楽しさ」や「美しさ」なんです。そんなクリエイティブな行為を、私たちは「デザイン」と呼んでいるのです。

通常、ビジネスの領域でも社会課題の領域でも、ある課題があった時、その課題解決のためにデータを集めて論理的に分析し、正解を見つけようとしますよね。もちろん、それも正しいアプローチです。

経済成長の時代には、正解=やるべきことが明快だったので、このアプローチがすごくうまくいっていました。「これをやったら必ず儲かる」というような正解があり、それをいかに速く効率的にできるかが勝負の鍵を握っていました。

しかし、現在のような予算も限られ、人口も減り、経済が成熟した時代には、なかなかそんな「正解」は見当たりません。こんな正解がなく課題解決が難しい時代には、デザインというアプローチがますます大切になってくるのではないでしょうか。

認知症の方が生きている世界を知ってもらうために、認知症に関する正しい情報を伝えるというアプローチももちろん可能です。それで理解してくれる人もいるでしょう。しかし、それでは伝わる人も限られますし、伝わり方も限定的です。

多くの人が、認知症世界を「面白い」「興味深い」と思ってもらえると、その世界のことをより知りたくなるでしょう。認知症の方に興味を持ってくれるようになります。その結果、多くの人の考えや思想、そして行動が変わっていく。それが、私たちが目指している「デザイン」の成果なのです。

みんなの介護 『認知症世界の歩き方』は、私もすごく面白いと感じました。認知症の方の世界が親しみやすくなりましたね。

 認知症の本で「面白い」と言ってもらえることは、なかなかありません。怒られないかな、と思いながら勝負をしたところです。

書籍だけでは限界があるので、ゲームでアプローチ

みんなの介護 その思いが見事に結果につながったのですね。「面白さ」を念頭においた書籍づくりはこれまでもしてこられのたのですか?

 過去の書籍では、比較的真面目に真っ正面から書いていました。前著の『持続可能な地域のつくり方』は5刷まで行き2万部ほど売れています。書籍としては、もちろんとても良い売れ行きなのですが、「そこまでしか」売れていないという言い方もできます。

本当は、私の書籍を手に取ってくれる一部の勉強熱心な行政マンや社会起業家、まちづくりに関心がある人だけでなく、地域の生活や経済を支える、じいじ、ばあばに届けなければいけないと思うんです。

でも、多くの人たちは、こんな硬い本なんて、なかなか読んでくれません(笑)。 自分の力不足を痛感しました。

こうした問題意識から始めたのが「SDGsde地方創生」というカードゲーム型のプログラムです。

参加者は、地域で暮らす農家や行政職員、IT企業の経営者など、それぞれの立場で2030年までの地域の未来の変遷を疑似体験するゲームです。それぞれのプレイヤーには、自分の人生の個々の目的(個人の夢や生きがい、収益目標)が設定されています。

しかし、自分の目的だけを追求していても、地域全体の人口が減り続け、市場も縮小し続け、結果的に、地域の衰退はどんどん進み、自分自身の事業もうまくいきません。

ところが、プレイヤー同士が地域内に蔓延る様々な分断を乗り越え、チームを組み、協働プロジェクトができてくると、地域全体がどんどん盛り上がっていく。結果として、自分たちの事業もうまくいくようになる…そんな対話と協働による地域活性化のメカニズムを体感できるゲーム型のプログラムです。

みんなの介護 面白いですね!「SDGsde地方創生」のゲームは、どれぐらいの人が取り組まれたのですか?

 推計約10万人ほどに参加頂いています。全国にゲーム型の研修やワークショップを開催できる公認ファシリテーターが900名弱います。その900名が自分たちの地域でプログラムを行ってくれていて、今までに5000回ほどゲームが開催されています。

「SDGsde地方創生」は、ゲームがそもそも面白いという評判をいただけたので、まちづくりや社会問題に特段関心を持っていなかったような人も興味本位で体験してくれています。

みんなの介護 楽しく取り組めるようにすることで、結果的に広がっていったのですね。

 そうですね。「認知症世界の歩き方検定」や「認知症世界の歩き方 Play!」もそれに近い考え方です。書籍のようなメディアを読んでもらうという方法だけでは、限界があります。できるだけ、いろいろな方が、能動的に、体感を持って参加してもらえるアプローチを組み合わせることで、「認知症世界」に接する方を広げていきたいと思っています。


「工学的アプローチ」には限界がある

みんなの介護 筧さんは、地方創生などにもかかわられていますよね。

 地方創生やまちづくりのプロジェクトは、全国各地で創業以来10年以上ずっと取り組んできています。

離島や中山間地域では、高齢化と人口減少に伴い、どの地域でも農業や手工業などの地場産業、祭などの共同作業の担い手が不足しているという共通の課題を抱えています。

そこで、若い世代を中心に、地域の人々が、地域資源を生かした新しい事業やまちづくりの活動を生み出ししていくことを後押しするプロジェクトをいろいろな地域で行っています。

みんなの介護 地方創生の活動の中で感じられた課題はどんなものだったのでしょうか。

 日本の地方創生、地域おこしがうまくいかない理由は「地域内の分断」にあると思っています。いろいろなプレイヤーがそれぞれの目的で個々に活動していて、繋がっていない。同じことを違うプレイヤーが別々にやって非効率だったり、足を引っ張り合っていたり…。

お互いに対話し協働できるところは協働する、分担するところは分担する、サポートするところはサポートする。こんな「対話と協働」の文化を地域が取り戻すことができれば、地域は劇的に変わるんです。

安倍内閣のときに打ち出された「地方創生」は、今までと比べると少し成果が出たという感触はあります。しかし根本的な解決には至っていない。その原因は「工学的なアプローチの限界」にあると思うのです。

工学的アプローチとは、地域づくりを「機械の修理」のように行うことを意味します。例えば、家のテレビが故障し多様で映像が映らないとします。おそらく、皆さんはその原因を究明すると思います。それは、リモコンの電池切れかもしれません。電源アダプターの故障かもしれません。アンテナの不具合かもしれません。

機械が壊れた場合は、このように要素を細分化し、問題点を発見して、修理すれば直ります。地域に対しても、長年同様の手法(工学的アプローチ)がとられて来ました。

地域経済の衰退・人口減少という問題に対して、犯人を探し、課題の特定をします。その犯人の一つとして「若年層の減少」がよく槍玉に挙げられます。そこで、若者の地域への移住・定住促進のためにいろいろな策が講じられ、膨大な量の税金が投入される。

地域起こし協力隊制度ができ、地域PRのための宣伝広告がされ、大々的なイベントが開催され、起業支援や住宅補助手といったお金がつく。もちろん、個別の政策が悪いと言っているわけではありません。「地域起こし協力隊」制度は、私は素晴らしい制度だと思っています。

こうした政策によって一時的に若者は地域に移住してくれるでしょう。しかし、地域のコミュニティが若者を受け入れる風土がなければ、疎外感を感じて、すぐに出て行ってしまいます。

また、パートナーを見つけて結婚し、子供を産んでくれるかもしれません。これは自治体的には大成功です。しかし、保育の環境が整っていなければ、すぐに離れてしまうでしょう。子どもの教育に不安を感じたら、進学を機に教育が充実した地域に転居してしまうと思います。

地域が抱えている課題は全て密接につながっているのです。テレビの修理のように特定の一つの問題に注力して修理を行っても、成果は出ません。課題同士の繋がりを意識し、様々なプレイヤーの対話と協働により、包括的に地域全体の課題に取り組むことが持続可能な地域づくりには欠かせないのです。

撮影:丸山剛史

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