- 2022年01月05日 15:01
鯨岡仁『安倍晋三と社会主義 アベノミクスは日本に何をもたらしたか』
2/2共産党の党首・志位和夫は、元旦の「しんぶん赤旗」で本田由紀と対談している。
その中で本田から
たとえば、30代、40代ぐらいの働き盛りの男性にとっては、賃金も上がらない、家族もいるなか、“とにかく食っていかなきゃいけない”“とにかくもうちょっと金を稼ぎたい”“とにかくもうちょっとゆとりがほしい”みたいな切実な思いがあります。
ツイッターには、「野党は苦しい人たちには非常に優しいような政策を提言とかするけれども、そこまで苦しくはない自分たちに対して一体何をやってくれるんだ」みたいな声がありました。改めて総選挙の各党の政策を読み比べてみた時に、自民党は経済政策にたくさんの項目が挙げられていて、しかもなんかカタカナ用語みたいのをいっぱい使いながら、キラッキラな素晴らしい将来がすぐそこにあるかのような、マニフェストを掲げていました。「もう一度、力強い日本を」とか、「強い経済と素晴らしいテクノロジーを」とか、こうしたキラキラした雰囲気を渇望している有権者が、先ほど話した30代、40代の男性を中心にいると思います。
という問いかけを受けて、志位は、
いまおっしゃったこと、特に30代、40代の男性の働き手にも響くような訴えをどうやればできるかということは、本当に考えなければいけないなと思いました。
そこで、こう考えてみました。新自由主義から転換しなくてはいけないというのは、本田さんも同じ立場だと思います。では、新自由主義から転換してどんな社会をつくるか。この社会を一言で言った場合、本田さんの言葉をそのまま使わせていただきますと、“やさしく強い経済”をつくろうというように訴えてみたらどうかと考えたのですが。
と答えた。
その後、志位はその中身を紹介している。
ぼくも、困窮者対策とか、社会保障の充実とか、非正規対策とか、そういうものが、「弱者救済」——経済の「やさしさ」としてアピールをするのではなくて、それを「強さ」として描くことが大事ではないかとは思う。
もう少し言えば、それを「成長」として考えることである。
志位和夫はこの対談掲載から3日後に「党旗びらき」で挨拶し、「やさしく強い経済」をさらに練り上げ、その核心について「一人当たりの賃金が上がらない、成長できない国になってしまった」という点にポイントを置いた。
これはまったく正しいと思う。政策的なフォーカスとして。
同じように、「気候危機」や「ジェンダー」については選挙をやる上では、もっと「経済」特に「成長」として語ったらいいのに、と感じる。
誤解のないようにいっておくが、気候危機やジェンダーは経済の問題ではくくれない課題は少なくない。そこだけに収斂させてしまうのは、矮小化になる。しかし、それは社会運動としての長期の課題であって、選挙がもう始まってしまい、その時にもしまだ社会意識が変わっていなかったとしたら、選挙運動期間は短いのだから、気候危機やジェンダーについては経済を軸にした訴えにすべきだと考える。
例えばジェンダーの問題で共産党が総選挙において一番重視したのは、男女の賃金格差であった。もし非正規の最賃アップやケア労働の待遇改善によってこれを埋めるように訴えるなら、それは賃上げ政策であり、成長のための戦略であろう。
気候危機についても同じである。
実は、総選挙後、ぼくも安倍にならって(?)少しは政策の勉強会をやった。
その時に、共産党の気候危機打開政策「2030戦略」にも登場する学者・明日香壽川の小論文を知り合いの左翼仲間で勉強したのである(明日香「グリーン・リカバリーとカーボン・ニュートラル実現へのエネルギー戦略」/「議会と自治体」誌2021年1月号所収)。
明日香らは日本版グリーン・ニューディールの経済効果について試算をしている。家庭部門では「熱、主に断熱建築、ゼロエミッションハウス」で2030年までに15.2兆円の投資を見込んでいる(経済波及効果は41.8兆円/年、雇用創出数は267万人・年、投資額あたり雇用創出数は17.6人年/億円、2030年のCO2削減量*1は28Mt-CO2)。
同論文では、グリーン・ニューディールとは究極的には省エネと再エネの拡大しかないのだが、と断りつつ、即効的で具体的な経済政策としてみた場合どうなるのかについて、
ただ、短期間で実施できて、かつ経済効果も大きいという意味では、今ある建築物の断熱工事による省エネが最も優れており、そのための補助金などの拡充は早急に検討されるべきである。(強調は原文)
としている。これは、住宅リフォーム助成として、共産党の地方議員や建設労働組合などが進めてきた運動そのものである。
「ゼロカーボン」や「気候危機」というのはピンとこない人がいても、「断熱のための住宅リフォームによる助成で経済対策を」というふうに打ち出せば、印象はまるで違う。「正義」のための運動というよりも、具体的な中小企業を潤わせる地域の経済政策・成長政策として打ち出すことができる。共産党は確かにグリーン・リカバリーをやれば経済効果があるという話をしていたが、それをもっと具体的に語り、運動 団体がイメージしやすいものに落とし込む努力が必要だった。その点で明日香のこの指摘は重要である。
左翼は今回の「負けた」総選挙の後で、こういうふうに「安倍に学んで」、勉強会をやったらいいんじゃないかなあと思った。例えば、上記の住宅リフォームへの助成なんかは、中小業者の運動団体の人たちと一緒に、専門家を呼んでぜひ政策勉強会を始めたいくらいである。
鯨岡の本では、人間安倍・人間麻生が登場する。
気落ちしたり、勉強したり、竹中平蔵を排除したりうまく付き合おうとしたりする、そういう姿である。
その姿を見て、繰り返すが、「安倍も人間味あるんだなあ」とかいう話をしたいのではない。*2
自分も勉強しなきゃいけないなと思ったり(例えばあるマンガ編集者に揶揄されたのだが、ぼくは金融政策とか全然わからない。俺は雰囲気で経済政策をやっている)、立場の違う人とももっと踏み込んで付き合わないとダメだなと思ったりしたのである。安倍の姿から学ばされた一冊であった。
*1:ここだけ公営住宅などの分と合わせて。
*2:安倍政権が民主主義の点において戦後最悪というべき汚点を残した内閣であったことはぼくにおいて揺るがない。



