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今年も“じゃない方会社員”で生き延びたい

もうそろそろ2年前になるだろうか。かつて『水曜日のダウンタウン』で「なにやら占い師に傾倒し始めた相方が改名を訴えてきても応じられない説」が検証された。

ドッキリで、コンビの片方が相方に対して、メチャクチャな芸名やコンビ名の改称を提案する様子をモニタリングする内容で、その中に野性爆弾が登場した。

仕掛け人のくっきー!が自分の芸名を「相原YOU」、コンビ名を「飛ぶ人間(ピーターパン)」、さらにロッシー自身の芸名も「しそうのう郎」に改名したいと提案。野性爆弾といえば、芸歴は20年を有に超えるベテランである。ロッシーの芸名にもそれなりに歴史がある。ところが、この全ての提案をロッシーは「全然いいよな」などとほぼ二つ返事であっさりOKしたのだ。この様子が、当時ネット上では「くっきー!より怖い」「狂気」などと話題になっていた。

そのとき、ぼくはぼく自身に対して、ほかの視聴者とは全く別の意味で衝撃を受けていた。なぜなら、みなが「怖い」「狂気」と言っていたロッシーの反応が、ぼくにとっては「すごい分かる」「たぶん俺もこういう反応する」と共感できてしまったのだ。

このとき、自分の「じゃない方」属性を直感した記憶がある。ロッシーといえば、紛うことなき「じゃない方」芸人だろう。鬼才・くっきー!がお笑いの分野を超えて多才を発揮する一方、幼稚園からの幼なじみにして相方のロッシーは常に受け身で、何かを自発的に発表する瞬間は、少なくともテレビ画面上では目撃できない。千原ジュニアをして「爆弾がくっきー!、野性はロッシー」と言わしめたように、その芸歴のほとんどをその天性の天然属性で乗り切ってきた男である。おそらく、芸名やコンビ名についても、「くっきー!が替えたいのなら替えよう」ぐらいだったのだと思う。

この「変えたいという意思がある人がいるなら、それに従おう」。その感覚が、ぼくはとてもよく分かるのだ。なぜなら、ぼく自身も会社では「じゃない方会社員」だからだ。

自分から自発的に企画を立てない、やれと言われたらやる。自分の担当する業務についても、責任は取るけどそこまでこだわりはない。上司に「こういう風にしたほうがいいんじゃない?」と言われたら、「あ、そうですかね。じゃあそうしましょう」と二つ返事で了承してしまう。それは、上司と意見が対立したくないとかではなく、本当にそこに意思がないからだ。ほら、ロッシーではないか。

もしぼくがお笑い芸人だったとして、相方からぼく自身の芸名変更と新しい芸名を提案されたら、「全然いいよ」と了承してしまうと思う。そこに意思がないからだ。意思がないなら、意思がある人の意見に従うまでなのだ。

しかし、こうした「じゃない方会社員」として自分が始末に終えないと感じるのは、自分のことを「会社のお荷物、厄介者」とは露ほども自戒していないところだ。

こうした厚顔無恥な自意識の誕生にも、お笑い芸人が関係する。

以前、ハライチの岩井勇気が『あちこちオードリー』で、ネタを書いていない相方の澤部佑に対して抱いていた不満と折り合いをつけるため「俺の本当のやりたいことに、ギャラを半分あげて来てもらっている人」と思うようになった、と話していた。

www.tv-tokyo.co.jp

澤部は厳密には「じゃない方」芸人とは言えないほど売れに売れきっているし、どちらかといえば、少し前の岩井の方が「じゃない方」に片足突っ込んでいたぐらいだったが、ネタについては岩井が完全な頭脳で、澤部は「じゃない方」になるといっていいだろうを

岩井のこの言葉を聞いたときに、膝を打つ思いがした。そうなのだ、「じゃない方」は不必要な存在などではない。ぼくのような「じゃない方会社員」がいなければ、会社の業務は回らない。ぼくも社長や上司からしたら「俺の本当のやりたいことに、ギャラを半分あげて来てもらっている人」なのだ。岩井が、ネタを書く方/書かない方の不平等への不満に折り合いをつけるために編み出した考え方が、全く関係ないぼくに刺さった瞬間だった。

よく、「0から1を生み出す人」「1から10を生み出す人」「10から100を生み出す人」という言い方がある。ぼくの意識では「じゃない方会社員」はそのどれにも当てはまらない。さすがに「10から100を生み出す人」ぐらいはやっているのでは?という人もいるかもしれないが、その人はまだ「じゃない方」会社員として徹底できていない。真の「じゃない方」会社員はときに「56から61を生み出す人」になれば、ときに「45から29を生み出す人」にもなる。たまには足手まといにもなる。たまにね。

ここまで読んで、こいつは人生を、社会をなめきっていると感じた人。あなたは正解である。無論、ぼくは人生をなめきっているが、この「じゃない方会社員」であることが安泰であるとまでは思わない。いずれバレるかもしれない。いつか来るかもしれないその日まで、息を潜めて、「じゃない方会社員」として今年も生き延びたい。

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