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  • 2022年01月04日 12:20 (配信日時 01月04日 06:01)

働く時は猛烈に 日本人が知らない米国人の「働き方」- 冷泉彰彦 (作家・ジャーナリスト)

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2022年が幕を開け、今日から仕事始めという読者も多いだろう。新年初めの本連載は日本の「働き方改革」の議論の中で話題になることが少ない米国人の「働き方」について見ていきたい。


(metamorworks/gettyimages)

権利意識高いも、「働き方」に不満なし

日本の雇用においては、長年にわたって長時間労働が批判されてきたが、現在は「働き方改革」というスローガンとともに労働時間の短縮が叫ばれている。この「働き方改革」の中では、労働時間が日本より短い欧米を模範とするというのが、暗黙の了解となっている。

米国の場合を例にとってみれば、確かに過労死とか過労自殺という話はほとんど聞かない。もちろん、雇用そのものの量と質に関しては、リーマン・ショック後は長期にわたって国民の間では不満が高まっていた。だが、労働関係の制度が国民から批判されているかというと、そうではなく、米国の「働き方」の制度には大きな不満は出ていない。

では、福祉国家を目指したことでズルズルと競争力を失っていった、1950年代から70年代の英国のような「病気」に米国が罹患しているのかというと、全くそうではない。米国という社会においては、日本と比較すると労働生産性という点に関しては、遥かに高い。

高い生産性を実現しつつ、働き方に不満はないというと、まるで米国の労働者が全般的に優秀かというと、これも違う。また、米国には滅私奉公などという言葉はない。雇用側に違法性があれば懲罰賠償を含めたペナルティがある社会であり、権利意識は高い。

高い生産性と過労死ゼロが両立しており、不満があり権利意識は高い中でも制度は信頼されている。これが米国の雇用制度である。どうしてそんなことが実現できているのか、2つ大きな理由が指摘できる。

明確に別れている「2つの労働市場」

制度面では、「2つの労働市場」に分かれている点が大きい。また、意識の面では「働く時には働く」というカルチャーがあり、これが米国の国力を下支えしている。

まず、労働市場についてだが、残業手当のつかない「エグゼンプト」と呼ばれる「管理職・専門職」と、残業手当の対象となる「ノン・エグゼンプト」すなわち「一般職」の2つにキッパリと分かれている。この2つのグループは法律上、あるいは労務管理の上で区別があるだけではない。「管理職・専門職」と「一般職」の間では全く労働市場が異なる。

2つの労働市場を分けている要素は色々あるが、その大前提となるのは1つのシンプルな原則だ。それは、残業手当のつく「一般職」には本人の事前の同意なくしては残業を命令できない、ということである。この原則には裏返しの事実が伴っている。原則として、残業手当のつく「一般職」は残業をしないのだ。

また、この「一般職」は、地域の雇用であり転勤がないのが通常である。また、本人の同意がなければ出張もない。更に言えば、終身雇用制度はとっくに崩壊しているように見える米国であるが、多くの場合は職種別組合が控えていることもあって、「一般職」の解雇には経営側は慎重にならざるを得ない。無茶な解雇をすると、組合が怒鳴り込んでくるし、巨大な訴訟リスクもある。

その代わり、「一般職」の年収は高くない。フルタイムの場合でも時給は新たな最低賃金である15ドル(約1700円)近辺であり、年収ベースでは3万2000ドル(約365万円)がスタートラインであり、昇給していっても8万ドル(約912万円)程度で頭打ちである(例外もある)。

勤務内容も「一般職」の場合は、権限の低い定型業務が主となっている。ハッキリ申し上げて、この「一般職」の生産性は決して高くはない。マネジメントが強力なので、不要な配置はせず、職務記述書に従って雇用して業務効率を高めるようにしているだけであり、このレベルの従業員集団同士を比較したら、アジア諸国には完全に負けるであろう。

「働くときは働く」管理職・専門職

ところが、もう一つの集団である「管理職・専門職」の場合は、全てが違う。まず、時間管理をしないのが普通であるし、職種によっては出張も多い。場合によっては海外出張もある。また、本人の同意が必要だが転勤という可能性もある。

この「管理職・専門職」については、成果主義が徹底しているので、個人の業績が不振の場合は即時解雇ということが頻繁にある。勤務中に上司に呼ばれて解雇を告知され、1時間半以内に退社するよう指示される。

私物の整理をしているうちに1時間半が過ぎると、警備員が退去を促し、その時点で会社のメールアドレスも情報アクセス権も消滅、などというのは実は米国では当たり前の世界である。繰り返しになるが、これも「管理職・専門職」に限る。

その代わり、「管理職・専門職」の報酬は高い。大企業の場合、年俸はインフレ化している。以前は7万ドル(約800万円)近辺からのスタートだったが、シリコンバレーのエンジニアでは、14万ドル(約1600万円)の大卒初任給という水準が当たり前となっており、その他の職種も軒並み上昇している。それこそ最高経営責任者(CEO)にでもなればマルチミリオン(円で言うと数億単位)とか10ミリオンという年俸にストックオプションがつくということになる。

高報酬が保証される一方で、成果主義が徹底しており、パフォーマンスが悪ければ即時解雇もあるのが「管理職・専門職」であるが、その働き方は原則としてかなりフレキシブルである。まず、時間管理がなく、本人の裁量性が高い。つまり、勤務時間は必ずしも「9時から5時」とは言えないのである。コロナ禍の中で在宅勤務が主流となったわけだが、そもそも米国の「管理職・専門職」の場合は、コロナ以前の段階でも在宅勤務は流行していた。

意外に思われるかもしれないが、管理職・専門職の場合は成果要求が厳しくなっているために労働時間がどんどん長くなっている。コロナ禍以前の話だが、通勤電車の中でPCで仕事というのは当たり前だった。また、休日でもメールチェックをする、在宅勤務の場合に子どもが寝静まった深夜に作業をする、というケースも極めて一般的である。

だが、そうした過酷な勤務を自分の才覚でこなしてゆく人間には、高収入という見返りも含めてやり甲斐があるということになる。いつでも解雇される危険と隣あわせだが、そのリスクを背負う覚悟のある人間で構成されているのが、この「管理職・専門職」の労働市場だ。

大学時から身に付けさせられる「厳格な締め切り」

この米国の「管理職・専門職」の勤務姿勢を象徴する言葉が2つある。「ハード・デッドライン」と「エフェクティブ・イミーディエトリ」である。

まず「ハード・デッドライン」だが、要するに「厳格な締め切り」という意味だ。反対語は「ソフト・デッドライン」でこちらは多少遅れてもいい締め切りだが、「ハード」になると非常に厳しい。この「ハード」な締め切りを守ることで、例えば連邦政府の予算執行から、アップル社の新製品発表まで、米国の社会は経済のペースを落とさずに進むのである。

確認だが、どんなに新製品発表会の日程が厳格で、その新製品の発売日までの調達が絶対であっても、米国の場合は、その締め切りを守るために「ノン・エグゼンプト」に残業を強いることはできない。これは、米国資本主義のルールである。その代わり、「管理職・専門職」は知恵の限りを絞り、徹底した討議とコミュニケーションを通じて事業計画のスケジュールを死守するのだ。

米国の教育では、中高から大学まで宿題を重視する。そして締め切りを非常に厳格に設定する。近年では、高校や大学になると、電子的にエッセイやレポートを提出させることが多いが、締め切りに1秒でも遅れると大減点になる。これは米国社会における「ハード・デッドライン」の重要性を学ばせるためにやっているのだ。

反対に、「ハード・デッドライン」を守る中では、ギリギリまで「質の追求」を推奨する文化もある。凡庸な成果をサッサと提出してもまるで評価されないのだ。

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