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優柔不断でグダグダに見える岸田政権の支持率はなぜ上がるのか。そこに日本が向き合うべき課題がある。

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4●「幽霊相手のケンカ」をやめて、単に工夫を持ち寄れる風土づくりをするべき

そういう「幽霊相手のケンカ」の例として、今年10月末の選挙でも日本維新の会が「いかに日本が古い既得権益層に牛耳られていて新しいチャレンジができない社会なのか」の「事例」としてこの養父市の話を扱っていたんですけど(笑)

こういう「幽霊相手のケンカ」にエネルギーを浪費するのはそろそろやめるべきではないでしょうか。

実際に日本の地方では耕作放棄地が増えすぎて何かしないとどうしようもないのは明らかなので、「すべてがイデオロギー対立に見えるビョーキ」の人が多い団塊世代が引退し始めた昨今では企業体による営農に否定的な人なんて実際はほとんどいないわけです。

養父市の事例がうまく行ったのは市長が旗振りをして関係者の間を取り持って具体的に動かしたからであって、「抵抗勢力をぶっ壊せ!」とか騒いだからではない。

私は学卒でマッキンゼーという「アメリカのコンサル会社」に入った後、こういう手法って大事なのはわかるけどこればっかりやってたら社会が真っ二つに分断されちゃうよな・・と思って、それ以降「日本の現場レベル」の仕事をアレコレ実体験として潜入してやったあげく中小企業コンサルティングをやっている人間なんですけどね。

その経験から言って、日本の中小企業や農家の「横の相互研鑽力」みたいなのって相当凄いものがあるんで、「こういうのがいいらしいよ」っていうことを単純に共有できるようになれば凄いスピードで変化が起きるんじゃないか?という感じがします。

個人主義のインテリ階層が嫌いな「日本社会の自然的な連携力」を否定せずに、そこと協業して活かすように持っていくことが大事というか。

大事なのは「アメリカ型の隅々まで言語化された議論」を末端まで押し通そうとするんじゃなくて、「日本的な組織・社会」が持つ特性を否定せずにそのまま活かす形で、縦横無尽に勝手に広がる伝播力をいかに活用できるかどうかで。

醸造食品を作るような「微生物さんたちの力」を否定しないような関わり方を工夫する必要があるというか。

今はそこで「工夫自体を単純に共有する回路」が、「全部がイデオロギーに見えるビョーキ」の人たちが敵と味方に分かれて大声で罵り合っている声にかき消されてしまっているのではないかと思うんですね。

単に

「養父市じゃこうやってうまく行ったらしいよ」

「なるほどウチでもやってみよう」

という工夫の共有がなんのこだわりもなく日本全国で縦横無尽に起きるプロセスを、概念志向で頭がいっぱいになったインテリが邪魔しない事が大事なんではないかと。

4●岸田がグダグダなのは仕方ない。どう活かすかが大事なのだ。

私はスガ首相が結構好きで、確かに弁舌さわやかにテレビで国民に説明する能力は壊滅的だったけれども、あれだけマスコミや野党に「根拠がない」「適当なことを言うな」などとむちゃくちゃに批判されていた「ワクチン一日100万回」をゴリ押しで実現するとか、携帯料金を下げるとか、カーボンニュートラルの目標設定をするとか、「これが必要だ」と心に決めた政策を実現する能力は非常に高い人だったと思います。

だから、「スガは権力の座にいることしか興味がない小者」みたいな、実態とかなり違う批判をする人たちには怒りを感じていたんですけど。

ただ、結局そういう「強引さ」が嫌だからといって「必殺仕事人スガ」を引きずり下ろしたんだから、後任の岸田氏が多少優柔不断でグダグダ感があっても我々は甘受しなくてはいけないところがあるでしょう。

しかし、岸田氏になったことで、「どの勢力も無理やりには押しきれなくなった」ことは、単にグダグダになる可能性も十分ありますが、結局「抵抗勢力をぶっ壊せ!」型の議論は全部通らなくなったのだ・・・という状況に追い込まれるということでもあります。

今の日本の政治状況は、先述したような「幽霊相手のケンカ」的な意見は全て跳ね返してしまう関門のようになっていて、特定の勢力が一方向的にゴリ押ししようとしても、全てナアナアの日本的曖昧さに絡め取られてしまう状況にあると言えます。

それは単にグダグダの無方向的な漂流状態になる可能性も十分ありますが、一方で今まで数十年間沈黙させられていた「本当の対話」の回路が開いてなんとなぁ〜くスルスルと改善が進むようになる可能性もある。

製造業の工夫の一つとして、「間違った場所に組み付けようとしてもハマらないような設計にする」ことでミスを防ぐ・・・という方法があります。

あるいは「武道の型稽古」を考えてみると、「本質的に正しい体の使い方をしないとむしろ窮屈に感じるような動き」を練習することで、今までの日常的な悪いクセを脱却してより良い体の動かし方を自己発見できるようになっている。

それらと同じように、「本当の対話」以外の幽霊相手のケンカ的な議論はすべて受け付けない沼のような状況に自ら飛び込んだ形になった日本は、その閉塞感とちゃんと向き合うことができれば、「その先の世界」を見ることができるようになるはず。

さきほどの私のクライアントの話のように、「本当に大きな変化」というのは、実際に内側で体験してみれば「怒鳴り合いのドラマ」とか「あの決断こそが真実の決定的瞬間だった!」というような大げさな状況もなく何気なく静かに進んでいくものである可能性が高いです。

それは一部のエリートが「ぶっ壊す!」式に引っ張り回そうとする無理をすべて日本という「沼」に飲み込んでしまった先にある、すべての細胞が勝手に考えて勝手に行動してスルスルと常に形を変えて変わっていく巨大で不定形な謎の生き物のような進化となるでしょう。

ジョジョの奇妙な冒険のセリフのように言うならこうです。

『なるようにしかならない』 という力には無理に逆らったりするな…… 『本当に国運が上向く』 という事はそれさえも味方にするという事だからだ

今回の記事は以上です。
記事中に書いた本は、来年2月5日に「日本人のための議論と対話の教科書」というタイトルでワニブックス新書から出る予定なので、ご期待ください。
その出版プロセスで体感した「日本の出版業界のナアナアさ」には良くない点もあるが一方で「ジャンプ編集部」的な世界的成果を出す秘訣も眠っていて、その「ナアナアさ」をいかに善用していくのかが大事なのだ・・・という記事を書きましたので、そちらもよろしければお読みください。
また、古代ギリシャにも、現代の腐女子がやるような「カップリング妄想」の世界があったという話から、そういう多神教的豊潤さを失わずに社会の基礎として活かして行くことの重要性について書いた記事も、同じ意味で今後の日本にとって大事な話だと思うのでぜひどうぞ。

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倉本圭造経済思想家・経営コンサルタント
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