- 2022年01月02日 09:36 (配信日時 01月02日 06:15)
箱根駅伝の優勝本命「男だろ!」が物議の駒大・大八木監督、"秘伝のデータ"をささやき選手伸ばす知られざる側面
2/2過去のデータを参考にして、0.5秒遅くても注意する
大学卒業後はヤクルトで6年間の実業団生活を送り、選手として4年、残り2年はコーチとして活躍した。そして36歳のときに母校に戻ってきた。1995年のことだ。当時の駒大はどうにか予選会を通過できるようなレベルだった。チーム力を伸ばすために、大八木監督は“スーパーエース”を育てることを一番意識したという。
「とにかくエースを育てないとチームはまとまらないと思ったので、最初にエースを育てたいと思っていました。エースがいれば、みながついていき、チームの方向性が固まる。組織はまっすぐ進んでいきますよ」
コーチ就任1年目に入学した藤田敦史(現・駒大コーチ)がスーパーエースに育つと、チームは変わっていく。箱根駅伝は就任2年目の1997年に復路優勝。同4年目の1999年には往路を初めて制した。藤田の背中を追いかけてきた選手たちが育ったことで、2000年に初の総合優勝に輝くと、2002年からは4連覇を達成。いつしか駒大は「平成の常勝軍団」と呼ばれるようになっていた。
近年はGPSウオッチなどでさまざまなデータを蓄積できるが、大八木監督はアナログなやり方ながら過去の練習日誌などを丁寧に保管。継ぎ足しながら作られる“秘伝のタレ”のように長年蓄積してきたデータを指導の“スパイス”にしてきた。
筆者が驚いたのは、夏合宿で使用している長野・野尻湖のデータだ。大八木監督が現役時代から使用しているコースでもあり、ある特定区間のラップタイムをすごく気にしていた。大八木監督のなかでは参考にすべき数字があったのだろう。
「藤田が福岡国際マラソンを2時間6分51秒で走ったときのデータもありますし、もちろん箱根駅伝のものもある。どこのコースでどれだけのタイムで何人やったとか。過去のデータを参考にしながらチームの状態を確認しています」

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/acilo
また大八木監督は設定タイムについても非常に厳しい。トラックのスピード練習では400mトラック1周で「0.5秒」遅くても注意する。反対に「1秒」速くても許さない。
ペースをキッチリ守るということはトレーニング成果にもかかわってくるだけでなく、単独走となる駅伝では非常に重要なスキルとなる。4連覇時代、駒大のミスが非常に少なかったのは、練習時の細かいタイム設定があったからだ。
しかし、駒大は2008年を最後に箱根駅伝の栄光から遠ざかることになる。
指導の仕方を変えて、再び勝てるようになった
大学に入学してくる選手たちの“質”は徐々に変わってきている。同じ指導をしても、駒大は勝てなくなった。しかし、大八木監督は柔軟に対応する。時代にマッチした指導をするように切り替えたのだ。昔と今で選手への声かけはずいぶん違うという。

13年ぶり7度目の総合優勝を果たし、記者会見する駒大の大八木弘明監督=2021年1月3日、東京都千代田区[代表撮影](写真=時事通信フォト)
「コーチ就任当初は今のようなやさしいことは言ってないですよ。『バカたれ、このやろー』『やめちまえ~』とか始まっていたよね(笑)。でも、今は叱り方が全然違います。20年前と時代が違いますし、選手の性格・気質も変わってきました。昔は指導者からの一方通行でも選手に伝わっていた部分があるんですけど、今では通用しません。昔は選手たちがいい意味で反発してきて、『なにくそ』という気持ちがありました。最近は反発力がない選手が多いですよね。強く言うと、シュンとなってしまいます」
また体育会系特有の組織づくりを見直したことで、1年生が活躍できるようになったという。
「会社のように3カ月間は『研修期間』だと思っていたので、1年生は4~6月は丸刈りにさせていたんです。当初はいい感じできていたんですけど、途中から『丸刈りなんてやっていられない』『丸刈りにさせられるチームなんて行きたくない』という選手が出てきたんです。7~8年くらい前にやめさせました。そうしたら好選手が入ってくるようになりましたからね(笑)。時代だと思いますけど、チームのルールも少しずつ変えていきました」
寮の掃除は下級生が担当していたが、今は学年に関係なく全員でやっているという。1年生の負担を減らして、走りやすい環境、学校に行かせやすい状況をつくるようになった。そのなかで強くなったのが、絶対的エースである田澤廉(3年)や鈴木芽吹(2年)らだ。
昨季は全日本大学駅伝で6年ぶりの優勝を飾ると、箱根駅伝は13年ぶりの総合優勝。今季も11月の全日本大学駅伝で連覇を果たした。駒大は「令和の常勝軍団」への道を突き進んでいる。
まもなく始まる箱根駅伝。今年もアグレッシブな大八木監督の姿を見ることができるだろう。しかし、「男だろ!」の声は決して連発しているわけではない。「ここぞ」というときに計算して発しているのだ。
大八木監督の意外な一面を知れば、駒大の“強さ”を理解できるのではないだろうか。
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酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)
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(スポーツライター 酒井 政人)
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