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オバマの秘密戦争 ベルモフタール司令官の名は暗殺リストにあったのか

日本人10人を含む人質37人以上が犠牲になったアルジェリア人質事件で犯行声明を出したイスラム武装勢力の指導者モフタール・ベルモフタール司令官をマリ北部で殺害したと、チャド軍のスポークスマンが発表した。

チャド国営テレビが伝えた。マリ北部での軍事作戦でテロリストの拠点を破壊し、多数のテロリストを殺害、この中にベルモフタール司令官も含まれていたという。

マリではイスラム過激派の反政府武装勢力に対して、旧宗主国フランスがマリ、チャドとともに軍事作戦を展開している。しかし、フランスや米国などの情報機関は、ベルモフタール司令官の殺害をまだ確認していない。

アルカイダ分派組織の戦略文書

ベルモフタール司令官は昨年10月、国際テロ組織アルカイダのフランチャイズ組織「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」から飛び出し、「血盟団」を新たに結成した。AQIM内部での主導権争いが原因とみられているが、理由は定かではない。

AQIMは身代金目的誘拐や高級タバコ、麻薬の密輸を資金源にしており、米国支配の転覆というアルカイダのイデオロギーと犯罪による資金稼ぎを両天秤にかけてきた。

アルジェリア人質事件の発生直後、欧米の専門家からは「身代金目的のベルモフタール司令官は人質を殺さない」という見方が出たほどだ。

しかし、実際は、ベルモフタール司令官が指揮したとみられるテロリスト集団はフランスのマリ軍事介入を阻止するため人質を殺害し、天然ガスプラント爆破まで計画していた。

英キングス・カレッジ・ロンドン校の過激化・政治暴力研究国際センターによると、フランス軍が奪還したマリ北部の世界遺産都市トンブクトゥにAQIM指導者、アブー・ムスアブ・アブドゥルワドゥード司令官が作成した戦略文書が残されていた。

それを見ると、人質殺害、天然ガスプラント爆破まで指揮したベルモフタール司令官とアブドゥルワドゥード司令官の路線対立がくっきり浮かび上がる。

アブドゥルワドゥード司令官は戦略文書の中で、イラクでアルカイダ組織が勢力を失ったのと同様に、AQIMは中東民主化運動「アラブの春」で生じた政治混乱の好機を失いつつあると分析している。

要点を列挙すると。

・イスラム霊廟(れいびょう)の破壊、姦通した女性の死刑、窃盗犯の手足切断など、シャリア(イスラム法)の厳格な適用を急速に進めたため、住民の反感を買った。

・戦闘地域を拡大し過ぎて、自分たちの隠れ家を失う結果を招いた。近隣諸国の挑発は避けるべきだ。

・マリ北部の分離独立を求める世俗派の反政府勢力「アザワド解放民族運動(MNLA)」や土着のイスラム過激派「アンサル・ディーン」と仲間割れを起こした。

・テロの先頭に立つべきではない。アンサル・ディーンに主導権を譲ってでも、AQIMの勢力拡大に努めるべきだった。

勢力の温存と拡大を優先するアブドゥルワドゥード司令官の穏健路線に対して、AQIMを飛び出したベルモフタール司令官は過激なテロ活動で本家アルカイダのお墨付きを得て、北アフリカの犯罪利権を手中に収めようとしたとみることができる。

殺害のニュースが本当なら、「捕獲不能の男」と呼ばれたベルモフタール司令官は遊牧民の中に姿を隠すことができなくなったのかもしれない。

オバマ大統領の秘密戦争

米国はアルジェリア人質事件を受け、中央情報局(CIA)などを投入して、ベルモフタール司令官の捜索を強化していた。

問題は、ベルモフタール司令官が米国の「捕獲・殺害リスト」に加えられていたかどうかだ。

オバマ米大統領が承認すれば、すでにアフガニスタン、パキスタン、イエメン、ソマリアで行っている軍用無人機(ドローン)によるミサイル攻撃での「暗殺」が可能になる。ベルモフタール司令官がリスト入りしていれば、ドローンの戦線は北アフリカに拡大することになる。

オバマ大統領はイラクに続いて、2014年以降にアフガンからの米軍完全撤退を計画している。しかし、その裏返しで、ドローンを使った秘密戦争の規模はオバマ大統領の1期目だけで、ブッシュ前大統領時代の6倍に激増している。

1990年代末、ドローンがアフガンでアルカイダの行動を追跡したのが始まりだった。2001年の米中枢同時テロ以降、ブッシュ大統領はドローンにミサイルを搭載してアルカイダ指導者を殺害するよう命じた。

ドローンのお値段は1機当たり約1050万ドルで、有人の最新鋭ステルス戦闘機F22(約1億5000万ドル)の14分の1。しかも、ドローンは現場上空で旋回して狙いを定めることができるので正確な攻撃が可能になる。

操縦は遠く離れた米国内で行われる。

実際、ドローンのミサイル攻撃は、パキスタン・タリバン指導者、米欧のイスラム教徒に過激思想をまき散らしたイエメンのアンワル・アル=アウラキ師らを次々と殺害。アフガンやパキスタン辺境部族地域のアルカイダは勢力を急速に失った。

ドローンの呪い

しかし、ドローン秘密戦争は深刻な問題点を抱えている。

米ラ・サール大学のマイケル・ボイル助教授はシンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の外交雑誌「インターナショナル・アフェアーズ」最新号で、ドローンの代償について詳細に分析している。

オバマ大統領は1期目の就位式2日後にドローンを使ったテロリスト暗殺を承認、「見える戦争」から「見えない戦争」への方針転換を鮮明にした。

米シンクタンク、ニューアメリカン・ファンデーションの独自調査によると、パキスタンで2004年6月~2012年10月にかけ、ドローンによるミサイル攻撃は334件にのぼった。死者は1886~3191人。1件当たりの死者は5・6~9・5人とカウントする。

オバマ大統領になった2009年1月以降は288件で全体の86%を占める。

調査報道を手がける英国のNPO「ビューロー・オブ・インベスティゲイティブ・ジャーナリズム」の調べでは、同じ期間にあったドローン攻撃は346件で、死者は2570~3337人。1件当りの死者は7・4~9・6人。

イエメンでは2002年~2012年9月にかけ、40~50件の攻撃が行われ、死者は357~1026人。ソマリアでは3~9件の攻撃で、58~170人の死者が出たとみられている。

一般市民の巻き添え死者数は公表されていないが、ニューアメリカン・ファンデーションによると、パキスタンでの巻き添え死の割合は15%。2004~07年は50%以上だったが、11年には1%まで減っていた。

ビューロー・オブ・インベスティゲイティブ・ジャーナリズムの調べでは、一般市民の巻き添え死はパキスタンで18~26%。イエメンで16%前後。ソマリアで7~33・5%。パキスタンでは2004年以降、176人の子供が死亡したという。

アルカイダの手法をまねて、米国のドローンは第一撃で負傷した人たちを助けようと集まってきた人たちに第二撃を加えている。

こうした批判に対して、一般市民の巻き添えは極めて限られており、アルカイダやテロリストの幹部をピンポイントで殺害していると米国はドローン攻撃を正当化している。

しかし、幹部の殺害率は死者全体のわずか2%にすぎないという指摘もある。米国は戦闘年齢に達した死者をすべて武装勢力とカウントしているため、巻き添え死を過小評価しているとも批判されている。

米世論調査大手ピュー・リサーチ・センターが2012年6月に行った世論調査では、パキスタン人の74%が「米国を敵とみなす」と回答。パキスタン政府の支援を受けていたとしても、ドローン攻撃を支持できると答えたのは17%に過ぎなかった。

ドローン攻撃はイスラム武装勢力の幹部を殺害する代償として、米国への敵意を膨張させていた。

しかし、近く離任するレオン・パネッタ米国防長官がCIA長官時代に述べたように、「ドローンは米国が戦える唯一のゲーム」なのだ。

先制攻撃の範疇か

国連憲章51条に定められた「自衛権」に照らして、ドローン攻撃の正当性は「先制攻撃(anticipatory or pre-emptive military action)」と位置づけられている。イスラム武装勢力は米国にテロ攻撃を仕掛ける恐れがあるから、予め叩いておくという論理だ。しかし、米議会、裁判所のチェックも受けておらず、唯一、オバマ大統領の承認だけが暗殺を正当化する法的根拠なのだ。

アフガンなどでのドローン攻撃は米軍が管理しており、軍所属の弁護士が戦時国際法に違反していないか助言している。しかし、パキスタンでのドローン攻撃はCIAが取り仕切り、管理プロセスもはっきりしない。巻き添えになっても補償が受けられない懸念が大きく残っている。

オバマ大統領は2期目を迎え、テロ対策の「プレイ・ブック」を策定しているが、ドローン攻撃についてはCIAの意向を汲んで1~2年の間、現状維持、すなわちグレーゾーンに据え置くことにした。

中国は領有権を主張している沖縄・尖閣諸島に無人機を展開させる方針なのに対し、日本政府も米国のドローンを導入する方向で調整するなど、「日中ドローン戦争」の様相を呈している。

今後、世界各国がドローンの開発と配備を進めるのは必至だ。米国がルールを明確にしないままドローン攻撃の既成事実化を進めた場合、世界は掟なき「ドローン戦争」のジャングルに突入する危険性がある。

(おわり)

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