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「どう生きるのか」という本当の問いに向き合うとき

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まもなくマル激・原発篇が上梓されます。
河野太郎氏・片田敏孝氏・立石雅昭氏の登場回の加筆修正です。

例によって後書きをご紹介します。
ぜひ本書を購入して各氏の濃密な議論をご覧ください。

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「どう生きるのか」という本当の問いに向き合うとき 宮台真司

キーワードは依存



 僕は仙台に生まれた。父親が転勤族だったので子どものころしかいなかった。だが今でも憶えている土地はたくさんある。知り合いも多い。だから今回の地震の震源地が三陸沖だと知って他人事ではいられなかった。家族、友人、知人、いろんな人と連絡を取り合った。
 
 弟が福島第一原発から35キロ離れた福島県いわき市に住んでいた。震災後なかなか連絡が取れずに気を揉んだ。ツイッターで原発事故情報を流しはじめたのも弟が見て連絡をくれるかもしれないと思ったことが理由のひとつだ。5日後にやっと連絡が取れた弟は幸い無事だった。
 
 震災と原発事故で日本人の自明性に亀裂が生じる可能性を直感した。日本には平時を前提にした行政官僚制しか社会を動かすものがない。民衆も政治家も行政官僚制を掣肘できない。そのことを意識しないまま民衆も政治家も行政官僚制に依存する。キーワードは依存だ。
 
 行政官僚は既存のプラットフォーム上で最適化の席次争いをするのが責務。そして本来の政治家は社会環境の変化で既存のプラットフォームが不適切になればそれを刷新するのが責務。行政官僚はプラットフォームが適切であれ何であれ、政治家による刷新に抵抗しようとする。
 
 ご存じの通り冷戦体制終焉後の急速なグローバル化=資本移動の自由化で、経済分野ではどのみち新興国に追いつかれる産業領域では平均利潤率均等化の法則で労働分配率の低下が起こるから、新興国との競争に耐えて経済指標を好転させることに成功すれば勤労者が貧しくなる。
 
 政治分野ではかつてあり得たような再配分政策は機能しなくなる。再配分の原資を調達すべく所得税率や法人税率を上げれば工場や本社が国外に移転する。もちろん税収が減って財政がいっそう逼迫し、生活の安定や将来に不安を抱く人々は貯蓄に勤しんで消費をしなくなる。
 
 かくしてデフレが深刻化すると購買力平価の均衡則によって為替レートが円高となり、企業は輸出競争力を低下させ、それに抗おうとすれば国外に工場や本社を移転するしかなくなる。かくして税収が減って財政がいっそう逼迫し、不安になった人々はますます消費を控える。
 
 こうした循環状況は、経済システムや政治システムがかつて前提とした環境がもはや存在しないという意味で「平時」ならざる「非常時」に近い。従ってプラットフォームが変わらねばならない。つまり、産業構造改革や、租税制度改革や、行政官僚制改革が、必須になるのだ。
 
 「平時」にしか働かないシステムに依存したヘタレな国が稀代の震災と原発事故に対応できるはずがなかろう。震災と原発事故で日本人の自明性に亀裂が生じと思ったというのはそういう意味だ。日本社会がそれなりのものだといった信頼が木端微塵になるということである。
 
 「平時」にしか働かないシステムへの依存。あるいは「平時」への依存。こうした依存がいかにもろい前提に支えられているかを震災と原発事故が暴露した。多くの人は津波が何もかも押し流す映像に現実感覚が湧かなかったと言う。「平時」に依存した思考停止のなせる業だ。
 
 震災と原発事故を契機に思考停止が若い世代に継承されなくなってほしい。可能性は辛うじてあろう。僕のゼミにもやむにやまれずボランティアに出かけ、遺体の数々が木枝に串刺しになっているのを見た学生らがいた。彼らが新たな前提の上で社会を再建することを切に望む。

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