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  • 2021年12月09日 15:44 (配信日時 12月09日 11:00)

日本の味噌が〝悪い食品〟? 欧州ルールに飲まれる日 - 松永和紀 (科学ジャーナリスト)

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前回「「食塩過多」に「ダイエット」…… 日本が抱える深刻な栄養課題」で、厚生労働省の設置した「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」にて、事業者の取り組みを中心とした異例の報告書がまとめられたことを紹介しました。食品をどのように選び食べてゆくかは本来、個人の裁量です。国内の農林水産物生産者や食品企業は、消費者の嗜好に合う製品を販売し売上を伸ばしてゆくことに腐心してきました。

しかし、世界の潮流は大きく変化したようです。消費者迎合型ではなく、企業が率先して栄養改善と健康構築に製品やサービス面から取り組み、その動きが消費者を変える時代が来ています。


(jdwfoto/gettyimages)

日本企業は残念ながら、対応が遅れています。さらには、欧米型の取り組みが世界で幅を利かせ、日本企業が正当に評価されず海外市場を失いかねない懸念も生じています。2回目は、世界の今と日本の隘路(あいろ)を解説します。

肥満飽食と飢餓、栄養の二重負荷に直面する世界

2015年の国連サミットで持続可能な開発目標(SDGs)が採択され、17の目標と169のターゲットが制定されました。目標2「飢餓をゼロに」、目標3「すべての人に健康と福祉を」など栄養改善の取り組みは、極めて重視されています。19年には国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が「持続可能で健康的な食事の実現に向けた指針」を公表しました。

世界で今、大きな問題となっているのは「栄養の二重負荷」です。過栄養・飽食による肥満と、低栄養・飢餓の両方が世界で深刻化し、個人や世帯、集団内でも同時に問題として存在しています。

経済協力開発機構(OECD)「 Health Statistics」によれば、主な国の15歳以上の世代の肥満率(BMI=30以上)は米国で40%、豪州27.9%、英国26.2%、フランス17%、スウェーデン13%、日本4.2%です。日本はもっとも低い国に位置付けられています。

一方、FAOによれば、低栄養 (undernourishment)の割合は、欧米、日本など先進国はおおむね3%。ソマリア60%、ハイチ47%、イエメン45%、イラク38%、モザンビーク31%、インド15%、フィリピン9%などとなっています。

そして、同じ国で肥満や低栄養による貧血、発育阻害などが重なって生じています。肥満は所得の高い国だけの問題ではありません。所得の低い国では、栄養に偏りがありエネルギー量の高い加工食品などを多く摂取し、価格が高めの生鮮食品などを含むバラエティに富んだ食生活を送れないことが肥満者の増大につながっている、とみられています。


世界では、過体重と貧血、発育阻害が重なって問題となっている国も多い(出所)Global Nutrition Report2018

地球上の78億人の食料生産と消費による天然資源枯渇や環境負荷、そして気候変動対策(食料生産消費が気候変動から受ける被害と、食料生産消費自体が気候変動を悪化させる両面での対応)なども考慮する必要があります。多方面から食の課題が社会にのしかかってきているのです。

食品企業の栄養軽視は、社会的なコストとなる

そこで重視されるようになっているのがESG(環境、社会、企業統治)投資です。従来の売上などの財務情報だけでなく、ESG要素を考慮し、企業経営のサステナビリティを評価し投資を行う潮流です。ESG投資に詳しいコンサルティング会社「ニューラル」の夫馬賢治さんは、「世界的には2002年ごろからESG投資を図る機関投資家が増えてきたが、日本で大きく動き出したのは2018年から」と言います。

栄養や環境への貢献というと、多くの人がイメージするのはCSR(企業の社会的責任)でしょう。食品企業の中にも、CSR活動として途上国における栄養改善援助や国内でのフードバンクサポートなどを行なっているところは多数あります。しかし、ESG投資は寄付や援助ではありません。課題解決に貢献しつつ投資のリターンを追求するのがESG投資です。

夫馬さんは、食品企業の栄養軽視は、図のように社会的なコストとなる、と指摘します。


企業が栄養を軽視すると消費者の健康が悪化し、生産性低下、医療費負担、保険料増大など社会が大きなコストを支払うことになる (出所)「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」夫馬賢治氏発表資料 写真を拡大

機関投資家はESGに関する評価において水ストレスや生物多様性、製品のカーボンフットプリント、製品の安全性・品質、労働安全衛生、企業統治などの各項目を企業の特性に応じて重みづけします。食品業界では、栄養・健康への貢献が、高いウエイトを占めています。

製品表示に力を入れる世界の食品企業

では、海外の食品企業は具体的にどのような方法で、栄養改善を重視した製品やサービスを提供しているのか?

多くの企業が塩分や糖分、飽和脂肪酸などを減らしてゆくため、年次を区切って目標値を設定しています。世界最大の食品メーカー、ネスレは20年までに製品の塩分含有量を10%削減する、と目標を定めほぼ達成しました。

ネスレ日本の製品を見ても、栄養成分表示に非常に積極的であることがわかります。日本では、栄養成分表示が義務化されたのは20年4月からで、対象も熱量とたんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量の5項目のみ。しかし、ネスレは以前から表示に取り組み、しかも、現在は脂質の中の飽和脂肪酸や炭水化物の内訳(糖質、糖類、食物繊維)なども詳しく表示しています。一食分の栄養を知らせる「ポーションガイダンス」にも力を入れています。

食べ過ぎに対して注意喚起しているのも大きな特徴。菓子のパッケージでも、「お菓子などの嗜好品は1日200キロカロリーまでが目安とされています」とし「1日2枚まで」と消費を抑制する文言が入っています。「どんどん食べて! 購入して!」ではないのです。


ネスレ日本の製品表示。「お菓子って1日どれくらいまでがいいの?」という問いに対して、「バランスの良い食生活の中で1日2枚までがおすすめです」と答えている(筆者撮影) 写真を拡大

英日用品・食品大手のユニリーバも、同様に目標値を設定して製品の栄養改善に努めており、減塩についてはWHOの推奨量(1日5㌘まで)を満たす製品が20年には全製品の77%に達しました。

食品をクラス分けしてパッケージの前面に表示し、よい食品をわかりやすくする「Nutrient Profiling system(NPS)」を取り入れる企業や国も増えています。食品に含まれるたんぱく質や炭水化物量、熱量などの数値を示す栄養成分表示は、栄養学についてある程度の知識がないと意味がわかりにくいものです。

専門的な知識のない消費者もよい食品を区別できるように、AからEまでのクラス分けや星の数、赤黄青の信号マークなどを食品につけます。ネスレも、フランスで開発されたNutri-ScoreというAからEまでクラス分けする方式を採用し、一部の製品に表示する予定です。

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