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「監査における不正リスク対応基準」の4つの視点

当ブログにお越しの皆様は既にご承知かと思いますが、第33回企業会計審議会監査部会の会議概要が3月1日に金融庁HP上で公開されております。そこに会議資料として、監査における不正リスク対応基準(現時点での案)の内容とともに、公開草案に対するコメント及びコメントに対する金融庁の考え方が掲載されております。

この「コメント&金融庁の考え方」は相当に詳細なものであり、私もまだすべては読めていないのでありますが、たいへん興味深く、また勉強になります(金商法193条の3と不正リスク対応基準との関係等、初めて理解した部分もあります)。こうやって有識者の方々の意見や当局の考え方を精査してみますと、この不正リスク対応基準については4つの視点があることが理解できます。

一つ目は、なんといいましても財務諸表監査担当者(公認会計士・監査法人)の行為規範としての視点であります。監査基準の運用を支える第一人者である監査人の方々が、このたびの不正リスク対応基準に関心を抱くのは当然のことでありますので、不正リスクの評価・識別、不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況の判断、不正による重要な虚偽の表示の疑義の判定等への質問が多数出てくることはよく理解しうるところです。

二つ目は、不正リスクの識別や虚偽表示を示唆する状況に直接的な関係を有する監査役や内部通報者たる従業員、意見に関心をもつ投資家の視点であります。私などは通報窓口を担当したり、内部告発人を支援する仕事などをしておりますので、どのような行動を従業員がとれば、監査人はどのような対応を行うべきなのか、そのあたりを理解するためには、この不正リスク対応基準の理解は必須であります。

三つ目は、この不正リスク対応基準は裁判規範となりうるか、といった弁護士・裁判官等からの視点であります。私は監査役の監査見逃し責任追及訴訟の代理人を務めた経験から、このような監査基準が裁判規範になることには(やや)消極的な意見を持っておりますが、おそらく今後、会計監査人の法的責任を追及する訴訟の原告側からは、この不正リスク対応基準を根拠として主張が組み立てられることが予想されます。

そして四つ目が、不正リスク対応基準を策定した当局の視点であります。公開草案へのコメントを読んでおりますと、不正リスク対応基準の手続き面に関するご意見が圧倒的に多いように思いますが、前から申し上げておりますように、この基準は公認会計士に、これまで以上に「市場の番人」たる役割を果たしてもらいたいとの思想が強く出ております(そのあたりへの関心が会計士の方々にはやや薄いような気がします)。不正リスクの評価→識別の時点で、ガバナンスや内部統制、当該企業独特の事業リスクへの関心を抱いてもらうには「職業的懐疑心」を前面に出していただくしか方法はないのであります。

1,2,4の視点は不正の未然防止・早期発見といった事前規制社会でのお話、そして3の視点は事後規制社会でのお話、ということで、私は監査法人の品質管理の問題も含めて、今回の不正リスク対応基準は上場会社の8割から9割を占める「そこそこ誠実な企業」向けに策定されたものだと理解をしております(不正の確信犯たる一部企業にとっては、どんなに対応基準を設定してみても、不正防止の実効性はないと思っています)。先日どなたかが「粉飾と良い決算は紙一重」とおっしゃっておられましたが、誠実な企業が(全社をあげて)この「紙一重」のところで踏みとどまることができるかどうか、こういったところが不正リスク対応基準に期待された役割ではないかと。

また中身については、追っていろいろとコメントをしていきたいと思います。

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