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  • WEDGE Infinity
  • 2021年12月08日 10:27 (配信日時 12月08日 08:00)

米国の北京五輪外交ボイコットで振り出しに戻った米中

12月6日、米国は、2022年に北京で開催される冬季五輪および冬季パラリンピックに米政府から誰も出席しない、いわゆる「外交的ボイコット」を発表した。この米政府の発表に対し中国は早速、激しく反発。7日の定例記者会見の席上で、外務省の趙立堅報道官は「米国は代償を支払うことになる」などと述べた。11月15日にバーチャルとはいえ、初の米中首脳会談が行われてから1カ月も経たないうちに、米政府がこのような措置に踏み切ったことで、米中の緊張関係が当面続くことはほぼ確実になった。


北京五輪・パラの外交ボイコットを発表したジェン・サキ米大統領報道官(picture alliance/アフロ)

政権発足当初から〝異例の〟中国対応

そもそも、バイデン政権は、今年1月の政権発足当初から、外交政策の優先課題の一つに「中国との戦略的競争」を掲げ、これを裏打ちする対応を次々と取ってきた。

例えば、新政権発足後、米国務長官・国防長官とも、日本・韓国といった東アジアの同盟国を訪問する際に中国も訪問し、カウンターパートとの初会談に臨むことが多い。しかし、バイデン政権は、政権発足直後にアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官が揃って日本と韓国を訪問して外務・防衛閣僚会議(2プラス2)を行った後、両長官のどちらも中国まで足をのばさなかった。

オースティン国防長官はその後インドを訪問、ブリンケン国務長官に至ってはそのまま帰国したのである。帰国するブリンケン長官を追いかけるように、中国から楊潔篪国務委員と王毅外相が米国に向かい、ブリンケン長官にジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官が合流する形で、アラスカにてバイデン政権としては初の米中ハイレベル会談が行われるという、前例のない初顔合わせとなった。

また国防総省では、幹部人事に先駆けてロイド・オースティン国防長官が中国専門家のイーライ・ラトナー氏を中国問題担当長官補佐官に任命(同氏はその後、インド太平洋担当国防次官補に指名され、7月25日に次官補に正式に就任している)し、対中政策の包括的見直しを進めた。

5G技術、レア・アース金属、AI、半導体、超音速技術、合成生物学、医薬品などの分野におけるサプライチェーンを、いかにパンデミックなどで人や物の流通に障害が生じた場合にも耐えうるものにできるかに関しても問題意識を高めている。レア・アース金属については国防総省が中国以外の国に拠点を置くレア・アース金属発掘・精製拠点を形成するために大規模な投資をすることを発表。ホワイトハウスも今年2月にサプライチェーンの強靭化に関するタスクフォールを形成した。

6月8日に発表されたタスクフォースの最終報告書の中でも中国が何度も名指しで言及され、この問題についても、中国を意識していることは明らかであった。

台湾についても強い警鐘

さらに、11月3日に国防総省が発表した「人民解放軍の能力に関する年次報告書」の中では、「中国は米国の世界における影響力と力に並ぶ、もしくは追い越すことを目指し、インド太平洋地域においては米国の同盟関係および安保パートナーシップに代わって自国に有利な国際秩序を形成しようとしている」と明確に述べた。

また、同報告書の中では、中国が宇宙やサイバーなどのドメインを含むクロス・ドメインで長距離攻撃を展開する能力を向上させていることや、核戦力を大幅に拡大していること、台湾に対して攻撃を行うために必要な能力を急速に強化していることなどが述べられた点も注目された。

特に台湾については、すでに今年3月に、退役直前のフィリップ・デービッドソン米インド太平洋軍司令官(当時)が、上院軍事委員会で行われた公聴会の席上、「中国は6年以内に台湾を武力で併合するために動く可能性がある」と警鐘を鳴らしており、報告書が司令官の警告を追認するような形となっている。

このように、中国に対する警戒感をあらわにしているバイデン政権だが、それでも、政権が最重要課題の一つに位置付ける気候変動問題では中国と〝没交渉〟のままでは何も成果が上げられないのが現実である。実際、ジョン・ケリー気候変動担当大統領特使は、上院外交委員会で20年近く一緒に活動した「元同僚」のバイデン大統領に、中国と対話するべきだと大統領に進言していると言われている。中国に対する強硬路線を支持するサリバン補佐官、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官などとの間で意見が対立しているとも報じられた。

「率直な」「真正面から」 米中首脳会談の意味

このような状況の中、バイデン大統領は11月15日、前述の習近平国家主席とのバーチャル米中首脳会談に臨んだ。首脳会談そのものは、両首脳が緊張をエスカレートさせることはお互いの利益にならないことを確認し、対話を続けることで合意したことが最大の成果と言っても過言ではないほど、具体的な成果は何一つなかった。

事後にホワイトハウスがリリースした声明の中では、首脳会談においてバイデン大統領が「率直に(candidly)、真正面から(straightforward)」習主席と議論し、「具体的な(concrete)中身のある(substantive)」議論することが重要である旨を強調したとある。首脳会談のような場で「率直な」「真正面から」の議論をしたという場合、通常、首脳間のやり取りが時にはかなりの緊張感を伴うものであったことを意味する。むしろ、人権問題や「自由で開かれたインド太平洋」の重要性を強調し、台湾海峡の平和と安定をアメリカが重要視していることも明確に伝えるなど、「言わなきゃいけないことは全部言った」といった類の首脳会談だったことは想像に難くない。

それでも、首脳レベルでの対話が再開されたことは、没交渉のままどんどん緊張がエスカレートするよりはまだましだと思われたのだが、ここに来て、北京冬季五輪・パラリンピックの「外交的ボイコット」である。

注視される日本はじめ同盟国の対応

これでおそらく、米中関係は振り出しに戻るどころか、ますます緊張状態が続くことになるだろう。何しろ、外交ボイコットの理由が、内政干渉を嫌がる中国が最も敏感な問題の一つである「人権」、しかも新彊ウイグル自治区における人権弾圧である。おそらく、今回の政権の判断には、12月2日に女子テニス協会が(WTA)が、中国の元ダブルス世界チャンピオンの彭帥選手が行方不明になっていること、また同選手の安否について中国政府が透明性のある調査を行っていないことを理由に、「選手の安全に懸念がある」として、香港を含め、中国での大会開催を当面中止するという発表をしたことも、大きく影響していると思われる。

選手団の参加を認めない完全ボイコットほど強硬でないとはいえ、米国がこのような措置に踏み切った今、日本、韓国、豪州、英国など米国の同盟国・パートナー国も、北京冬季五輪に関する「踏み絵」を踏まされることは避けられないだろう。岸田文雄首相のもと、「人権担当総理大臣補佐官」や「経済安全保障大臣」といったポストを新設した日本がどのような対応をするかが注目される。

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