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「お母さんはもう無理です」逃げ出そうとした私に息子が書いた文字


 当時やってしまった数々の行ないのなかでも、とくに後悔していることがある。離婚した元夫、つまり次男にとっての父親に助けを求めてしまったことだ。次男が不登校になったので、なんとか力を貸してほしい、と。

 しかし、次男が小学校3年生のころからすでに家庭内別居状態で、小学6年生のときにやっと離婚が成立した。その後は一度も会っていない。次男にとって父親はほとんど会話もしたことのない、よく知らない人。そんな人と次男を会わせてどうするつもりだったのか。白状しよう。私は次男を誰かほかの人に渡してしまいたいと思うようになっていた。目の前から次男がいなくなれば、もうこんなに考えなくていい。もう苦しまなくていい。次男を放り出して逃げ出したい。それだけだった。

 私の要請にこたえて約4年ぶりにやってきた父親は、「学校へ行かなかったら、たいへんなことになる」と次男を脅すばかり。声はどんどん大きくなっていき、次男は布団をかぶって小さくなっていた。そのころ、すこしでも次男とコミュニケーションを取ろうと思った私は、ノートに思いを書いて、毎朝次男の部屋の前に置く、ということをやっていた。次男は読んでいたのかどうか。帰宅するとテーブルの上にノートは置かれ、ときどきページの下のほうに小さく「○」が書かれていた。

 ある朝、ノートにこう書いた。「学校へ行かないなら、お父さんのところへ行ってください。お母さんはもう無理です」。次男はどう反応するだろう。その時点でひどいことを書いてしまったという後悔はひとつもなかった。帰宅後、いつもと同じ場所にノートは置かれていた。そっとノートを開く。次男の字が見えた。小さく弱弱しい、かすんで消えそうな字でそれは書かれていた。

 「ゆるしてください。ここにいさせてください。あしたは学校にいきますから」。

 それを目にしたときの思いを正確に表現する言葉を、私は持っていない。次男に本当にひどいことをしてしまったという思いが急に湧いてくる。ゆるしてもらわなければならないのは私のほうだ。それでもいっしょにいたいと言ってくれるのか。力が入らない手で、やっとの思いで書いたであろう言葉に込められた次男の思いが痛いくらいに伝わってきた。同時に、「もう逃げられないんだぞ」と言われた気がして恐ろしくもあった。ノートはそこで終わっている。これ以上、次男を苦しめてはならない。それぐらいは私にもわかったから。(後藤誠子)

■筆者略歴/後藤誠子(ごとう・せいこ)
次男が高校1年生の夏に不登校。現在もひきこもり生活を続けている。後藤さんはその経験を通して学んだことを共有したいと岩手県で当事者を地域で支える「笑いのたねプロジェクト」を立ち上げ活動中。

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