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東大助手になるまでマーケッターをしていました。その縁で今でもときどき…

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新興国とは異なる土俵へ 目指すはプレミアム
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マスマーケティングから
クラスターマーケティングへ

 30年ほど前から日本でもクラスターマーケティングが一般的になりました。1960年代の高度経済成長期の「人並み化消費」つまり「隣の家が持ってるからウチもテレビを」という消費が終焉を迎えたのが背景です。

 自動車ですと、1908年にT型フォードが出てベストセラーになりますが、機能的で堅牢なこの名車、ユーザーがなかなか買い換えません。やがて市場が飽和して新規需要が頭打ちになり、市場が縮小しました。

 これに対処したのが1950年代からのゼネラルモータースのビジネスモデルです。モデルチェンジで、機能的にはまだ使える車を新しいデザインの車に買い替えてもらう。ここから大量消費&大量廃棄が始まります。

 「メッキのジェット噴射口がついた」「尾翼のようなテールがついた」と買わせます。ここでは、自分がいいと思うよりも、むしろ他者の羨望を当て込みます。「差異表示的消費」ないし「記号的消費」の始まりです。

 日本でこれが一般化したのは1973年の石油危機以降。大規模な新機能の研究開発が難しくなった分、冷蔵庫に蝶がプリントされたり、テレビが木目になったり、見掛けの変化で誘引するわけです。

 豊かな社会では、「機能から記号へ」「使用から見せびらかしへ」は、各島宇宙内部での差異の追求になるしかない。違いを見せつけるにせよ、違いの分かる人が特定島宇宙にしかいない。かくしてマスマーケティングからクラスターマーケティングに移行します。

差異表示的消費から
体感的消費へ

 ところが時代はその次に移行します。差異から体感へという動きです。BMWの前代デザイン統括責任者のクリス・バングルによれば、車のデザイン史は3区分できます。最初は船舶(フォード)。次は飛行体(GM)。次は冷蔵庫(日本車)。

 冷蔵庫としての車に今後新興国が参入してくる以上、先進国の車メーカーが生き残れるか否かは、プレミアムカーとして評価されるか次第です。そこでBMWが狙うデザインは動物(鳥や魚)なのだと言います。

 プレミアムカーつまり「特別な車」の理解はいろいろあります。ベンツや、ベンツを目指した日本の高級車は「他人にいばれる車」という理解です。BMWは、ベンツとの差別化の必要ゆえ古くからFun to Drive、つまり運転者の「体感」に照準しました。だから―とバングルは言います―動物モチーフのデザインは身体性拡張の隠喩なのです。

 BMWのプレミアム観念が時代の追い風を受けます。冷戦が終り、グローバル化=資本移動自由化を背景に、簡単に超えられない格差が拡がると、記号的消費は廃れます。「いばる消費」は所詮ミドルクラスのつばぜり合い。ハイクラスにとって「いばる」のは浅ましい。ハイクラスは体感に意識を集中する。

 1993年に出版した『サブカルチャー神話解体』に詳述しましたが、90年頃から「差異から体感へ」「他者準拠から自己準拠へ」と消費動機が変わります。消費に限らずコミュニケーション一般において記号勝負から実質勝負(体感勝負)になります。当時取材していた援交少女らも、「いばれる車」で自慢する男に「ベンツはいいけど、あんたはどうよ」と言い返すようになりました。

 他方、ネット情報があふれ返る中、特定の島宇宙に向けられた広告だけが意味を持ちようになります。加えて、摩擦係数が低いネットコミュニケーションの拡がりのもあって、各島宇宙が小さくなります。マス相手に打つ広告は意味を失うしかないのです。

 家電製品のごとき新興国メーカーが覇を競う市場では、安くて機能する製品を、ネットで比較して購入する「価格ドットコム化」が進みます。ネット上での比較購入が進むほど、マス広告は意味を失います。どんなに広告しても価格と機能の組合せ(コストパフォーマンス)に優れなければ売れなくなります。

 まとめます。プレミアム市場では「差異から体感へ」で「いばり消費」が捨てられた結果、広告で良さげに見えるだけではダメで、優れた体感や使用感を伴わない限り売れなくなります。ノンプレミアム市場では「価格ドットコム化」が進み、コストパフォーマンスに優れていなければ買わなくなりました。

人を幸せにさせるという
ブランドイメージ

 消費で社会的正しさを意識するのも新しい動きです。企業の社会的責任、社会的責任投資の概念が象徴的です。購買は投票行動で、購買を通じて社会貢献的企業を存続させる動きが広がります。企業は社会貢献的であるほど消費者と投資家を集められます。

 趣味や嗜好は多様ですが、正しさはさほど多様ではありません。地球環境問題や貧困問題を主題とするコミュニケーションが拡がるほど、正しさの主題が、島宇宙化に抗う共通前提になります。単なる快楽を超えて「人を幸せにする会社」「不幸に抗う正しい会社」というブランディングが大切になります。

情報を摂取するだけでは
同期づけられない

 最後に口コミ化の重要性を若者文化の変化から再確認します。口コミ化は1990年代初頭から生じます。当時のクラブブームを支えたのはマス広告でなくフライヤーです。同じ頃、ファッション業界ではブームを仕掛けるのが難しくなります。各島宇宙のリーダー層がどんなファッションをしているのかリサーチし、それに合わせて商品開発するしかなくなります。

 サブカルチャーから犯罪に至るまで、「仲間以外はみな風景」とばかりに視線を意識する範囲が縮小します。みなが何をしているかではなく、仲間が何をしているかにだけ関心を寄せるのです。リーダー/フォロワーの差異も島宇宙内部に限られます。ある島宇宙でリーダーであることが別の島宇宙では意味を持たなくなります。島宇宙のリーダーをピンポイントで動機づける以外なくなります。

 こうした動きと平行して、他者に違いを見せつけるのでなく、むしろ島宇宙内での連帯を壊さない(KYにならない)消費が重要になります。近くにいる人の口コミが重要になるのには、そうした背景があります。読者モデルが購買動機を提供したり、109などリアルクローズや東京ガールズコレクションが流れを作る背景に、同じ変化があります。

 こうした近接性の流れに棹さすか。さもなければ島宇宙を横に串刺しにする社会的正しさに棹差すか。さもなければ高収入層相手に体感ベースのプレミアムを提供するか。さもなければ新興国と低価格を競うかです。そのことが分からないで「広告を打っても効果がない」と嘆くのはナンセンスです。

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