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「もうやめました」パチンコ店に突撃した自粛警察が語る現在の心境

外出自粛期間中の東京・渋谷 Getty Images

第5波収束とともに姿を消した「自粛警察」

新型コロナウイルスの流行が日本では——限定的かもしれないが——収まっている。ピーク時には東京だけで連日5000人超となった第5波は専門家にして「想定外」の収束を見せた。同時に消えたものがある。それが「自粛警察」だ。私は『東京ルポルタージュ 疫病とオリンピックの街で』の中で、自粛警察行為にのめり込んでいた若きYouTuberのその後を追った。

彼の存在については、この欄でも書いたことがある。当時は会社員として、今は個人事業主として働きながら、YouTuber活動に勤しむ。彼の生い立ちやいかにして「自粛警察」になったかはぜひ拙著を参考にしてほしい。最初の取材時から私が考えていたのは、感染拡大のタイミングで彼が自粛警察としての活動を再開してもおかしくないという危惧だった。結果から記せば、危惧はすべて杞憂に終わった。一体なぜなのだろうか?

憤りはあるが・・・自粛警察が語る現在の心境

私は、第5波の真っ只中に久しぶりに彼と連絡を取った。彼はあいかわらず許せないものがあると言い、あいかわらず憤っていた。昨今のいじめ事件や、優遇されている(と彼が感じている)身体障害のある人の騒動などについてひとしきり批判的な見解を語ってはいたものの、そんな彼の感情が向かう先から、新型コロナは外れていた。感染状況からすれば、今こそ怒ってよさそうなものだが、彼は新型コロナ対応には冷淡だった。その理由を聞いてみると、彼は平然と、しかし真面目な口調でこう言った。

「パチンコ店を突撃するのは、もうやめました。だって、いくらニュースを見てもパチンコ店でクラスターが出たという話は聞きませんし、データが出てこない以上、突撃しても意味はないからです。パチンコ店で許せなかったのは、『パチンコを打ったっていいじゃないか』と開き直ったような態度をとる客がいたからです。周囲の住民が恐怖を感じていたり、世間が自粛をしていたりする中、そのような態度はどうしても許せなかった。自分勝手な態度で医療従事者や私の古巣の自衛隊にも迷惑をかけるだろう、と思ったのです」

「1年前は私も感染したら死ぬんじゃないかと思っていました。やれ中国の化学兵器じゃないかとか、人類はこのまま滅亡するんだといった都市伝説がインターネットでも広がっていましたよね。自粛をしていれば、感染者は無くなるんだと思っていましたが、ゼロになるわけでもない。それに、飲食店は被害者にしか思えないのです。リスクを減らそうと、きちんと対策をしているお店も多いのに、感染を拡大させていると言われて、売り上げも落ちています。そこに突撃するのは、単なる営業妨害です」

Getty Images

平凡な感染症への恐怖が自粛警察を生んだ

彼自身も1年前との違いを感じていたが、それは彼のYouTubeを閲覧していた視聴者も同じだったという。この時点で、新型コロナ関連動画のアクセス数は、以前よりも伸びなくなっていた。なぜ彼も視聴者も変化したのか。その背景は、こう説明することができる。

「恐怖の感染症」が広がる中で、社会経済活動をすべて止めることが「正義」だったのが1年前だった。多くの人が多少の無理をしてでも対策に協力をする中で、逸脱行動をする人々──例えば、パチンコ店に集う客──が許せなかった。だが、1年後はどうか。彼は「Go To トラベル」が本格化した2020年10月前後には考えが変わっていたと明かす。

「感染者が増えたらロックダウンするなり、外出を制限するなりして一気に減らすような策をとる。感染者が減ったら経済活動を再開する。この繰り返ししかできませんよね」と彼は言った。

その言葉を聞きながら、私は自粛警察がこの社会の産物であるとあらためて思っていた。彼の意見は別段鋭いものでも特異なものでもない。ある意味では極めて平凡であり、多くの人が常識的に考えていることに近い。つまり、彼らは決して「異質な存在」ではないのだ。

恐怖に頼った感染抑止策はもう効かない

明記しておくが、最初期から私は自粛警察に対して一貫して批判的だった。彼の行動を支持していないし、法的なリスクについてもいくつかの記事の中で記してきた。自粛警察活動以外の動画も同じようなリスクを抱えているし、彼が語る言葉には自分の過去の行動を正当化したいという思いがまったくないと言えば噓になるだろう。だが、ここから多くの示唆を得ることができる。

「自粛警察」は新型コロナへの関心を失ってしまったが、それは強すぎた恐怖心の反動だ。強い恐怖心から生まれた彼らは、恐怖との向き合い方が変化する中でいなくなっていった。それは「慣れ」というよりも、人間の心理からみて合理的な帰結と考えたほうがいいように思える。一度目の緊急事態宣言と同じような恐怖に頼るやり方は、もう二度と効かず、皮肉なことに自粛警察が活発な時期のほうが、恐怖に訴えることによる感染抑止の効果はあったという事実だけが残ってしまった。

あらためて自粛警察の存在を2021年に問い直すことには意味がある。メディアを通して発信し続けてきた「恐怖」の行き着いた先に何があったのか。次のパンデミックで同じ問題を繰り返さないために。この事象から学ぶことはまだまだ多い。それが取材を続けてきた私の結論である。

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