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現金給付の正しい届け方――各自治体の工夫で問題点は解消できる - 中里透 / マクロ経済学・財政運営

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18歳以下の子どものいる世帯に対して10万円相当の給付金(クーポン券による給付を含む)を支給する現金給付の案をめぐって、活発な議論が続いている。

政府案の閣議決定に至る過程で自民党内から「大変不公平な状況が起きる」(高市早苗政務調査会長)、「世帯合算が当然」(福田達夫総務会長)との指摘がなされたように、この給付金の現在の案にはさまざまな瑕疵があるが、どのようにすればこれらの問題は解消できるのだろうか。以下ではこのことについて考えてみたい。

なお、今回の給付金の受給者は生計中心者(父または母のうち収入の多いほうが基本)であり、住民票に記載される世帯主とは必ずしも一致しないが、以下では記述の簡素化のため、生計中心者について「世帯主」という表記を用いることとする。

1.「迅速な給付」と「所得制限」の間のトレードオフ

所得制限の妥当性とクーポン券併用の必要性について

今回の現金給付の問題点を簡単にまとめれば、「所得制限のかけ方に合理性がない(世帯合算の収入を基準としないために公平性が損なわれている)」、「クーポン券を併用することで本来なら必要のないコストが生じている(クーポン券の印刷などのコストに見合うだけのメリットがない)」ということになる(今回の現金給付の問題点の詳細については下記の記事をご参照ください。

ここがヘンだよ現金給付―社会政策における「標準世帯」モデルの終焉」)

このうち、前者については共働きで世帯年収が1200万円の世帯は給付を受けることができ、片働きで世帯年収が980万円の世帯は給付を受けることができないという事例を想起すれば、問題点は自ずと理解されよう(共働きで世帯年収が1900万円という設例は極端かもしれないが、世帯年収が1200万円という世帯は相当数ある)。

後者については、使途を限定したクーポン券を活用することで給付がきちんと子どものための支出に充てられることが担保され、よい工夫であるように思われる。

だが、現金で購入する予定だったランドセルの購入に今回のクーポン券を利用して、浮いたお金でハンドバッグを買うことにすれば、5万円相当の給付を子ども向け以外の支出に充てることができるから、現金に代えてクーポン券を給付することに実質的な意味はあまりないということになる。

鈴木俊一財務大臣からは「クーポン券でお支払いすることで確実に子どものために使っていただく。必ず消費をしていただく」との説明もなされているが、クーポン券の利用で浮いた分のお金は貯蓄に回すこともできるから、クーポン券であればその分だけ確実に消費が増えるということもない。

実際、経済企画庁(現内閣府)が1999年に行った地域振興券の利用実態調査によれば、交付された地域振興券の交付額のうち消費支出の増加に寄与した分は3割程度であったことが報告されている。

このように、クーポン券で給付を行うことには実質的な意味がないにもかかわらず、現金とクーポン券の併用という制度設計にしたため、その分だけ給付のための事務は煩雑なものとなる。

たとえば、中学2年生と高校2年生の子どものいる世帯については、まず中学2年生の子どもの給付を受けるために必要な意思確認の書類(各市町村から対象となる世帯あてに送付)を市役所や役場に返送すると、指定した銀行口座に5万円が振り込まれ、次に高校2年生の子どもの給付を受けるために必要な申請書類(各市町村から対象となる世帯あてに送付)を市役所や役場に返送すると5万円が振り込まれ、さらに来年3月頃に市役所あるいは役場からクーポン券が郵便で送られてくることになる。

この場合、世帯ごとに申請を受け付けて現金給付のみで給付を行う場合と比べると、銀行振込の手続きが1回、郵便の送付の手間が1回余計にかかることになる(しかも、クーポンは金券なので書留郵便などによる送付が必要となる)。

このように、現金とクーポンの併用とすることで事務処理が煩雑になった結果、経費が1千億円近く割高になることも報じられているが、これは子育て世帯に対する今回の給付金の予算額(1兆9,473億円)の5%近い金額だ。

クーポンによる支給をやめてこの事務費の増加分を給付金に回せば、今回の給付の対象から除外された世帯の子どもの半分近くに給付を行うことができるという計算になるから、クーポン券を併用することの費用対効果は著しく低いということになるだろう。

当初案からの「改悪」

今回の現金給付は公明党が衆院選の選挙公約に掲げた「未来応援給付」を起点とするものだ。同党の公約集(「2021衆院選政策集」)には、「0歳から高校3年生まで全ての子どもたちに未来応援給付(1人あたり一律10万円相当の支援)を届けます」とあるが、このことからわかるように、今回の給付の当初案では所得制限なしの一律給付が予定されていた。

選挙期間中の説明によれば「1人あたり一律10万円相当の支援」は現金での給付が基本とされていたから、まとめると、この案は18歳以下の子どものいるすべての世帯に、子ども1人当たり10万円を「所得制限なし」の「現金」で給付するものであったということになる。

このような給付を行うことがそもそも適切なのかということについては、さまざまな意見があるものと予想されるが、もし仮にこの給付を是とする場合には、当初案のほうが現行の政府案よりも筋の通ったものということになる。

この案であれば、不備のある所得制限によって給付に不公平が生じることはなく、実質的な意味の乏しいクーポン券の発行のために事務費が嵩むこともないからだ。

もちろん一般論としては、給付にあたって所得制限を付すことには一定の意義があるが、その場合には給付の有無を決定する基準が合理性・妥当性のあるものとなっていなくてはならない。

昨年夏の現金給付(特別定額給付金)の当初案(所得制限付きの30万円の給付)においても見られたように、世帯主の収入を基準に所得制限をかけることについては、給付の公平性の観点から問題があることが繰り返し指摘されてきた。

今回の給付案に対してなされた「大変不公平な状況が起きる」(高市早苗政務調査会長)、「世帯合算が当然」(福田達夫総務会長)との指摘は、この線にそった妥当なものだ。

にもかかわらず、今回の給付における所得制限は児童手当の給付に利用されているものをそのまま援用する形となったため、世帯主の収入をもとに支給の有無を決定する児童手当の問題点をそのまま引き継ぐものとなってしまっている。

まぜるな危険:「迅速な給付」と「所得制限」の仕分けが必要

このような問題点があるにもかかわらず、児童手当の枠組みを利用して今回の給付が行われることとなったのは、既に手元にある児童手当の受給者の情報(銀行振込の口座番号など)を利用することで、申請を待たずに迅速な給付を行うことができると考えられたためだ。プッシュ型でスピード感のある給付が実現するとのPRも各方面でなされている。

だが、このようなメリットについては相当割り引いてみることが必要だ。留意すべき点のひとつは、「迅速な給付」が公的な給付における公平性を損ねる形で実施されることになってしまうということだ。

もうひとつは、児童手当の枠組みを利用して給付をすることができるのは現に児童手当を受給している世帯に限られ、16~18歳の子どもを対象とした給付金については今回も申請を受け付けたうえで給付を行うことが必要になるということだ。

15歳以下の子どもに対する給付についても、交付にあたって受給者の意思確認が必要となるから(この給付金は民法上の贈与契約(民法第549条)にあたるため)、書面のやりとりを経ずに行政の側から自動的に給付を行うプッシュ型の給付は、実際には実現できないことになる。

このような混乱が生じてしまうのは、世帯単位で収入を集計する準備を怠ってきたにもかかわらず(現在の技術や情報のもとでも世帯単位の収入の把握が可能であることについては後述)、「迅速な給付」と「所得制限」の間のトレードオフを十分に考慮しないまま、外形的に両者の要件を満たしたような体裁をとって給付を行おうとしているためだ。

このような中途半端な対応によって問題が生じることを避けるには、所得制限なしで一律給付を行うことで「迅速な給付」を確保するか、「迅速な給付」を実施する世帯の範囲を絞ったうえで(この具体的な方法については後述)、それ以外の世帯については支給の基準を世帯主の収入ではなく世帯合算の年収に置き換えて給付を行うことにするか(所得制限の基準となる年収の具体的な水準については現在の案によらず柔軟に見直すことができる)、いずれかの対応を採ることが必要ということになる。

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