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壇蜜を分析する(2)〜女性へ向けるエロティシズム

壇蜜は女性にウケる

前回は壇蜜というグラビア・タレントが男性に向かって放つエロティシズムの構造について記号論的に展開した。つまり壇蜜という存在は姿態や容姿などの「モノそれ自体」ではなく、意味現象=その「動き」に男性が見出す意味にエロティシズムがあることを指摘しておいた。

ただし、これくらいのエロティシズムなら、他の女性タレント(一般に「セクシー女優」と呼ばれる類いのそれ)が備えているともいえる。だから、前回の議論を自ら否定するような言い方になるが、これだけでは壇蜜のエロティシズムを語るのは不十分だ。ということは、壇蜜にはそれ以外にもさまざまなエロティシズムの要素があるとみなさなければならない。そこで今回はこれについて考えてみよう。それは壇蜜のエロティシズムが、なんと女性にも向けられている点だ。

女子学生について壇蜜の評価を訊ねてみる。すると、意外なことにその反応は概ね良好、肯定的だ。賞賛レベルだと「スゴイ」「がんばっている」「カッコイイ」「かしこい」、ニュートラルな表現だと「自分の売り方をわかっている」「したたかに計算をしている」といったところ。一方、「女のエロをウリにしている」とか「女性蔑視だ」とかいったジェンダー=フェミニズム的な批判はほとんどないのだ。一見するとどう見てもジェンダー的には「女性劣性」的な売り方をしているにもかかわらず、だ。

「壇蜜」と「檀れい」は女子学生の評価が正反対

僕がこの時思い浮かんだのが、もう一人の「壇」のついたタレント=女優の檀れいだった。同じ壇でも檀れいの場合、女子学生たちの評価は正反対、「嫌なヤツ」だったのだ。これはサントリーが壇を起用して行っていた第三のビール・金麦での壇の演技を受けてのものだった。

このCMシリーズの中で、壇は専業主婦として夫の帰宅を待ちながら、夫のために料理を作ってみたり、食事をしながら夫に自分が愛くるしい存在に見えるような(古い言葉を使えば「ブリッ子」的な)仕草をしたりしている(子どもが出てこないので、新婚であることが示唆されている)。これが、どうやら「男性優性の女性蔑視」「専業主婦として飼われた存在」のように女性には思えたのだろう(まあ、確かにそうだけれど)。

つまり「女性劣性」。このCMの檀れいについては、ネット上でも結構批判されたりしていた(ということは、演技に対して見ている側を感情的にさせることに成功したわけで、檀れいという女優は「なかなかの名優」ということになる)。

つまり檀れいのこの演技は壇蜜同様、男性には受け入れられてはいた(檀れいは「愛くるしい存在」 、壇蜜の場合は「エロい存在」としてだが)のだけれど、女性には受け入れられなかった。ここには、壇蜜=女性の味方、あるいは肯定すべき存在、檀れい=女性の敵、あるいは否定すべき存在という図式が存在する。

デノテーションとコノテーション

二人のこの違いはどこに見出すことができるのだろうか?これを理解するためにここで再び記号論のデノテーション(表示義)とコノテーション(共示義)という概念を用いてみたい。この概念を理解するには「ベタな意味」と「メタな意味」の使い分けというシチュエーションを思い浮かべていただければわかりやすいと思う。つまりデノテーションはベタ、でコノテーションはメタ。

われわれはしばしば言葉に二つの意味を付与することがある。モノをもらった時、われわれが相手に返すのは「ありがとう」とか「申し訳ない」ということばだ。このときのこのことば(=記号表現)の意味(=記号内容)は「感謝している」「うれしい」といったところだろう。

で、この際にはことばに対する意味は1対1対応している。つまりそれ以外の意味は無い。

ところが、不要なモノをもらったときに、そのことを第三者に「ありがたいものをもらったよ」と表現した場合はどうなるだろう。この時、ことば(=記号表現)「ありがいものをもらったよ」のベタな意味=デノテーションは先ほどの例と同様に「感謝している」「うれしい」だが、本当の意味、つまりメタ=コノテーションは「ありがた迷惑」「いらない」ということになる。

もう一つ例を挙げよう。「僕のクルマはメルセデスベンツ」(=記号表現)と発言した場合、このデノテーションは「クルマを持っている」だが、コノテーションは「自分は社会的勝者だ」「オレはイケてる」となる場合がある。そして、われわれはベタにことばを使いながら、しばしばこのメタ=コノテーションを用いている。

反転する壇蜜のエロティシズム

これを二人の壇にあてはめてみよう。二人とも女優という記号表現を備え、「男性に媚びを売る」という記号内容=デノテーションを備えているという点では同じだ。つまりともに「男性優性の女性劣性」というレベルは同じ。

ところが、コノテーションレベルではこの「媚び」が全く正反対になっている。

檀れいの場合には「この後、いずれ男性のなすがままに犯される女性」という、デノテーションと同じ「女性劣性」がイメージされるようになっている(CMのカメラは、明らかに彼女を視姦する夫の視線だ)。

ところが壇蜜はデノテーションにおける「媚び」が、コノテーションにおいては反転する。つまり、「女性劣性」を武器に男性に積極的に働きかけてくるのである。わかりやすく言い換えれば檀れいは「男性に犯される」、壇蜜は「男性に犯させてやる」となるのだ。

こうすることで壇蜜のエロティシズム=女性劣性には突然、主体性が付与される。つまり、デノテーション=ベタ的には女性劣性という不利な条件を、自ら積極的にコントロールすることで、男性に対してイニシアチブを獲得するというコノテーションへと転換してしまっている。

つまり「女性劣性」という記号を形式的に用いて、その実「女性優性」を実現してしまっている。だからこそ、女性たちには壇蜜が「スゴイ」「がんばっている」「カッコイイ」「かしこい」「自分の売り方をわかっている」「したたかに計算をしている」存在に映るのだ。

しかし、である。こういった反転させた女性タレント、実はこれ以前にも存在したのだが……だがやはり、壇蜜はかつての女性劣性のエロティシズムを反転させたタレントたちともちょっと違っている。一枚、手が込んでいるのだ。では、それは何か?(続く)

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